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神秘と召喚  作者: KARYU
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第八話

 「牢獄、だと……?」

 思いつきで言った言葉だったのに。

 俺は周囲を見回す。

 ──なるほど、窓は一応あるものの、格子で塞がれていて。出入り口と思しき扉は、閉じている状態だからパッと見判らないが、良く見るとそれは、頑強そうなものに見えた。部屋にはもう一つ、簡素な扉があったが、そちらは風呂やトイレなのだろう。

 ただ、牢屋とか実物を見たことがないから詳しくは判らないが、牢屋にしては豪奢な造りに見える。ベッドも、とても簡素とは呼べないモノみたいだし。

 などと考えていると、エリスが理由を教えてくれた。

 「と言っても、今はまだ軟禁状態なだけだけどね。夜間はこの部屋から出られないけど、日中は牢獄内の仲間とも接触できるし、食事も十分に与えられているから、扱いとしてはそう悪くもないのよ。私は、同族殺しの嫌疑を掛けられていて。自らの名誉を証明しなければ、処刑される身なのよ」

 処刑、だって……?

 「それって……こっちには裁判とか無いのか?」

 「裁判の判決が、この状況なのよ。あなたが居た世界ではどうか知らないけど、こちらでは、疑わしきは罰するのが習いなのよ。だから、そういう状況に陥った時点で、私の手落ち。そして、私に残された手段は、裁判所が私に科した名誉の証明しか無くて。その方法は……私か私の配下が、武力によって力を示すこと」

 武力によって……?

 言っている意味が判らない。

 犯人扱いされて、無実を証明するために真犯人を探し出す、とか言う話なら判る。それが、力を示す?

 「我々の価値観では、力を持つ物は、些細な犯罪を犯す必要が無い、という証明になるのよ。私のような家柄の者なら特にね。もちろん、明確な証拠がある場合は問答無用で裁かれるのだけど」

 ……そういう理屈なのか。納得は出来ないが、なんとなく言わんとしていることは判らなくも無い。だけどそれって、力さえあれば、証拠不十分に持ち込める犯罪ならやり放題ってことにならないか?

 「あなたの懸念は判るわ。罪状に応じて、求められる力の種類も証明方法も変わるのだけど、限度はあるから。一定以上の規模の罪状については、この方法は採られないのよ」

 俺の顔から察したのか、そう補足される。

 ……それでも死罪判決につながる内容まで適用範囲ではあるんだな。

 「そして。私の嫌疑に対して科せられた証明方法は……今度裁判所で開かれる武術大会で、三部門で優勝することなの」

 なんて無茶な。

 まるで少年漫画みたいなノリだな、とか思う一方、俺がそれの助けになるのか、不安にもなる。

 「あなたに全部優勝して、なんて言わないわ。そもそも同時に行われるから、複数部門に出ることも出来ないのだし」

 彼女は笑って言うが、俺にはとても笑えない。強いな、と思う。

 「大会には、配下の者三人に出て貰う予定よ。私を慕って付いて来てくれたのはその三人だけなの。裁判所が認めた出場枠も三人までだったから、不足は無かったのだけどね。最低でも、一部門で優勝出来れば、処刑は免れるから、そこまで深刻に考えなくてもいいのよ」

 そう言われても。

 その武術大会の規模もレベルも判らないから何とも言えないが、最低条件が優勝というのは、そう安易な条件とは考えられなかった。

 「配下の紹介と、あなたにお願いする役割について考えるのは、起きてからにしましょう」



 翌朝。

 目が覚めると、剣呑な状況に陥っていた。

 結局俺は、エリスのベッドで一緒に眠ったのだった。エリスから、一緒に寝ないなら自分が床で寝ると頑なに言われて、仕方なくの同衾だったのだが。

 明け方、少し肌寒くて。目が覚めた時、俺はエリスを後ろから抱きしめていた。

 エリスは先に目が覚めていたみたいだが、俺を起こさないようにそのままじっとしていたらしく。いつまでも起きて来ない主人を心配して、配下の者たちが勝手に部屋へ入って来たのだった。

 彼らは、エリスと共にこの牢獄に入ることを自ら志願した者たちらしい。

 主人を抱きしめて寝ている俺を見て、獰猛になっていた。エリスが止めたから何もされずに済んだらしいのだが。

 「おはよう」

 エリスは起き上がって、暢気に挨拶した。

 「お嬢様! これは一体どういうことですか!?」

 三人の配下のうち、唯一の女性がエリスに食って掛かる。主従ではあるが、割とフレンドリーな関係なのだろう。

 エリスは気にする風でもなく。小さく伸びをしたかと思うと、首を左右に傾げて鳴らしていた。俺に抱きしめられた状態で寝ていたから、体が強張っているのか。だとしたら悪いことをしたな。

 「この者はアキオミ。私が召喚した援軍よ」

 召喚、という言葉に彼らが驚いた様子は無かった。という事は、彼らの不信は、俺が被召喚者に見えないという事なんだろう。

 「……こんなヒョロっとしたやつが、ですか?」

 ガタイが小さい方の男が、俺の全身を舐める様に見て。訝しげに呟いた。小さいと言っても、比較対象のもう一人が筋肉達磨なだけで、俺よりは遙に頑強そうなのだが。

 「体格はあまり関係ないでしょう。《ギフト》によっては、子供でも剣聖より強くなれるのだから」

 エリスにそう言われると、男は黙ってしまう。

 《ギフト》で与えられる力は、そんなに極端なのか。そして配下の者たちも、それを知っているらしい。

 「……して、この者の《ギフト》は何なのですか?」

 もう一人の筋肉達磨が問うと、全員、俺の方を見た。

 だけど、俺には自分がどんな能力を得たのか全く判っていない。寝る前、同衾しているエリスのことを考えない様にするため、《ギフト》のことを考えていたのだ。だが、特に肉体の変化は感じられなかった。彼らの言うように強力なモノであるなら、その程度のことは横になっていても判るだろう。武に関する技術的な能力だけを得ている可能性は考えていない。そもそも土台となる俺の肉体が大したことがないのだから、技術だけ身につけていても大した能力は発揮出来ないだろうし。

 「……判りません」

 だから、正直に答えた。彼らなら、俺が知らない心当たりがあるかもしれないと思ったのだ。

 「それなら、一通り試してみる他ありませんね」

 だが彼らにも特に心当たりは無かったみたいだ。


 彼らのことを紹介して貰った。

 最初の女性はアーシュ。身長は俺よりも少し高いくらいで、年齢も俺より一つ上だった。明るい茶髪のショートボブで、エリスほどではなかったが、結構可愛らしい顔立ち。彼女は槍術使いらしい。武術大会も槍部門で出る予定とのこと。尤も、大会で使用される得物には刃はなく、長い木の棒らしいが。

 二人目の比較的小柄な男はカイト。身長は俺と同じくらいだが、体重は五割くらい向こうが上だろう。がっしりした体格をしていた。剣術使いらしく、武術大会も剣部門に出る予定とのこと。こっちの得物も、木の棒だ。木刀の様な反りはない。こちらの剣は両刃の直刀なのだろう。

 三人目はグレン。アーシュより頭一つでかく、体重はカイトの二倍くらいあるだろう。筋肉達磨だ。素手で戦う格闘家らしい。武術大会も素手部門に出る予定らしい。普段は小手を装備して戦うらしいが、武術大会では小手も防具も使わないルールらしい。


 彼らと手合わせしてみることになった。

 そっち系統の《ギフト》じゃないだろうと言ったのだが、それでも俺に何が出来るか確認したい、と言われると拒否も出来ない。

 何か心得はあるかと問われ、剣術と答えた。一応、一年間だけだが剣道部に所属していたし、授業の格技でも剣道をやっていたから、槍や格闘と比べればまだマシだと言えた。

 俺個人にとっては、そうだと思ったのだが。彼らからしてみれば、誤差でしかなかった。

 カイトと手合わせをしてみて。初撃こそかろうじて反応出来たのだが、二撃目は全く防げなかったのだ。

 手加減されていたので骨折はしなかったが、暫く握力が戻らないくらいの打撃を右手に受け、すぐに戦闘不能に陥った。

 休憩の後、アーシュやグレンとも手合わせをしたが、全く話にもならなかった。

 では、俺の《ギフト》は何か、皆で考えたのだが。一番詳しいエリスも、こういうケースには心当たりが無いらしい。

 この世界には魔術もあるらしく、そっち方面の能力かもと検査用の魔道具を用いて調べて貰ったのだが、それも違うらしい。魔術の才能が皆無な訳でもないらしいのだが、《ギフト》でその方面の能力が得られたならもっと強大な魔力を保有している筈だとバッサリ切り捨てられた。

 ……魔術の才能が若干でもあるのなら習ってみたかったのだが、ここにいる四人には使えないらしい。残念。

 案も尽きた頃。アーシュが挙手して話を始めた。

 「……お嬢様。今回の事情を鑑みれば、アキオミの《ギフト》は武術に関連するモノであることは間違いないでしょう。であれば、それを見極めるために、暫く私に預けて貰えませんか?」

 「あなたに預ける?」

 「ええ。具体的に言うと、私と供に鍛錬させ、寝食も供にしたいと考えております」

 ……何か変なことを言い出したな、おい。


……ストックが尽きました。更新頻度が下がると思いますm(__)m

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