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神秘と召喚  作者: KARYU
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第九話

 この施設には、かなり広い屋内運動場が用意されていた。彼らは大会までここで訓練をして過ごす予定らしい。

 俺と彼らではそもそもの基礎体力にも差があったため訓練についていくことも難しく、今日はずっと柔軟体操とランニングをして過ごすことになった。

 アーシュも俺と一緒に走っていたのだが、全く息も上がらず。俺がバテた後、他の二人と模擬戦を行っていた。その後、俺が回復したら柔軟体操を一緒に行い、また一緒に走るということを繰り返した。


 夕食後、俺は早々にアーシュの部屋へ引きずり込まれた。

 エリスは何か言いたそうにしていたが、アーシュは主が何か言う前に「後はお任せあれ」と言い残して、俺を抱えて自室に駆け込んだのだ。

 アーシュの部屋はエリスの部屋より狭く、ベッドもより簡素な物だったが、それでも風呂とトイレは完備されていた。風呂と言っても浴槽は無く、シャワー設備があるだけだったが。

 そしてアーシュは、俺の着替えもいつの間にかどこからか確保していて、一緒に風呂場に入ることを強要された。

 ……ひょっとして、誘惑されてる?

 単に、エリスが対価を払うことを妨害するためであれば、アーシュの部屋でなくても構わないだろう。わざわざアーシュが引き込んだということは、自分で我慢しろ、とでも言いたいのだろうか。まぁ他の二人の部屋に引きずり込まれて「ウホッ」とか「アッー!」なんて展開よりはマシだが。

 「……結局、俺の体力の無さがはっきりしただけで終わったな」

 敢えてアーシュの裸体を無視して、シャワーを浴びながらそんなことを口にした。

 ホースにシャワーヘッドがあるような設備ではなく。壁の上側に蛇口の様な放水口が固定されているだけの簡素な造りだ。一応、水ではなくお湯が出ていた。

 「……乙女の裸を前にして、最初に言うことがソレなの?」

 一緒に湯を浴びながら、アーシュは拗ねたように口をとがらせる。

 「では訊くが。これはどういうつもりだ?」

 引き締まった体だったが、出るところはそれなりに出ていて。初心な俺を動揺させるには十分なソレを、俺に押し付けていたのだ。

 「対価は私が払うから……もう、お嬢様に手を出すのは止めて欲しいの」

 おいおい。こいつ、既に俺が対価を受け取っていると思っていたのか。

 「もう、とか言うな。エリスに手を出したりしてないから」

 俺の返事に、アーシュは目を丸くした。

 「なんで? お嬢様から対価を払うって言われたんでしょ?」

 「あぁ、そうだけど」

 「じゃあ、どうして? あんなに美しいお嬢様から迫られて、同衾して何もしないってどういうことよ!?」

 なんで怒ってるんだよ。手を出して欲しくないんじゃなかったのか?

 「ひょっとしてB専なの?」

 そんなんじゃねぇし。というか、そういう語彙はあるんだな。

 「いや、小さい子に体を差し出すとか言われても、はいそうですかとは言えないだろ」

 「うっ……だから私にも反応しないのね」

 アーシュは悲しげに自分の胸を掴んだ。

 「胸のサイズの話じゃねぇ!」

 「ふふっ、冗談よ」

 本当かよ。

 こっちは反応しないように無心でいることに苦労しているのにこいつは。

 「でも、それなら好都合ね。あなたへの対価は私が払うから。どうか、お嬢様を救ってください」

 ……こいつはこいつで、真剣なのだろうと思い直す。何せ、エリスの命が掛かっているのだ。そしてこいつらは、エリスを救うために自ら牢獄に入ることを志願したのだったな。


 風呂場から出て。慣れないトレーニングで疲れたから早く寝たかったのだが、アーシュの誘惑が止まらない。

 「……いいから、下着くらい着なさい」

 「えっ? アキオミって、着エロ派なの?」

 ……その概念もあるんだな。

 異世界でも変わらない男の業に眩暈を覚えた。

 「そうじゃなくてだな……疲れたから、早く眠りたいんだ。──そうだ、何かしてくれるんだったら、マッサージにしてくれ」

 ちょっと手足の筋肉が怠い。

 「まっさぁじ……とは何?」

 「筋肉の凝りを解したり……ってそういう概念は無いのか」

 首をかしげるアーシュを見て説明するも、ピンと来ない様子。

 「よく判らないけど……まっさぁじとは性的な奉仕では無いの?」

 クラスの男子連中だったら連想して出てきそうな発言に思わず噴き出す。

 「語彙は通じていない筈なのに、どうしてそう的確に間違うかな……」

 アーシュは話が通じず、首を傾げるばかり。

 「まぁいい。とりあえず俺がやってみせるから、アーシュはベッドにうつ伏せになってくれ」

 俺の指示に従い、アーシュはベッドにうつ伏せになった。ちなみに、まだ下着は着けていない。……気にしないことにしよう。

 背中から腰、太もも、脹脛と手のひら全体を使って押し込むように押さえていく。

 「あっ……そこ、いい、かも……」

 初めはちょっと痛がっていたのだが、暫くすると慣れたのか気持ちよくなってきたらしい。

 両腕、肩甲骨の周辺、肩や首回りの筋肉をなぞる様に親指で押すと、ちょっと悩まし気に呻いていた。

 ……全裸でそんな声出すのやめて。無心、無心。

 同じ場所を押し続けると痛くなるだろうから、繰り返し場所を替えながらマッサージを続けていると。

 妙に静かになったかと思ったら、アーシュは気持ちよさそうな顔で眠っていた。

 「俺がやって欲しかったんだが……悪戯しちゃうぞコラ」

 そんなことを言いながらも、そのままアーシュの隣に転がると、すぐに眠りに落ちた。



 翌朝。

 アーシュはぐっすり眠ったまま起きてこなかったので、俺だけ先に皆と合流して、朝食を摂ることにした。

 エリスは不思議そうにしていたが、グレンとカイトはアーシュの行動を知っているのか、俺を睨んでいた。

 そこへ、アーシュが合流してきた。

 「すまない、アキオミ。昨夜は気持ちよくて、先に眠ってしまった」

 その誤解を招きそうな発言に、グレンが口の中の物を噴き出しそうになり、我慢して咽た。

 カイトから怪訝そうに睨まれる。

 「……お前ら、仲良さそうだな」

 誤解した上での嫌味らしい。

 だが、アーシュは言葉通りに受け取ったみたいだ。

 「ええ。アキオミったら、すごく上手なの。カイトもしてもらったら?」

 カイトが飲みかけのスープを吹き零した。

 エリスは今のやり取りから事情を察したらしく、腹を抱えて笑っていた。


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