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17.きいろい悪魔、ふたたび

そろそろふもとまでたどり着く。

オレはドクドクの波打ち始めた心臓をおさえつけながら走った。

どうか、何事も起こっていませんように。どうか、トンビたちの見間違えでありますように。

オレはそう祈りながら、丘を駆け上った。

そのとき、風に乗って、低く重い音が響いてきた。

 

それはオレがこの世で最も聞きたくない音だった。

オレのすべて壊したあのうなるような機械の音。

それが幾重にも重なり、地響きをともないながら、徐々に近づいてくる。

胃のあたりが、かっと熱くなるのを感じた。


「くそっ! オレはまたすべてを失うのか!」


そのきいろい巨大な悪魔は、大きなキバを、まだ小さなクスの木たちにつきたて、バリバリとものすごい音を響かせながら、まるで積み木のようになぎ倒していた。

ばあさんとオレが暮したあの家をコナゴナにしたように、木も森もあとかたもなく壊されていく。


 あのとき、オレはただただ敷地のすみで、ふるえあがることしかできなかった。

ただ黙って、ただ茫然として、ばあさんの大切な家が消えていくのを見ていることしかできなかった。


 でも、今は違う。オレは変わった。オレは強くなった。

「コナゴナに壊してやる」

 全身の血がぼこぼこと音をたてて、一瞬で沸騰した。

 目の前で、悪魔が我が物顔で暴れている。

 オレは両脚にぐっと力を入れて、地面を蹴った。

 

 しかし次の瞬間、オレの体はものすごい力で引き戻された。

 オレはもんどりうってしげみの中へ転がった。


「やめろ、お前、あれにひかれて、ぺしゃんこになる。そんなの、俺、許さない」

 十兵衛だ。十兵衛がオレをじっと静かに見下ろしていた。

「だって、このままじゃ、森がぐしゃぐしゃにされるんだぞ! サクラの木だって!」

 オレは、十兵衛に飛びかかると、フーッと牙をむいた。

「邪魔するなら、お前だって容赦はしないぞ!」

 十兵衛はゆっくりと首を振った。

「トンビたちが、知らせてくれた。モリオが、危ないと。だから、俺、あわてて、ここにきた」

「なんだと?」

「俺がいて、よかった」

 十兵衛は、そう言うとオレをひょいと地面に置き、そしてオレに覆いかぶさった。

「あの機械、俺より強い。お前、無駄に、命をなくす」

「どけよ! 十兵衛! どけよ!」

「いやだ。俺のかぞくも、なかまも、あれにやられた。だから、もう、これ以上仲間を、なくしたくない」

 十兵衛は首をぶんぶんとふりながら、体重をかけてオレをおさえつけた。

 オレは全身の力をこめて、十兵衛から抜け出そうともがいたが、十兵衛はビクともしない。

「ちくしょう! どけったら!」


十兵衛の腹を思い切り蹴ったとき、空がぱっと光った。

オレは動きを止めた。

続いて、うなるような地響きと共に、大粒の雨がいっせいにふってきた。


雨が大地と、十兵衛の体を激しく叩き始めた。


ブルドーザーはオレの目の前で最後のクスの木を粉砕すると、低いエンジン音を響かせながら、丘を登り、森の奥へと進んでいった。

その後を何台ものブルドーザーが続いていく。

あの方向はサクラの木がある方角だ。


「くそっ! サクラの木とカピンチョが危ない!」

 オレの全身にひやっとしたものがさっと流れた。


「モリオ、俺と、サクラの木に、戻ろう」 

 十兵衛が立ち上がると、オレはサクラの木を目指して一直線にかけた。


十兵衛の大きな足音がオレの後を追った。

雨足が徐々に激しくなっていく。


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