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20.命をつなぐ

雨がやんだ。遠くの山に虹がうっすらとかかっていた。

そして、ブルドーザーの黄色い車体が見えた。

オレはゆっくりとサクラの木から離れた。十兵衛も後に続く。


カピンチョは最後までサクラの木を見上げていた。

風がびゅうっと吹いて枝を大きくゆらした。

そのとき枝についた赤い実が、ぽとりとカピンチョの頭の上に落ちた。


「サクラの木も、モリオさんみたいに空を飛べたらなあ」

 カピンチョがさみしそうにつぶやいた。

「空を、飛ぶ……」

オレは、はっとサクラの木の実を見た。

上空では甲高い声を上げながらトンビたちがサクラの木のまわりを旋回している。 


「そうだ! それだよ! 空を飛ぶんだ!」

 オレは思わず大きな声で叫んだ。

カピンチョも、十兵衛も不思議そうな顔でオレを見た。

「カピンチョ! この赤い実だ! これでサクラの木も海を見ることができるぞ!」

「モリオさん、どういうこと?」

 カピンチョは、目をぱちぱちさせた。

十兵衛も、さっぱりわからないといったように「グルル?」と首をかしげている。

オレは真っ赤なサクラの木の実を前足で指すと、二匹にすばやく説明をした。


「すごく、いい、アイディアだ」 

十兵衛が、両手を叩いてよろこんだ。

「すごい、すごい! モリオさん、すごい!」

カピンチョは興奮気味に叫びながら、その場を何度も飛び上がった。

「おーい! トンじい! トンじい!」

オレはトンビたちを呼ぶと、赤い実を指して、同じ説明をした。


「サクラの木の命をつなぐんだ」

オレがそう言うと、トンビたちは一斉にうなずいた。

「なるほど、名案じゃ!」

「ほかのトンビたちも呼んできましょう!」

「トンビだけじゃなく、ほかの鳥も、動物も呼んでくるよ!」

やがて、ブルドーザーが隊列を組んでこちらへとやってくる。

ブルドーザーはけたたましい音をたてながら、あたりの木を根こそぎバリバリとなぎたおし、サクラの木へとせまってきた。

「できるだけ、たくさん落として!」

カピンチョがそう叫ぶと、サクラの木は体をゆすって赤い木の実をぱらぱらと落とした。

オレと、カピンチョと、十兵衛も持てる限り赤い実を探すと、そっとしげみに隠した。


巨大な黄色い機械がサクラの木へとやってきた。

ブルドーザーの重い体がズドン、とサクラの木にぶつかった。サクラの木が大きくゆれた。

「サクラの木、サクラの木……」

 カピンチョが祈るように見つめている。

ブルドーザーは、サクラの木に何度も体当たりをくりかえした。


サクラの木の枝はバキバキと折れ、がっしりとした幹はザックリと傷だらけになっていく。

それでもサクラの木は、なかなかたおれなかった。

あれだけ体をゆすっても、歩くことをこばみ続けたサクラの木の根が、どっしりと地に張り巡らされているからだ。

「いいぞ、負けるな、サクラの木!」

オレは歯を食いしばりながら、そう叫んだ。まけるな、サクラの木、まけるな、サクラの木……。

やがて、サクラの木は、思い切り枝を空にふりかざし、ドォッとたおれた。

ずしん、と地響きがあたりに響き渡り、鳥たちがいっせいに飛び立った。




ずいぶん長い間ここにいたけど、いよいよどこかへ行けそうだな。





そして、最後にオレはそのサクラの木の声を聞いた。

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