Welcome to new world.
昼休み。
春風が心地よく吹く学校の屋上。
俺はいつものように1人弁当を広げ、それを平らげては横になりのんびりしていた。
1人で、と言ってはいるが、別に友達がいないわけじゃない。
友人から昼食を一緒に食べようと持ちかけられるが、今日まで全て断っている。
俺はモノを食べるときには誰にも邪魔されず、自由で、なんというか静かに食べたいワケなんだ。
そして食後少しだけ、横になって空を見て一呼吸つくまでが俺の飯タイム。
「さて、と……そろそろ教室に戻ってみんなとグンダムのカードゲームでもやるか……!」
5分ほど、晴れ渡る空を眺めたあと、腹筋の力だけで上体を起こす。
ーーんでもって、食後はお待ちかねの楽しい娯楽の時間だ。
少し浮かれ気分で、ニコニコしながら、弁当箱を巾着に入れ、袋口を閉めた。
そしてそのまま袋を持ち、屋上から階段へ繋がる扉を開いて中に入る。
「……あれ?」
意気揚々と扉を開けて、室内へと入ったはずだった、が……。
ーー何故か外にいる
……いや、ちょっと待てよ。
俺がいたのは学校の屋上だ、目の前には廊下に繋がる階段が無ければおかしい。
だが、現に今見ている景色は、雲ひとつない晴天に、肌を撫でる心地よい風、そしてあたり一面木々がポツポツと点在する爽やかで、寝転ぶと気持ち良さそうな草原。
「は……?」
俺は急いで後ろを振り返る。
しかし、確かに開けて入ってきたはずの扉はどこにもなく、草原が広がっているだけ。
「あるぇ……」
ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
考えるのをやめ、思考が完全に停止しかけていた、その時。
『ギャオオォオオオアア!!!』
突然、地面が揺れ、生まれてから今までで聞いたことのないぐらいの大きな叫び声が聞こえる。
驚いて我にかえると、反射的に直ぐ耳を塞ぎ、少し膝を曲げて屈む。
「い、今のなんだよ……!」
一瞬、何かが空を横切った。太陽が隠れて影を作り、地面には”そいつ”の姿が投影される。
地面に映る大きな影を見て、俺は恐る恐る空を見上げた。
そこには飛行機とは違う、ヘリコプターでもない。俺の知ってる現実では見たことも存在もしないモノ。
どデカイ羽を広げ、雄叫びを上げて空を飛び回っているそいつの正体……
「ド、ドラ……ゴン?」
固まってそいつを見たのも束の間だった。
ゴウッ、と背中から強い風が吹くと、3つの大きな影が空に現れ、俺の真上を一瞬で通り抜けてそいつに急速で向かって行く。
「つ、次はなんだよ……!」
陽の光に照らされ、反射してよく見えない。
が、最も先頭を往く”それ”はマントのようなものを靡かせ、大きな馬上槍を持っているのが分かった。
後ろをついて行く二体が、左右に分かれドラゴンを囲むように展開する。
その瞬間、”それら”の姿がハッキリと見えた。
ーー巨大な鉄の塊。
「え、ろ……ロボット……? 」
”それ”はまさしく、俺がアニメやゲームで見たことのあるモノだった。
この訳のわからない状況になっているにも関わらず、そのロボットを見た瞬間にそんな事がどうでも良くなった。一目惚れしたかのように、俺の心はときめいていた。
「おおぉ……!」
ロボットもののアニメやゲームはできるだけたくさん見たし、プレイしてきた。だが、そんなものは想像の産物でしかない。
だが、現に今、この俺の近くでリアルなロボットが、動いている。戦っている!
距離は離れているにせよ、真上でロボットとドラゴンが交戦している。
誰がどう見てどう考えても危険な場所だが、足が全くもって動かない。
それは驚きや、恐怖ではない。純粋にこのロボットを、戦いを見ていたい。すでに体がその意思で支配されてしまっている。
ーーここは夢なのか……?多分、飯を食べたあとに気持ちよくて寝てしまったんだ。いやに現実味のある感触だが、きっと夢に違いない!だって、こんなロボットやドラゴンが今の日本にあるわけ無いからな……!!
もっと長く見ていたい。そう思ったのも束の間。
勝負は一瞬でついた。
後続の二機、左手側の機体が銃身の長いライフルで羽を撃ち抜く。
怯んだドラゴンに追い打ちを掛けるが如く、右手側の機体が背中に背負っていた大剣を抜き、背後から一気に距離を詰めて腹部から下を切断する。
ドラゴンが仰け反った瞬間だった、ドラゴンの目の前に位置取っていたマントの機体が一瞬姿を消した。
刹那、ドラゴンの頭上から現れ胴体の中央部分目掛け、馬上槍を突き刺すと、その勢いのままドラゴンごと地面へと着地する。
そして、貫いたランスを抜いてふわりと空中へと舞い上がった次の瞬間、ドラゴンは大きな爆発を起こした。
ーーなっっ!!!
爆発が起こった位置より、かなり離れていたにも関わらず、凄まじい爆風が俺の体を吹き飛ばす。
勢いよく吹っ飛び転がって行った俺は、後ろに佇んでいた木に頭を強くぶつける。
ーーそして、俺の意識はそこで無くなった。