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第17話 王様

「孤児ですか……」

「そう、孤児じゃ。あいつと宰相はじつは血がつながっておらん」

 いまの境遇とはまったく違う単語がでてきたことにわたしは動揺する。最初は単語の意味さえよくわからなかった。


「あいつは3歳のとき、両親を流行り病で相次いで亡くしたそうじゃ」

「……」

「身近に頼りになる親戚もいなかったやつは孤児院に預けられた。よく聞く話じゃろ」

「はぁ」

「そのときのことは、あいつはよく語りたがらん。あんまり、よい思い出ではなかったのだろう」

「……」

 相槌も入れずわたしは黙って聞く。


「しかし、あいつには魔術師としての才能があった。もしかすると、史上屈指の才能の持ち主なのかもしれんな。もちろん、最強はわしじゃがな」

「ふふ」

 重い話だが、軽口を入れることでわたしが落ち込まないようにしてくれているのだろう。性格が違う師弟だが、根っこのところにあるのは同じのようだ。


「やつはメキメキと頭角を現した。その魔力は同年代のこどもでは太刀打ちできるものではなかったのじゃ。しまいには義務教育の学校の教師では相手にならないレベルになっていたそうだ」

「すごい、ですね」

「ああ、すごかった。やつは8歳にして、国立魔法大学に入学した。これはいまだに破られていない史上最年少記録じゃ」

「そこではじめてお会いになったんですか?」

「そうじゃ。先代の王は直々に「やつの教官となってくれ」とわしに依頼してのう。そのころ、すでにやつの名声は他国にまで響いていた。天才少年現るとな」

 村長さんはなつかしい顔でそういった。


「そうして、やつはわしの弟子となったのじゃ。昔から生真面目すぎておもしみに欠けるやつじゃったわい。遊びを教えようとしてもいつも拒否されてしまったわい」

「変わらないですね」

「ああ、変わらない。齢13にして、大学を卒業した後は王宮付の魔術師として役人の人生を選んだ」

「順調なエリートコースですね」

「うむ。もうその時点で、ほとんどの大人はあいつの敵じゃなかったのだ。そして、後継ぎがいなかった先代王の計画は実行に移された。養子縁組をおこない、あやつを後継者に指名したのじゃ」

「すごいですね」


「この国ではたまにあることなのじゃ。農業国である我が国は、魔術師によって国が動いておる。だから、王は偉大なる魔術師でなければいけない。みんながそう思っているのでな。後継者に問題がある場合やいない場合は、国1番の魔術師に王権を禅譲することが美徳という考えだな。先代もそれにならった形じゃろう」

 村長さんは一息ついた。

「その時はやつにとっては一番幸せな時間だったのだろうな。いまでも楽しそうにあのときを話しているよ。やつにとってははじめて手に入った家族だったのだから」

「……」

 リストラという形で世間に否定されたわたしにとって、ズシリとくる話だった。


「先代の王と王妃、そしてやつの関係はとても良好だった。ふたりは実の子のように接してくれた。やつはいまだにそれを感謝している」

「でも、宰相さんは?」

 わたしはいままで、話にでてこなかった弟さんの話題を振る。

「そうじゃ。やつが後継者に指名されてから、数年後。国王夫妻は奇跡的に実の子を授かったのじゃ」

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