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最近のゾンビは新鮮です ~ネクロマンサーちゃんのせかいせいふく~  作者: 十月隼
一章 せかいせいふくの第一歩
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採取に行こう4

編集したはいいが、疲れのせいか投稿するのを忘れてました!m><m

「あー……よう、みんな。久しぶりだな」

「……ガウ、ル?」


 とりあえずといった風にヒラヒラと片手を振りながら気の抜けた挨拶を放つガウル。それに対して呆然としていたルースが掠れたような声でその名を呼んだ。彼を筆頭に誰もがまるで信じられない物を目の当たりにしたかのような表情だが、それもそのはずだ。なにせ全身が土色なことと身に纏う鎧じみた装甲以外は、体格から顔立ち、声に所作といった何から何まで彼らがよく知る故人の物だったのだから。

 死したる者の完全なる再現――それこそがいにしえの魂霊術師の中でも『死人の魔王』に直接仕えた三幹部が一人、グラーケンラッハ・ヴォルフシュトラ・グルーツェンラッドが得意とした魂霊術であり、その血族であり正当な後継でもあるセレスティナも生前の状態を再現した精緻な憑依体を作製することができた。それは例え元となる素材が土であろうが関係はない。

 あまりの事態に声も出ない様子の一同を見回した土塊のガウルは、しかしながら人さながらに肩をすくめてみせた。


「まあ、色々言いたいこともあるのは察するけどよ、オレだってなんもかんも答えられるわけじゃねぇし、今はとりあえず目先の依頼に集中しようぜ。オレも手伝うからよ」

「……そうだな。うん、ガウルがいてくれるなら心強いよ」

「またよろしくね、ガウル!」


 未だ驚きは醒めやらぬ様子だが、それでも元から魂だけの存在になってこの世界に留まっているガウルの存在を認識していたルース達は早々に立ち直り、かつて身を挺してまで自分達を守ってくれた大切な仲間を快く迎えた。


「それにしても、あの短時間でここまで仔細な人型を作り上げるとは……やはりセレスティナの魔術師としての能力は極めて高い――っ!?」


 同様にいち早く我に返り、下僕(ゾンビ)としてのガウルの肉体の出来に感心と畏怖が混ざった感想を漏らしたメルフィエだったが、そのまま何気なく術者であるセレスティナの姿を追って今度こそ絶句した。

 いつの間にか少し移動していた彼女を中心に魔力によって大きな三角形が描かれ、さらにはその頂点の一つずつを基点とした六芒陣が描かれていたのだ。それは複合魔導陣と呼ばれる、文字通り複数の魔導陣を連結させて効果を高めたり同時に魔術を使用したりするためのもので、ただでさえ難度の高い魔導陣を描く技術の中でもさらに高度な技能が必要とされるはずであった。


『――配置、完了しました、セラ』

『ありがとうございます、アレイア。では皆さん、よろしくお願いします』


 そんなセレスティナの周囲を巡って所定の位置に魂核晶を置いて回ったアレイアが作業の完了を知らせると、集中に入るセレスティナに応じるように全ての魔導陣が一斉に輝きを強めた。

 そして先端にあるそれぞれの六芒陣直下の地面が瞬く間に軟化すると、事前に据えられていた中身入りの魂核晶を中心に先ほどの行程が焼き直されるように進められ、さほど時間をかけることなく三人の土塊の戦士が組み上がる。

 できあがった身体を各々が確かめるように動き出す頃には基礎となっている三角形が角度を変え、少しずれた位置であらかじめ配置済みの魂核晶を中心に再び人型が生み出される。


「……ふぅ」


 都合六度、同様の行程を終えてさすがに疲労を滲ませたセレスティナが魔導陣を消す頃には、装甲となる部分の形状自体はガウルのものとほぼ共通しているが、体格や顔立ちはそれぞれきっちりと異なる土塊の戦士が男女交えて十八体、小さな魂霊術師(ネクロマンサー)の周囲に顕現していたのであった。ガウルの憑依体は初めての作製であったゆえ専念したセレスティナであったが、そうでなければ一度作製したことのある憑依体を再度作り上げることは彼女にとって比較的簡単なのであった。


『おー、久しぶりのシャバ!』『やっと普通にセラのお役に立てるぅ!』『身体が鈍ってなきゃいいんだが……』『鈍るような身体がねえだろ!』『違いない』


 それぞれが思い思いに自身の憑依体の具合を確かめつつ好き勝手に言葉を交わす様子をニコニコと見守るセレスティナと、さすがに途中で気づいてもはや開いた口がふさがらないといった様子のルース達冒険者一同。この短い時間で当初の倍近い人手となったのだから無理もないだろう。それも、身のこなしから――生身でないのは明確なためそう言い表すのがふさわしいかという疑問は残るが――して自分達と同程度の実力は備えていることが見て取れるのだから。それはもはや充分な『戦力』と呼んでも過言ではない。小さな町程度なら充分に陥とすことができるだろう。

 すでに魂霊の身ではあるが、どちらかといえばまだ冒険者寄りの感覚を持ち合わせているガウルも、事前に『そういうものである』という説明を受けておきながらやはり二の句が継げないでいた。そんな彼に、一息ついて振り返り、周りの様子を見て首を傾げつつも屈託なくセレスティナが話しかけた。


「ガウルさん、からだにへんなところは、ないですか?」

「……あーっとだな、今のところは特に何ともないぞ」

「わかりました。なにかへんなところにきづいたら、おしえてください。なおします」


 周囲の驚愕に反して大したことをした様子も見せないセレスティナ。実のところ憑依体の複数同時作製は魂霊術師の一門(グルーツェンラッド)でも精鋭にしかできない高等技術であり、さらには補助のための魔具すら使わずに一息で二桁を超える下僕を生み出すのはその内の一握りだけなのだが、それすらこの歳で可能にしてしまったことが彼女こそ『死人の魔王』の再来と褒め称えられた要因である。魂霊術師としては異端な性質を持つセレスティナは、その基本的な能力すら合わせて正しく『規格外』なのであった。

 そしてセレスティナの規格外はまだ終わらない。


〈皆、出番ですよ〉

〈よーし、がんばるぞ!〉〈お任せあれ、隊長殿〉〈セラちゃんのため!〉


 そう宣言するアレイアの声に応じるように、その仮面の下から魂霊が次々と飛び出してきた。瞬く間に仮面ローブの周囲を埋め尽くした光の塊はその数五十二。こちらは肉体がないものだから、現状では余人には聞こえない魂語りでしか語り合えないため表向きにはやかましさはない。しかしながら個体によってはフラフラと漂ったり空中を跳ねるように旋回したりと、傍目にはまるでショーのような一種独特の賑やかさが滲み出ていた。

 これら純粋な魂霊勢に加え、アレイアやグウェン、そしてガウルを含んだ土塊の戦士達、総勢七十三名がセレスティナの契約する魂霊の全てであり、つまるところこの場にその全てが現れたことになる。《魂霊従属(エンゲージ)》の中に隷属のための術式がないも同然のため必要な魔力が大幅に削減されているとはいえ、この数は常時従えることのできる魂霊の数としては一門の中でも破格であった。

 ……もっとも、これでも伝え聞く『死人の魔王』の偉業に比べれば遙か遠く及ばないからこそ、一部とはいえ一門の思考に染まりきっているセレスティナが未だに満足することはないのであるが。


〈――整列!!〉


 そんな中、魂語りを用いているとは思えないほどの気迫が込められたアレイアの号令に、各々気ままに動いていた下僕達がどやどやと小さな主の元へと集う。『そっち詰めろよ!』〈ちょっと、あんた確かそっちでしょ!〉『待て待て、お前が前だと後ろが見えないだろ!』〈おい、広がりすぎだ!〉などなどそれぞれの言語でわいわい言い合いながらその位置を取っ替え引っ替えしながら徐々に隊列を組んでいく。


「……機会を見て訓練を施すべきでしょうか?」

『まあ全てが近衛殿のような騎士というわけでもないのだから、そう目くじらを立てなさるな』


 小さな主直属の下僕ということでセレスティナの背後に控えていたアレイアとグウェンであったが、今ひとつ統率感に欠ける光景に対して声に苛立ちを滲ませるアレイア。そのもたつき具合をセレスティナが気にする様子もなくニコニコと笑顔で見守っていなければ即座に有言実行しかねない様子に、グウェンが笑いながらたしなめるのだった。

 やがて立ち位置に納得がいったらしく、セレスティナの目の前には二列の横隊で立ち並ぶ土塊の戦士達と、その頭上を飾るように等間隔に浮かぶ魂霊達といった光景が完成した。


〈皆さん、今日はよろしくお願いします〉

〈今回の探索にあたり、実体持ちは冒険者達と連携して近辺を担当、そうでない者は遠隔地の探索を担当してください。最低でもペア以上の行動を心がけるように〉


 親しい下僕達に礼儀正しく挨拶を送るセレスティナに続き、最古参の下僕であるアレイアが同僚達に最終確認を兼ねて伝達を行う。それに対しててんでバラバラに返ってきた応答に一瞬苛立ちの気配を強くするものの、間を置かずグウェンに軽く肩を叩かれてなんとか自制した。彼女の心優しい小さな主は下僕同士の諍いが起こると顔を曇らせるのだ。これから本格的に行動に移るという時につまらないことでセレスティナを煩わしては、主が許しても彼女自身が許せない。


「――あ」


 そんな中、不意に何かを思い出したかのような声を漏らしたセレスティナへ、即座に反応したアレイアが問いかける。


「どうかしましたか、セラ?」

「……パヴェリアさまのまぐを、つかわないといけませんでした」

「……ああ、そう言えばありましたね」


 顔を曇らせしょんぼりと肩を落とすセレスティナの言葉に、パヴェリアからの『魔測り水晶に込めた魔力を抜いてくるように』というお達しを完全に失念していたことに気づいたアレイア。

 多数の憑依体の作製というものは、本来ならば魂霊術において多くの魔力を必要とする魔術である。セレスティナとしてはその補助としてパヴェリアに託された魔測り水晶の魔力を使用するつもりであったのだが、起き抜けであったということも合わさってかすっかり頭から抜け落ちていたようであった。なまじ何の補助もない素の状態で成し遂げてしまえる程度の魔力があったことも一因だろう。


「どうしましょう……」

「お許しください、セラ。私としたことが失念していました。しかしながら後ほど機会もあるでしょうから、そう気を落とさないでください」

『そうだぞセラ』〈けっこう時間かかりそうだからなー〉『心配しなくてもそのうち使うって』〈むしろ予備にとっとくのもあり?〉


 自身のうっかりで言いつかった役目を達する機会を逃してしまったことに落ちこむセレスティナと、それを慰めるアレイアを筆頭とした下僕達。なお、アレイア以外は人事のように語っているが、魂霊全体で情報は共有されているにも関わらず誰もが指摘しなかった時点で同罪であったりする。


「……そうですね。つぎはちゃんと、つかいましょう」


 とにもかくにも気を取り直したセレスティナは気合いを入れ直すようにぎゅっと両手を握りしめ、笑顔を取り戻すと元気よく振り返った。


「おまたせしました。では、しゅっぱつしましょう!」


 そんな無邪気なかけ声に、ここまでのことを声もなく呆然と見守っていた同行者達はかろうじて頷くことが精一杯だった。



 これぞ使役系魔法の真骨頂、その名も『一人で軍隊できるもん(ワンマン・アーミー)』! セレスティナにとってはこれも序の口だったり。

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