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冒険者になろう2

「それでも嬢ちゃん達が来てから量も質も上がってるんだよ。それ自体は結構なんだが……嬢ちゃん達の立場が一般人って言うのがどうもな」


 ベリオルズいわく、ここ最近『黒髪の少女魔術師が率いる冒険者のパーティー』に関する問い合わせが相次いでいるとのことであった。その相手のほぼ全てが希少素材の買い付けにやってくる商人達である。

 クランバートにおいて、ここ一ヶ月で希少素材の入荷が飛躍的に増加したことは、少しやり手の商人ならば少なからず耳にするはずであった。そして儲け話を聞きつけてやってきたならば、このお祭り騒ぎの中心にセレスティナがいることはすぐに気付ける。

 そして利に聡い商人達ならば、冒険者の中心となって動いている実力者に繋ぎを取ろうとするのが必然であった。そして相手は頻繁に冒険者ギルドに出入りしているのだから、街の外から来た商人達は当然冒険者ギルドに問い合わせることになる。


「――そんでまあ、今は便宜的にギルドが繋ぎを取ってるわけなんだが、肝心の嬢ちゃん達は冒険者者じゃない。今はまだなんとか誤魔化せてるが、そろそろ嬢ちゃん達が実は一般人だって感づく奴が出てきてもおかしくない状況だ」

「……そこに何の問題が?」

「簡単に言や、後ろ盾の問題だ。脳筋揃いの冒険者が口の上手い商人相手になんで対等な契約ができるかって言うと、ギルドがバックに付いてるからだ」


 元々冒険者の互助組織である冒険者ギルドは、常駐する魔術師により遠隔の連絡手段を擁しており、横の連携を密としている。もし悪辣な手口の依頼人が現れたならばその情報が速やかに拡散され、それ以降どこのギルドに行ったとしても、それがブラックリストに載っている相手からの依頼と判明すれば決して受けることはない。

 そしてこのペナルティは、商人にとっては致命的であった。素材の採取や移動時の護衛はもちろん、拠点の警護や臨時の人足として冒険者を雇えないというのは、事業規模の拡大に大きな枷を付けられるに等しい。

 もちろん私設の警護部隊や探索部隊などを抱えていられるならば問題はないだろうが、必要な時だけ招集するならともかく、常設するとなればその維持費が馬鹿にならない。そして人員にしてもギルドで依頼として募集するのが最も手っ取り早く確実であり、そうでもなければ大半がチンピラまがいのならず者となることは灯を見るより明らかであった。

 そういった事実はすでに広く知れ渡っている事であり、つまるところ冒険者ギルドに目を付けられるような商人は誰にも信用されなくなる。だからこそ、冒険者達は対等な立場として海千山千の商人達とも契約を交わすことができるのであった。


「――だが、冒険者じゃない嬢ちゃん達はその庇護下にないってことになる。冒険者ギルドがかばえるのは冒険者だけっていうのが取り決めだからな。だからもし商人の方が無理難題を吹っ掛けたって泣き付かれても、相手に『一般人の取引に冒険者ギルドが口を挟むつもりか』って言われたら引き下がるしかできないんだよ」

「ご心配なく。そのような不貞の輩は我々が斬って捨てます」


 そんなアレイアのにべもない態度に、けれどベリオルズは怒るでもなく逆に苦笑した。


「だから逆に心配なんだよ。お前達、嵌められたからって相手を片っ端から斬るつもりか? そんな危険人物はすぐさま手配がかかって追われることになるぞ。それに商人を甘く見るなよ。気が付かないうちに外堀を埋められて、ようやく悟った時には雁字搦めって話はごまんとあるぞ?」

「……一理ありますね」

『一理どころか一々もっともだと思うがの?』


 ボソリと呟かれたグウェンの一言を意図的に無視し、アレイアは仮面の目をベリオルズに向けた。


「そんな忠告をわざわざ我々に行う理由は?」

「ギルドとしても、嬢ちゃん達みたいな実力者が下らん事で潰されるのは是非とも避けたいんでな。まあそんなタマでもないとは思うが、万が一の保険だと思って冒険者になっとかないか? んで、あわよくば貢献してくれるとこっちも助かる」

「庇護以外の利点は? 庇護を受ける代償は?」

「ギルドの発行する冒険者証を持っていれば、ギルド関係の施設がある街なら基本的に世界のどこだろうと出入り自由だ。ルースから見聞を広げる旅の途中だって聞いてるが、それにうってつけの身分保障になるぞ。路銀を稼ぐにもいい。その代わりにギルドには定期的に顔を出して依頼をこなしてもらわないといかん。でないと半年ほどで登録を消さざるを得なくなる。さすがに身分だけで何もしないような穀潰しを庇ってやる義理はねぇからな」

「それは当然でしょうね」

「あと、ギルドから発行する依頼は仲介料を天引きしてある。その分依頼人から直接受ける場合と比べたら安いが、代わりに可能な限りの裏取りをした依頼しか扱わんから、実働以外でのリスクの低さは保証できるぞ。大きな所だとこんなもんだな」

「なるほど、わかりました」


 聞くべき事を聞き終えたアレイアは一つ頷くと、いつの間にか空になった皿を見つめて名残惜しそうにしていたセレスティナに判断を仰いだ。


「セラ、冒険者になることは我々にとって利点の方が多いようですが、いかがしますか?」

「じゃあ、ぼうけん者になりましょう」


 ここまでビスケットもどきを堪能しつつも話はしっかりと聞いており、腹心から肯定的な意見を述べられたセレスティナは迷うそぶりすら見せず即答した。


「どうすれば、ぼうけん者になれますか?」

「話が早くて助かるぜ。なに、ちょっとばかし実力を見せてもらうだけでいい。面倒な手続きはこっちで済ませておくからな」

「『実力を見せる』とは、どうすればいいですか?」

「簡単さ。ギルドが指定する相手と軽く模擬戦をしてくれればいい。だがまあ今日の所はそっちも帰ってきたばかりだし、こっちも色々と用意があるから……そうだな、明日またギルドに来てくれるか?」

「わかりました!」


 どうやら自分達の実力を示す機会が得られそうだという話に、両の手を握りしめてムンと気合いを入れるセレスティア。寝物語に聞かされた『死人の魔王』の英雄譚にあった強さを誇示して相手を従える場面を思い出し、それに倣うべしとすでにやる気十分であった。残念ながら、すでに冒険者達の間で一目置かれる存在になっているという自覚はなかったりする。

 そしてそんな主の様子から色々察しつつも、特に不都合もないからとすでにそっとしておく方針を固めている下僕(ゾンビ)一同。


「主題は終わりましたね? 他にご用件は?」

「それ以外ってことなら特にはないが……そうだな、せっかくの機会だし伝えておこう」


 用が終わったならといわんばかりのアレイアの言葉に、ベリオルズはどこか気の抜けていた雰囲気を正すと、おもむろに深く頭を下げた。


「一度は道をなくした連中に希望を与えてくれたこと、礼儀のなってない荒くれ連中に手を貸してやってくれたこと、このギルドの長として感謝する。ありがとう」


 まるでどうしようもなく手のかかる馬鹿な子供達を見守るような表情のベリオルズに対し、セレスティナはその華奢な容姿にふさわしくふわりと微笑んだ。


「みなさん、わたしの大切な『お友達』ですから」


 知己に惜しみなく力を貸す聖女のような、その実下僕を慈しむ魂霊術師(ネクロマンサー)としての言葉をなんのてらいもなく口にしたセレスティナは、慇懃な暇乞いをすると執務室をあとにした。

 そのまま階下に降りていけば、未だ素材の査定で賑わうロビーからその姿を認めた相手が声をかけてくる。


「セラ! ベリオルズさんに呼ばれたみたいだけど、何があったんだ?」


 人混みをかき分けながら歩み寄ってくるのはルース。最近ではもろもろの事情によってほとんど常にセレスティナに同行しているため、もはや当然のようにその行動を気にかけるようになっていた。彼の中ではほとんど仲間扱いなのであろう。

 そしてセレスティナとしても魔境の奥地を出てから一番早く知り合い、何くれとなく世話を焼いてくれる友人(ゾンビ)にはすっかり気を許しており、なんの気負いも見せない笑顔で朗らかに答えた。


「ルースさん! わたしは、ぼうけん者になります!」

「え? えっと……あーうん、なるほど、そういう話だったわけか」


 さすがに端的すぎる報告に虚を突かれたようであったが、ここ最近のセレスティナを取り巻く環境から当たりを付けたルースは納得顔になって頷いた。時々忘れそうになるのだが、目の前にいる規格外の少女はあくまで『一般人』にカテゴリーされるのだ。先達より教えられた世の中のしがらみに関するあれこれを思えば、この善良に過ぎる少女がしっかりとした後ろ盾を得られるというのは歓迎すべき事である。


「おい、聞いたか! セラちゃんがとうとう冒険者になるってよ!」


 そして近くにた冒険者が耳ざとく聞き取った事を興奮混じりに周囲へ伝達すれば、すぐに周囲は大きな歓声に包まれた。


「そいつは頼もしい! これで嬢ちゃんも晴れて俺らのお仲間って事だな!」

「そう言えば、セラちゃんってまだ冒険者じゃなかったのよね! 忘れるところだったわ!」

「セラが本格的に冒険者始めるなら、オレたちゃ商売上がったりかもな!」

「違いないですね。ですが恩人に無様を見せぬよう、いっそう精進しましょう!」


 彼らとて魔境に足を踏み入れる一流の冒険者である。ベリオルズ同様の懸念を抱いていた者も少なくなく、またすでにセレスティナとの隔絶した実力を肌身に感じ取っている者ばかりであったため、誰もが彼女の参入を純粋に喜んでいた。


「はっはぁ、セラ嬢ちゃんが冒険者か! こりゃうかうかしてられねーなルース!」

「ガウル……」


 そんな歓迎ムードで湧き上がる冒険者達をかき分けて来た大柄な人影は、死の瞬間に居合わせたセレスティナに魂霊として拾われたガウルであった。その後ろにはライラとメルフィエの二人も続いている。

 本来ならば下僕の一人としてアレイアの身体に宿っているはずのガウルであるが、一度目の遠征の際に交わされた約束によってセレスティナによって生身の憑依体を与えられていた。そのため、現在は外見上は生前とほぼ変わらず、しかしながら総魔物製のため生前を凌駕するポテンシャルを秘めた存在となっていた。

 一見すれば完全な死者の蘇生――しかも強化した上での蘇生であり、誰もが一度は夢に見る奇跡の体現であり、当初はこれを目にした冒険者達が騒然とした。

 しかしながら魂霊術もれっきとした魔術であり、奇跡には当然代償が必要であった。


「ガウルさん、ちょうどよかったです。魔力をあげます」

「ん? いや、まだ動くには十分残ってるぞ?」


 セレスティナがてとてとと歩み寄って笑顔で手を差し伸べると、若干の困惑を浮かべながらそれを遠慮するガウル。しかしながらその返事を聞いたセレスティナは柳眉を寄せ、キッとした目つきでガウルを見上げた。


「だめです! 何かあったときのために、魔力はいっぱいにしておくのがいいです!」

「お、おう、わかった。よろしく頼むよ」


 文字通り命の恩人であり魔術的な主人である少女に叱られ、たじろぎながら承諾するガウル。そうすればセレスティナは満足そうに顔をほころばせると、その手を伸ばしてガウルの胸に触れようと――したのだが身長差の関係で若干届かず、眉をハの字にして困り顔になるセレスティナの背後から『主の手を煩わせる気か』と言わんばかりの殺気が発生。器用にも気の利かない新入りのみを対象にした最古参からの威圧に、ガウルは大慌てで片膝を着いて小さな主人が触れやすい体勢を取った。


「ありがとうございます、ガウルさん」

「あー……まあ、その、ドウイタシマシテ」


 それを下僕からの気遣いと純粋に受け取ったセレスティナが感謝を伝える中、仮面越しにも感じられる突き刺さるような視線から目を逸らしつつなんとか応えるガウル。魂霊となってまだ一月ほどではあったが、それでもセレスティナに対するアレイアの忠義具合とその他への容赦のなさは、それこそ魂に刻み込まれているのであった。

 そんな内心で恐怖するガウルの様子に束の間首を傾げたものの、特に問題はなさそうだと判断してその胸に片手を添えるセレスティナ。そうすれば彼女の魔力が淡い輝きとなって集まり、ガウルへと流れこむように移ろう。

 これが復活の代償にして制約。元々魂霊自体が術者の魔力を媒介にして死者の魂を留めているため、魔力の供給が滞ると存在を維持できずに消滅してしまう。セレスティナの場合、ただ魂霊として存在するだけなら最大でおよそ一週間は問題ないが、そこに憑依体の維持や戦闘行動などの激しい動きの再現が加われば一日保てばいい方となる。

 だからこそ、定期的に魔力の補給を行うためにセレスティナの傍を離れることができなくなる。ここ一月、ルース達がセレスティナと行動を共にしている大きな理由がそれであった。

 付け加えるなら、色々規格外のセレスティナといえども常に憑依体を維持するにはそれなりの負担がある。つまるところ蘇生可能な人数には上限があり、誰も彼もを無条件に復活させるわけにはいかないのであった。

 そんな魔術の仕様を丁寧に解説した成果もあり、あわや起こりかけた蘇生騒動はすぐに鎮静化され、冒険者の間では死者の蘇生に関する話題は避けることが暗黙の了解となった。その奇跡自体はあまりにも魅力的な話ではあるのだが、無理に頼もうにも常に傍で控える下僕二人にバッサリと斬り捨てられることが明白に過ぎたのだ。言葉を用いてのことは言うまでもなく、下手をすれば物理的に。

 そしてある種の特例であるガウルは生前の仲間と行動することを望んだため、常に傍に侍るアレイア達と比べると魔力供給の機会に乏しく、それでも下僕の意志を重んじるセレスティナはこうしてこまめな補給を心がけているのである。


「――ところでアレイアさん、冒険者になるなら試験みたいなのが必要なんだけど、それはいつ? もしかしてこれからとか……」

「それでしたらベリオルズ様より明日改めてとうかがっています」


 どこか神聖さを感じさせる魔力の補給を眺めながらふと気になったことをルースが尋ねれば、心配無用とばかりの即答が返ってきた。


「明日、ですか……」

「セラちゃんなら大丈夫でしょ! じゃあさ、今日は前祝いにパーッとやっとく?」


 予定を聞いてなにやら考え込む様子のメルフィエと、資格の取得は確定したものとして提案を行うライラ。そしてライラの発言が聞こえたらしい周りの冒険者達もそれはいいとばかりに勝手に盛り上がっていき、いつの間にかギルドの酒場を貸し切る話にまでに発展していった。


『……まあ、宴席というものをセラに経験させておくいい機会と考えておきましょうか』

『はっはっは、荒くれの宴は思う以上に騒がしいぞ? (ひぃ)様が目を回さねばよいのだがの』


 当人の意見をまったく省みることなく進行していく宴会の準備を、呆れた様子で眺めつつも主の祝い事に対して異論があろうはずもなく、情操教育の一環として折り合いを付けた下僕二人は酔漢からの死守を己の役目と課す。

 そんな中、魔力の補給を終えたことでなにやら周囲が騒がしくなっていることに気付いたセレスティナは、短い間にいったい何があったのかと不思議そうに首を傾げるのであった。



 そういえばまだ一般人だったネクロマンサーちゃん一行。

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