第9話 歴史
「イースト村に着きましたね」
ふたりの話が盛り上がっていると、いつの間にか時間は過ぎ去っていた。もう少しだけふたりでお話をしていたかった。わたしは少し残念に思う。
「では、行きましょうか」
「はい」
馬車をでた先に待っていたのは……
「陛下、お待ちしておりました」
鬼のようなモンスターだった。角が生えていて、肌が赤か青。身長は3mくらいあるだろうか。
「ああ、待たせたね」
王様は気さくなあいさつをして平然としている。
「……」
本当に驚くと、悲鳴すらあげられないんだとわたしは学ぶことができた。なにここ、異世界?。イエス、異世界(錯乱)。
わたしは驚いて馬車の中で固まってしまった。
「カツラギさん、だいじょうぶですか?」
王様は心配してくれている。
「あっ、あっ」
わたしは言葉にならない返事をする。
「そうでしたね。大事なことを説明していませんでしたね。彼らは魔人といって、魔大陸出身の住民です。少し怖い顔していますが、とてもやさしいですよ」
「申し訳ございません。カツラギ様。びっくりさせてしまいましたね」
鬼たちは丁寧に謝ってくれた。顔に似合わず、とても礼儀正しいひとたちだった。
「干ばつが起きた際に、魔王様が援助のために派遣してくれた人たちなんですよ。力が強いので、復興にとても協力していただいているんですよ」
「そう、なん、ですか。こちらこそ、失礼しました」
わたしは一息つくと、王様に問いかけた。
「人間と魔王は協力関係なんですか?」
物語では大抵、両種族は対立関係にある。
「そうですね。250年前まではお互いにいがみ合い戦争が起きていました。ただ、その戦争が終わって、和平が結ばれた以降は、信頼関係を築くことができています。戦争も1度も起きていませんし、交易や文化交流も盛んです。特にわが国は、魔族と友好な関係を作れていますね」
「戦争ですか……」
鬼たちもうなづく。
「はい、悲しい歴史です。発端は人間と魔人の休戦ラインで、小競り合いが起きたことでした。アグリ国を含む4大国が、連合を組み魔王軍に宣戦を布告。報復の応酬となり、戦禍は世界中に広がったそうです」
王様はそういって続ける。
「戦争の最終局面で、4大国連合は魔王軍の本拠地、魔大陸に侵攻しました。それに対して、魔王軍は総大将の魔王様が前線に出陣し、総力戦となったと聞いています」
赤鬼はそう説明してくれた。
「最後の戦いとなった<ダイナモ会戦>で、そこまで戦況を有利に進めていた人間軍は壊滅的な被害を受けました。4大国の王のうち3人が犠牲となったそうです。また、魔王さまもその際に重傷を負い、痛み分けとなりました。双方、これ以上の戦争継続は不可能となり和平が結ばれたのです」
青鬼も続ける。
「その後の和平交渉で、双方、この悲劇を繰り返さないことにすることで合意し、積極的な交流が約束され、平和条約が結ばれたのです。人間、魔人双方に数千万単位の犠牲がでたと言われています」
「……」
「悲しい話になってしまいましたね。でも、それ以降は人間と魔人が酒場で酒を一緒に酌み交わすことも珍しくないことになったのです。この村のように、共存共栄ができている場所すらある」
「なるほど」
「陛下、お待ちしておりました」
ひとりの老人が村の入り口に立っていた。村長さんだろうか?
「陛下はやめて下さい、お師匠様」




