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wake up new days.

「ーー!」

ベッドの上で突然目を覚ました俺は、上体を勢いよく起こす。

「夢……?」

さっきまで目の前で起こっていた、自分にとって非現実的な出来事を頭の中で深く噛み締めながら思い出す。

ーー我ながらかなりリアリティのある夢だった。まさか異世界に突然飛ばされて、あんなドラゴンとロボットの戦いを見られるなんて。

頭打った瞬間なんて、一瞬だったけどかなり痛かったし……

未だにズキズキと痛んでいるような(気のする)後頭部に手を当てる。


ーーあれ……?


俺の指が触る感触は、髪の毛とは違う。まるで布のようなものの感触だ。

その存在を確実に確かめるため、その布に沿って額へと指を這わせる。

「包帯……?」

いや、確かに頭を打ったのは覚えている。だが、それは夢での出来事だ。

それなのに、本当に包帯をする必要があるか?

というか、誰が俺の頭に包帯を巻いたんだ。俺が俺に、意識のないうちに巻いたとか……?

いや、そんな芸当ができるわけないだろ。

それに、よく見てみれば毛布は俺がいつも使っているスカイブルーの毛布じゃないし、この部屋も古ぼけた納屋とかそういう言葉が似合いそうな、”今風高校生の部屋”みたいな俺の部屋とは全然違う。

「どこだ……ここ」

意外にも平然とした態度と、冷静な口調で呟く。

まだ夢でも見ているんだろうか、呆けっとした顔で部屋と自分の掌を交互に見て、少し強めに両頬をつねってみる。

「い、痛い……もしかしてこれ、異世界にマジで来ちゃったんじゃ……」

普通に痛い。つねった場所をさすりながら、今の状況を考えようとしたその時、ドアの向こうで話し声と足音がこちらに近づいてくるのに気付いた。

「こっちに誰か来てる……!?」

その音にビクッと肩を振るわせる。俺はすぐに布団に潜り、ワザとらしくイビキをたてて寝たふりをする。

静かに且つゆっくりとドアが開いて人が入ってきた。

「ほーら、まだ寝てるみたいだぜ」

「だからうるさいって……!」

部屋に入ってすぐに大きい声を出した男が、遠慮がちに小声の女に怒られている。

その時に叩かれたのだろう、皮膚を叩く音が聞こえた。

「痛ぇ!何も叩かなくていいだろうよー」

「もう、お父さんは下戻って!」

「お、おぉう……分かったよ……」

きっと、俺がまだ寝ていると思って気を使ってくれているのだろうが、全て丸聞こえだ。

にしても、お父さんだからこそなのか、遇らわれ方が……なんというか、気の毒というか……可哀想だ。

なんて思ってほんの少しだけ薄っすらと目を開けてみる。

お父さんと呼ばれた男はガタイが良く、パツパツのシャツに顔に似合わないエプロンをしている。もう1人は、肩ぐらいの長さをしたブロンドの髪に、フリルのエプロンを着けた俺と同い年ぐらいの女の子が食べ物が乗ったお盆を片手に持っている。


ーー!?!?


お父さんの視線は女の子ではなくこっちを見ている気がする。

いや、これは確実にこっちを見ている。

俺に読心術とか心を読む系の特別な力は無い。が、これからもし、この子に何かあったら殺す。というような殺意が感じられる。そんな目をしたのが分かった。

分かるように、無意識に首を縦に何度か振る。

「なに睨んでるの、早く戻って……!」

「は、はい……」

小声ながらに威圧感のある叱咤に、さすがにしょんぼりと背中を丸めてドアから出て行く。

「ふぅ……全く、自分で連れて帰ってきた怪我人だってのに……」

くるりとこちらに向き直り、近付いてくる。すぐさま俺は目を瞑り再度寝たふりをした。

枕元にあった丸テーブルに物を置く音が聞こえる。きっと、持ってきた食べ物を配膳してくれているのだろう。

「それじゃあ、また起きたら……」

そう呟き、またゆっくりとドアを開き、部屋を後にした。

俺は完全にドアが閉まったのを確認して起きあがると、すぐに枕元のテーブルに置かれた物を見る。

焼きたてのパンと、暖かそうなスープのお椀に、飲み物が入っているであろう小さめのヤカン、取っ手のついた黒いカップがお盆の上に綺麗に収まっている。

美味(うま)そう……」

食べ物を見た瞬間、脳が現実に戻ってきて空腹を思い出したのか、急にお腹が空いてきた。

「ここに置いたってことは、食べていいってこと……だよな?」

美味しそうな匂いが素直な俺の心を刺激し、気付いたらパンに手を伸ばしていた。

「う、美味(うめ)えっ!!」

こんなうまいパンは味わったことがない!

空腹からか、この美味いパンがさらに数十倍美味(おい)しく感じる。

「このスープも……美味(うま)すぎる……!」

殺人的、いや悪魔的だ。この一杯のためになら犯罪だって……!

いや、これは言い過ぎた。

だが、そう感じさせるほどに空腹だったのか、この一つ一つの食事が俺の胃を満たしてくれる。

食べ始めて間も無く、全て綺麗に平らげていた。

「ふう……満足……だ」

ベッドに大の字に寝転び天井を見つめる。


満腹になったことでどこか満足したのか、突然の睡魔に襲われてしまい、気付けばまた眠りについていた。




「……ん……あ?……はっ!しまった……ついつい寝てしまった……」

勢いよく起き上がり、体を伸ばして欠伸をしながら頭を掻く。

「ん?毛布……?いつの間にかけたんだ?俺……」

毛布が俺の上にあることに気付き、若干ハテナが浮かぶ。

「確か、急に寝ちまったから布団なんてかけてないはずだけど……」

「あ、やっと起きた。ふふ、食事をしたら眠たくなったんだね」

「あー、いや、あんな美味いモン初めて食べたからなー……ついつい勢い良く食べちまった……って」

普通に言葉を返したまでは良かったが、ふと我に帰り、目の前にいる女の子を見つめる。

「な、なんですか?」

「……誰すか……?」

俺が発した言葉で二人の間に流れる、しばしの沈黙。

この子、よくよく思い出せばさっき食事を持って来てくれた子か。

「ぷっ……あはは!」

この時間に耐えられなくなったのか、女の子が吹き出す。

とりあえず、今のどこに笑うポイントがあったのか俺は知りたい。

「えっと……あはは……」

とりあえず合わせて笑っておこう……異世界人の笑いのツボは分からない。

「んー、あなたを助けた人の娘」

「え、やっぱりそれって……」

「おう、兄ちゃん。起きたのか」

言葉を発しようとした瞬間、ドアが開き、女の子の後ろから男が入ってきた。

「あ、お父さん」

お父さんと呼ばれた男。この人……たしか、さっきこの子に叩かれて、すごい形相で俺を睨んでた人だよな……

「お、おはようございます」

「綺麗に平らげてやがったな、そんなに腹ァ減ってたのか?」

「えーー、あ、あぁ、はい。それに、めちゃくちゃ美味しかったので……」

「ふ……そうか、そりゃ良かった」

男がふと一瞬だけ優しそうに微笑み、言葉を続ける。

「にしても、兄ちゃん。なんであんなとこに居たんだ? あそこは飛竜警報で危険区域指定されてたはずだぞ?聞いてなかったのか?」

「警報……?」

「ん、何?飛竜警報、知らねーのか?今時珍しいな、お前、大陸外からの訪門者(たびびと)か?」

「い、いや、警報も何も。あの、俺……気付いたら草原にいたんです。そしたら急に空ででっかいドラゴンとロボットの戦いに巻き込まれたと言うか、なんというか……」

「は?気付いたらあそこに居た?なんだそりゃ……」

「転移魔法装置が暴走したんじゃない?」

「いや、そんなわけあるか。ありゃ危険のないように精巧で確実だ」

「たしかに、それもそうだね」

「お前、出身はどこだ?どこから来た?」

「え、えーと、一応日本ってところなんですけど……」

「日本……?聞いたことねーな……」

「あはは、ですよねー……」

やはり俺は異世界に飛ばされてきたのか。まさかこんな事になるなんて……

これからどうすれば……

この先のことを考えてしまい、俯いてしまう。

ーー幸い親が海外勤めだから、1人には慣れているが、右も左も分からない場所で孤独は……さすがに心にくる。

「……ふむ、行くとこも無くて帰るとこ分からねぇなら、しばらくウチに住むか?」

「え……?」

「もちろんタダってワケにはいかねえがな、店の手伝いをするってのが条件だ」

「い、いいんですか?身元もなにも分からないのに?」

「ああ、構わねえ。俺は顔見りゃそいつが嘘ついてるかなんて分かる。今のお前の顔は本気で困ってる顔だからな。そんなやつを放っておく事はできねぇよ」

「あ、ありがとうございます!よろしくお願いします……!」

「構わねえ。あ、そうだ……」

「えっ……?」

俺に顔を近付けてニコッと笑うが目は笑ってない。

「娘に手ェ出したら殺す」

肩に手を置き、俺にだけ聞こえる声で言ってきた。

「わ、分かってます!」

この殺気はマジだ。勢い任せに必死に首を縦に振る。

「っと、名前聞くの忘れてたな。俺は、デリク・コーウェルだ。これからはデリクさんと呼べ」

「え、衛守(えいす)柾木(まさき) 衛守(えいす)です」

「エースか。ふ、いい名前だな」

「あの、エースじゃなくて、”衛守(えいす)”なんですけど」

「あん?だからエースだろ。間違えてないだろが」

「いや、あの……」

衛守(えいす)であって、伸ばすエースじゃないんだけどな……

「なんだ、その顔!エースもエースでもどっちも同じだろが!」

「いや、それだと本当にどっちも一緒なんですけど!」

「うるせえ!」

「ぐふぅ!」

頭上から鋭い空手チョップが振り下ろされ、俺の頭頂部を捉える。

「ったく……じゃあ明日から頼むぞ、エース。明日は朝8時からだからな。今日はもう寝ろ」

そう言って、デリクさんは背中越しに手をブラブラさせて部屋を後にする。

「は、はい……おねがいします……」

殴られた場所を撫でながら、出て行ったデリクさんに頭を下げる。

そして、すぐに女の子がこっちに近寄ってきて、手を包むように握ってくる。

「よかったね、エース!」

「あ、よろしくお願いします。えっと……」

「あ、そうだ、まだ自己紹介してなかったね? マリナ・コーウェル。私のことは、マリナって呼んでね。それと、敬語じゃ無くていいよ?」

「じ、じゃあ……よろしく」

「うん!よろしくね」

そう言うと俺の手を離し、部屋を出て行く直前にこっちを向き直し手を振る。

「それじゃあ、おやすみ!」

扉が音を立てて閉まる。なんとも、見た目の割に活発な女の子だな……

にしても、女の子に手を握られたのはいつぶりだろうか。

ーーうむ、暖かい……

両の手の平を交互に見て、その感触を思い出し、ほんの少しだけ思い出し笑いをして、また横になる。

「まさか、こんな事になるなんてな……でも、いい人でよかった……。ん、ふぁ〜あ……あんだけ寝たのに、まだ眠たいのか、俺は……」

たくさん寝たにも関わらず、未だに襲ってくる眠気に従順な欠伸をして、目を瞑る。


「にしても、異世界生活か……楽しみだな」


突然の出来事に戸惑っているが、これから始まろうとしている知らない世界での生活を前にどこか楽しみにしている自分がいた。

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