第15話 きす
「「「「キース」」」」
かけ声はどんどん大きくなる。わたしたちは顔を見合わせた。
お互いの顔はかなり赤みをおびていた。
それは夕日の日焼けなのか。それとも祭の高揚感なのか。
たぶん、どちらでもないのははっきりしている。
普通に恥ずかしいのだ。心臓の鼓動が相手にまで聞こえそうになる。
どうしよう。わたしは不安になった。こういうシチュエーションはたまに遭遇した。会社の飲み会のときだ。
あの時は「もうセクハラですよ」という魔法の言葉が使えたが、異世界ではたぶん通じないだろう。
村長さんが邪悪な笑みを浮かべている。
(絶対に謀られた)
わたしはそう確信した。
王様と目が合った。目が合った時、すべての喧騒は消えて、この世界にふたりだけになってしまったような気分になった。わたしの頭は真っ白だった。
真っ白な頭で、すべてを感覚にまかせる。そして、わたしの唇は、王様の顔に近づいていく。
「えっ」
王様が変な声をあげた。今日は王様の意外な一面ばかりみている気がする。頭は真っ白なのに、変に冷静なわたしがいた。
<ちゅ>
ふたりが触れ合う音がする。
王様の頬は少しひげが残っていてチクチクしていた。ふたりの顔はさらに赤くなる。
「今日はこれ、くらいで」
わたしはうつむきながら、そういうのが精いっぱいだった。祭りの盛り上がりは最高潮に達した。




