第0話 リストラ
「葛城君、明日からこなくていいから」
上司から言われた一言はドライアイスのように冷たく、わたしの心に突き刺さった。
今日、六年勤めた会社をクビになった。リストラだ。不況による部門消滅。わたしの所属していた部門は解散となり、その部門の専門職だったわたしはきれいさっぱり用済みになった。不況だから、そんなわたしを引き取る余力なんて会社にはない。別の働き口を見つけてくれ。遠回しにそう言われた。
「仕事ってこんな簡単になくなるんだな……」
わたしはそうつぶやく。実感はなかった。言葉では理解していることが、頭まで届かない。そんな感じだ。ただ、ショックだった。仕事がなくなるということよりも、必要とされていた組織に用済みと言われたことが一番のショックだった。あたりは日も沈み、サラリーマンたちが「飲みにいくぞ」と叫んでいる。
いつもの光景だが、今日のわたしにとっては辛いいつもの日常だった。わたしの日常はもうそこにはない。彼らと同じ時間を過ごすことはもうできないのだ。
葛城綾。女。二十八歳。独身。ひとり暮らし。来月より無職。客観的なわたしのステータスを考えてみる。どう考えても絶望的状況だ。仕事が趣味と言っていた社畜が、勤める会社をなくしたのだ。忙しすぎて、恋人や趣味を作る時間もなかった。そんな私から、仕事をとったらなにが残るのか。なにも残らない。当たり前のことだ。
「はじめて使った有給が、次の仕事探しのための三十日とか笑える」
から笑いしかでてこない。待ち望んでいた休暇が、こんな悲惨な休暇になるなんて思いもしなかった。
「終わるのかな? わたしの人生」
星もみえない都会の空にむかってわたしはつぶやく。もうなにも残っていないわたしは、虚しいつぶやきだった。救いなんてどこにもない。
いつの間にか駅のプラットホームにわたしはいた。どうやってここまできたのかわからない。
「いっそのこと、このまま……」
わたしはバカで最悪の考えに支配されていた。
その最悪の考えを実行に移そうとしたその時、突然、世界はグルグルと回りはじめた。眩暈? ストレスのせいだろうか? わたしは気持ちが悪くなり倒れ込んだ。しかし、そこにあるはずの地面はなかった。闇のなかへ、吸い込まれていく。そんな、感覚だった。
このまま、死ぬんだな。そう、直感した。せめて、死ぬときは誰かに看取ってもらいたかった。愛されたい。必要とされたい。それがわたしの偽りない本心だった。
目がさめた時、私は……