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13.にんげん

「ねぇ、にんげんってどういう生き物なの? ボクまだ会ったことないから、なんだか怖いや」

 カピンチョは少しおびえたようにオレと十兵衛をかわるがわる見た。

「にんげんは、なにかするとき、みんなで、いっせいにやる。お互い、協力しあう。それぞれが、いちばん得意なことを、わけてやる。だから、とても、早い。俺としもぶくれの森もあっというまに、道路になった」

 十兵衛はそう言うとサクラの木に背中をもたれかけた。

「まあ、オレはばあさんしかにんげんは知らないけどさ、でもやっぱりにんげんはすごいぜ。たとえば、電話ってのがあってな」

「でんわ?」

 カピンチョが不思議そうに首をかしげる。

「どれだけ遠くに離れていても、その電話さえあれば、そいつと話ができるのさ。ばあさんの娘さんや、お孫さんはずーっと遠くの遠くに住んでいたけど、まるですぐそばにいるかのように話ししていたぜ」

「すごい! じゃあでんわ? さえあればしもぶくれさんともお話できるんだ!」

 カピンチョがぴょんと飛び跳ねれると、十兵衛がむっくと起き上がった。

「そのでんわ? というのは、どこにある? 俺、やっぱりしもぶくれと、話したい、さみしい」

「う、うーん、こんな森じゃあ、電話なんかないし、あったとしても、たぶん使いこなせないぜ。なんか色んな細かい操作がいるんだよ。ボタンもいっぱいあってさ、どうやったら話ができるか、オレにもよくわかんないんだ」

「なんだぁ、残念」

 カピンチョはしょんぼりとうなだれた。

「しもぶくれ、やっぱり、心配。森には、腹をすかせた、どうぶつが、いっぱい、いる」

 十兵衛が再び落ち込み始めたので、オレはあわてて話題を変えた。

「ところで、十兵衛はどうやって起きてるつもりなんだ? さすがにずっと寝ないでいるのは無理だろ?」

 オレがそう言うと、十兵衛はうーんと低い声でうなった。

「わからない、でも俺、じっとしてると眠くなる。だから、できるだけ動き回ることにする」

 十兵衛はそういうと、おもむろにサクラの木の周りをぐるぐると回り始めた。



「ボクらが毎日起こしてあげるしかないんじゃないかなぁ。」

 カピンチョはのしのしと歩く十兵衛を見ながら言った。

「でも、どうやってあんなバカでかいやつを起こすんだよ?」

「えー? そんなこと言われてもわかんないよ。ゆすったりすればいいんじゃない?」

「バッカ、あんな巨体ゆすれるかよ。オレたちくらいじゃビクともしないぜ」

「えー? じゃあ叩いたり、蹴ったり、飛び乗ったりするしかないんじゃない?」

「それくらいで起きるタマかよ」

「じゃあ、かみついたり、ひっかいたりすればいい?」

「オレに聞くなよ、てか、十兵衛を起こすのはカピンチョの仕事な」

「えー? 一緒に起こそうよ。ボクだけじゃ起きてくれないもん、きっと」

 カピンチョが不満げに鼻をフンッと鳴らした。

 そこへ十兵衛がドスドスとやってきて口を開いた。

「だいじょうぶ、俺、すいみんは、浅いタイプ。よく、しもぶくれの寝言で、目を覚ましてた」

 十兵衛はうんうん、とうなずくと再びサクラの木の周りを歩き始めた。


「あいつめちゃくちゃ熟睡しそうなタイプに見えるんだが」

オレがそう言うとカピンチョが十兵衛の大きな背中を眺めながら心配そうにつぶやいた。

「でも十兵衛さんの体が心配だよ。冬眠って十兵衛さんにとって必要なことのような気がするんだ」

「まあ、一冬くらいだったら大丈夫じゃないか? それに今更言ったってあいつは聞かないと思うぜ。あいつもカピンチョに負けないくらいガンコだしな」

 オレはそう言うと、カピンチョの顔を見てニヤッと笑った。

「えっ! ボク、全然ガンコじゃないよ! モリオさん、ひどいよ!」

「ハハッ、よく言うぜ」

 オレはサクラの木の幹に爪をかけると、一気にかけのぼり、いつもの枝めがけてぴょんと跳んだ。

「ねぇ、モリオさん! モリオさんったら!」

 下からカピンチョの声が聞こえてくるが、オレは聞こえないふりをして体を丸めた。

 びゅうっと冷たい風がオレの毛を揺らして、オレはそろそろこの場所も引き上げ時かなと考えた。ここは一匹になれるいい場所なんだが、冬はやっぱり寒すぎる。

「もう! モリオさんずるいや!」


 カピンチョの声が冬の風にのって、遠くの空まで流れていった。

 やっぱりこたつが恋しいなぁ、ばあさんの体温で温まったふとんも最高だった。

 でも、もうオレはここで生きていくしかないからな。

 オレは自分の腹に鼻先をすべりこませて、さらに体を丸くした。


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