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神秘と召喚  作者: KARYU
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第三話

 週末。今日は部長が言っていた物の調査に向かう。

 目的地の関係で、待ち合わせ場所は俺や奈緒が利用している最寄の駅になった。

 俺と奈緒と琴音先輩は同じ中学だったから家も近く。部長だけがやや遠くに住んでいたから、目的地により近いこちら側の駅にしたのだ。

 駅には俺が一番乗りだった。

 「おはよう。まだ明臣だけ?」

 暫くして、奈緒がやって来た。

 「ああ。おはよう」

 私服姿の奈緒は、動き易いカジュアルな格好ではあったが、それでも可愛らしかった。

 俺の記憶にある奈緒の私服姿は、男と混じっても違和感が無いくらいにボーイッシュな格好だけだった。小四までは同じクラスだったのだが、それ以降はクラスが分かれていて、学校以外で会うことも無くなっていた。その間、奈緒の私服姿は遠目にしか見たことが無く。間近で見たのは久しぶりのことだった。

 奈緒の方も同じことが思い浮かんだのか、

 「そういえば、明臣の私服見るの、超久しぶりな気がする」

 などと口にした。

 「俺も、そうだな」

 俺も同意して見せた。

 そんな風に、昔を懐かしむまでは打ち解けた感じだったのだが。

 それ以上、話題も無く。こういう場面で気の利いた話題を振るなんで芸当は俺には無理。

 奈緒の方も、別段話題も無いのか黙っていたのだが。それでも、奈緒は静かに目を瞑って、口元に笑みを浮かべていた。

 昔のことでも思い浮かべているのだろうか。

 奈緒との思い出は、俺には記憶の彼方のことで。楽しかった筈の思い出も、今ではぼやけて判然としなかった。

 「──悪い、少し遅れてしまったな」

 唐突に、部長の声。

 呆然と考え事をしていたから、部長の到来に気付かなかったのだ。

 時計を見ると、待ち合わせの時刻を五分ほど過ぎていた。

 「いえ、大丈夫ですよ。琴音先輩もまだ来ていませんし」

 琴音先輩は、遅刻するタイプでは無かったのだが。今日はまだ姿を見せていない。

 だが、部長はすまなそうに頭を振った。

 「そのことなんだが……鷲塚君から連絡があってな。今日は都合が悪くなったので欠席だ」

 「えっ……何かあったんですか?」

 琴音先輩のことだから、少々の事なら部活を優先しそうな気がしたので、何事かあったのかとふと思ったのだ。

 「何やら、知り合いが事故に遭ったらしくてな。見舞いに行きたいから休ませてくれと言っていた」

 事故、か。琴音先輩自身では無かったことに、不謹慎ながら安堵のため息を吐いてしまった。

 「さしあたり、我々だけで問題は無い。出発するか」


 目的の場所は、海岸に切り立った崖。ちょっと前に、そこから落ちて人が亡くなっていた場所だった。

 今回の調査内容は、いわゆる怪奇現象で。その場所に何らかの力が作用していて、ある条件下で崖下に引き摺り込まれる、などという物だった。部長はガセ扱いにしていたが、それでも安全のためザイルで転落防止の策はちゃんと施して調査していた。

 部長が集める情報には、もしそれが本当なら危険が及びかねないものから、見て楽しめる類の神秘などと色々あって。その原因というか現象の理由も神秘的なものからただの物理現象だったりと様々だった。

 情報を厳選している部長ではあったが、それでも大半はただのガセらしい。まぁ、今の世の中にそれほど神秘は溢れては居ないだろう。それでも、去年部長たちはいくつかの神秘を確認したらしい。条件が整うなら、俺たちも見に連れて行ってくれると言っていた。


 ***


 翌週、琴音先輩は学校を休んでいた。

 理由は教えて貰っていない。

 先日の、事故に遭ったという知り合いというのが身内かそれに近い人で、ショックで休んでいるのか。それとも、それとは関係なく単に病欠なのかすら判らなかった。

 それを聞くのに態々電話するのも憚られた。

 部長も「いくら鷲塚君でも病気くらいはするさ」と、気にするなと言っていた。

 だが、俺は何となく大事な気がしていて。理由も無く不安を感じていた。

 「鷲塚先輩、どうしたのかな。明臣に飽きちゃったとか?」

 奈緒が、浮かない顔をしている俺を慰めようとしてなのか、茶化すようなことを言い出した。

 「微妙に誤解を生む発言は止めろ」



 琴音先輩は火曜日も休んでいて。水曜日は祝日だったから、琴音先輩の姿を確認できたのは木曜日のことだった。

 「牧嶋……」

 放課後、俺の教室に琴音先輩が来て。彼女の様子に、俺は愕然としてしまった。

 教室に残っていたクラスの連中も、先週までの琴音先輩と様子が全然違っていることに気付いた様子で、教室はシーンと静まり返った。

 琴音先輩は呆然としていて、今にも倒れてしまいそうに見えた。

 彼女は俺の姿を見つけて、ふらふらと俺の傍まで来た。

 「……先輩、何かあったんですか?」

 奈緒が心配そうに声を掛けるが、彼女の耳には届いてないみたいだった。

 真っ直ぐ俺の目を見て。その目に涙を浮かべたかと思うと、震える手で俺の制服を掴んだ。

 「……真治さんが……」

 そう呟くと、ポロポロと涙を零して。我慢出来なくなった様子で、声を抑えながら泣き出してしまった。

 その様子に、何事かと見守っていたクラスメイトたちがざわついた。

 誰かが「牧嶋が女泣かせてやがる」と呟くのが聞こえた。

 変な誤解をされるのもアレだが、それ以前に、ここでは琴音先輩が落ち着けないだろうと、俺は彼女の肩に手を回した。

 「部室に……移動しましょう」

 囁く俺に、彼女は力なく頷いた。

 奈緒も心配そうに琴音先輩を見つめていた。


 すれ違う生徒に怪訝そうな目を向けられながらも、部室まで辿り着いた。

 部長は既に来ているらしく、鍵は掛かっていなかった。

 中に入ると、部長が顔を上げてこちらを見て。琴音先輩の様子に、心配そうに椅子を引いて、座るように促した。

 俺は、ハンカチで彼女の涙を拭った。

 「高杉先輩がどうしたんですか?」

 琴音先輩がさっき呟いた真治さんというのは、琴音先輩の更に一つ上の先輩、高杉真治さんのことだろう。それ以外、俺と琴音先輩が共通して知る相手は居ない。

 高杉先輩は、俺が剣道部に入っていたときの剣道部の部長で、卒業と同時に県外に引っ越していた。

 琴音先輩は当時、色恋沙汰に疎い俺が見ても判るくらいにはっきりと高杉先輩に好意を向けていたのだが、高杉先輩の方は鈍感なのか当事者だから気付かないのか、仲良くしてはいたものの琴音先輩にはただの先輩後輩としてしか接しなかった。

 それでも琴音先輩はずっと高杉先輩のことを想い続けていたみたいだったのだが、俺が知る限り、高杉先輩が卒業するまで告白らしいことは何もしていなかった。

 「先週末、真治さんが……事故に遭って……意識不明なの……そして……回復の見込みは……もう……」

 「先輩……」

 俺は何て声を掛ければいいか判らなかった。

 「あたし……真治さんに……まだ気持ちも伝えて無いのに……こんなことなら、ちゃんと告白すればよかった……」

 高杉先輩の事故については、琴音先輩にはどうしようも無いことだったから、諦めるしかなかった。だけど、これまで募らせてきた想いを伝えなかったことは、彼女自身の選択でしかなく。そのことが彼女を打ちのめしているらしい。

 俺も奈緒も、どうすることも出来ず。ただ、呆然と琴音先輩の前で佇んでいた。

 そんな俺たちに向かって、部長が何やら資料を差し出した。

 「オカルトでよければ……告白、出来るかもしれないぞ」

 「えっ……?」

 何を言い出すんだ、この人は?

 厳しい目を向ける俺に、部長は意外そうな顔をした。

 「私は至って真面目に言っているのだけどな。もうすぐ──ちょうどゴールデンウィーク辺りか──県内で『縁を映す鏡』と呼ばれる神秘が顕現する。その『縁を映す鏡』というのは、死者でも生者でも、望む相手と話が出来るという物らしくてな。ここで言う縁とは、通常なら血縁などを指すらしいのだが、夫婦でも大丈夫らしいから……もし、鷲塚君の想いが、その真治さんという人に通じているのなら、縁として成立するかもしれない」

 これまで部長たちが検証してきたと見せて貰った資料の中に、そんな高レベルなものは無かった。

 俺は疑いの目で部長を見たのだが。

 だけど、琴音先輩は、そんなものにも縋り付いた。

 「……本当なんですか……その話……」

 「私も自分で確認した訳では無いんだが、それなりに信用出来るところから入手した話だ。場所と時刻は、正確には判っていないが、ある程度の当たりはついている。何ら保証は無いが、試して見る気はあるかい?」

 部長の言葉に頷いてみせる琴音先輩の顔は、真剣そのものだった。


 少しは元気が出たのか、琴音先輩は俺に向かって「ごめんね」と呟くと、涙を拭って帰っていった。

 部長も「今日はもう帰るか」と席を立ったが、

 「部長」

 さっきの部長の発言に、ふと疑問を感じて呼び止めた。

 「ん?」

 「それなりに信用出来る話なのに、オカルトでよければ、って。どういう意味ですか?」

 俺の質問に、部長は目を瞬かせた。

 「どういうって。そのまんまの意味だが」

 部長の返事の意味が判らず。奈緒も、話が見えない様子で首を傾げていた。

 「例えば死者と話が出来たとしてだ。──それを誰が証明出来る? 姿形や、当人しか知りえない情報を語られたとしても。それが呼び出した人物の頭の中から投影されたものでは無いと誰も証明出来ないだろう? 例えば、誰かに殺された人物を呼び出して、呼び出した人物は犯人を知らない状況でも。誰に殺されたか教えて貰って、それが本当のことだったとしても、それ自体は証明にはならない」

 部長が言いたいのは。簡単に言えば、会いたいと願った当人の妄想に過ぎないかもしれない、ということなのだろう。そして、琴音先輩を元気付けるためなら、それが妄想だったとしても構わないだろうと。

 「無論、本当に死者と話が出来ていることを否定も出来ないだろうけどな。常識だけで考えるなら否定されるのだろうが、我々はそういう立場では無いからな」

 部長はニヤリと笑みを浮かべてみせた。


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