第二十九話
翌土曜日、朝からアメリアと出かけた。
デートである。
と言っても、大したことをする訳ではなく。一緒に、普段俺が行くところを歩いて回るだけだったりする。
近所の商店街やコンビニを巡る。
顔見知りも多く、アメリアのことを冷やかされるが、堂々と「俺の女だ」と告げると、皆一様に驚いていた。
アメリアから何と言っているのか聴かれて、『俺の女だと告げてるだけだ』と答えると、アメリアは嬉しそうに俺の腕を抱きしめて周囲を沸かせた。
商店街の中にある、小学校の同級生の親がやっている大衆食堂で昼飯を食うことにした。
昔から両親とも仕事で忙しかったこともあり、子供の頃から一人で外食を摂ることが多かったので、同級生の親ということを抜きにしてもここの店主とは顔なじみだったりする。
そんな状態なので、奈緒ほど親しくしていた訳ではなかったが、ここの同級生も一応幼馴染と呼べるくらいの付き合いはあった。別の高校に進学したのと、俺が自炊する様になったため、あまり会うことも無くなっていたが。
店に入ると、俺の顔を見て気楽に挨拶して来た店主が、口をあんぐりと開けて固まった。俺の腕にしがみ付いているアメリアの存在に驚いている様子。
いつも食べている定食を二人前注文すると、店主がようやく再起動して、奥へ引っ込んだ。娘を呼んでいるみたいだが、客が来たから手伝わせるのだろう。
その辺りの事をアメリアに話していると、
「ああっ!?」
店の奥から顔を出した幼馴染が、左手で口元を押さえ、右手で俺たちの方を指さして驚いていた。
「よっ」
片手を上げて、軽く挨拶。
だが、幼馴染は暫く固まっていた。
俺が注文した定食が出来たらしく、店主が片方を娘に持たせ、一緒に席まで運んできた。
「おまちどうさま。……明臣君、えらい別嬪さんを連れてるけど、コレかい?」
店主が小指を立てて、聴いてくる。
「ああ、そうだよ」
俺が首肯すると、幼馴染がふらついた。既に定食はテーブルに置いていたので何事も無かったが。
「おいおい、大丈夫かよ?」
声を掛けるも、幼馴染は何も答えず、店主は苦笑いするばかり。
何故かアメリアまで苦笑いしていた。
食事を終え、普段なら徒歩では行かないショッピングモールまで足を延ばすことにした。
バスで移動しようとしたのだが、そこまで遠くは無いとアメリアに告げると、歩いて行きたいと言われたので散策しながら歩いた。
俺の目当てはアクセサリ関係のパーツショップだった。魔物の足の欠片を使って、防御用のアクセサリを作ろうと思ったのだ。
おそらく、明日にはアメリアは帰ってしまうだろう。アメリアに、俺の事を思い出せる様な物をプレゼントしたかったのだ。エリスの話ぶりからは、物を対価として持ち帰るのは無理な様に聞こえたが、衣服やポケットの中身は持ち込みも持ち出しも出来たのだから、身に着けるアクセサリ程度なら問題ないだろう。
全部出来るかは判らないが、ペンダントとイヤリングとブレスレットを作る予定だ。本当なら指輪を作りたかったのだが、さすがに時間が足りないだろう。十分な加護を発動させるためには、指輪にするのはサイズ的に難しいという理由もある。
夕食をショッピングモールで済ませ、帰宅した。
風呂の用意をアメリアに任せ、俺は買って来たパーツに合わせて魔物の足の欠片をどうするかデザインを決めていく。
二人で風呂に入った後。アクセサリを作ってプレゼントしようと考えていることを伝え、デザインなど問題になる様な物が無いことを確認した。
アメリアの方でも俺に渡したい物を用意している最中らしく、俺は自室で、アメリアはダイニングで作業をすることにした。
魔物の足を薄い板状に切り、それを大中小の三種類、三角形にカットしていく。
小さい三角はイヤリングにぶら下げる玉状の飾りを覆う様に貼り付けてた。中くらいの三角はブレスレットに貼り付け、大きな三角はペンダントトップ用の台座に盛り付けていく。
土台を樹脂粘土で作ろうと考えていたのだが、しっかり固まるまで時間が掛かることから断念。接着剤で固めることにした。
近くで見たら素人丸出しの出来栄えかもしれないが、遠目にはそれほど悪くない感じに仕上がったと思う。
机の上に並べて乾かしていると、アメリアが入って来た。アメリアの方も、作業が終わったらしい。
日付も変わっていたので、二人ともベッドに入った。
***
朝から二人で衣空神社へ行くと、鳥居の前に何故か神秘学研究部の面子が全員揃っていた。何日か前にも見た光景だ。
「おはよう。今日あたり戻るだろうと聞いたので、皆で見送りに来たよ」
俺が何か言う前に、部長から説明された。由良と繋がっているから、こちらの情報は筒抜けだった。
連れ立って、道場の方に向かう。
中では由良と、配下の女性四人が正座して待っていた。
「お待ちしておりました」
由良が頭を下げる。
『結果はどうなりました?』
「それをお伝えする前に。アメリアさん、今回のお勤めの対価はいかがいたしましょう?」
おそらく結果を伝えると、それが帰還の合図になってしまうだろうと教えていたので、由良は全ての用件を終わらせてから伝えることにした様子。
『対価なら、アキオミから既に貰っている。ユラは何も心配しなくていい』
「そう……ですか」
由良は俺の方を向いて、頭を下げた。
「明臣様。お世話になりました。明臣様の助力が無ければ、私の務めは完遂出来なかったでしょう。そして、人的被害がどれくらい出ていたか、計り知れません。ありがとうございました」
由良と共に、配下の女性たちも一斉に頭を下げた。
「まぁ、成り行きでそうなっただけだし。あまり気にしないでくれ」
「ですが……いえ、この話はまた後日させていただきますね。今はアメリアさんのことが先です。何か、お伝えすることはありますか?」
由良は、睨む様な目で見ている奈緒を見て、そう告げた。
奈緒は一歩出て。
「アメリアさんにも伝えて。アメリアさんが居なくなった後、明臣のことはあたしに任せて。種馬なんかにさせないから、って」
由良は奈緒の言葉にクスリと笑うと、アメリアに耳打ちした。今の台詞を脚色してアメリアに伝えているみたいだ。
アメリアは奈緒を見て、ニヤリと笑った。
『……アキオミがあなたの手に負えるのなら』
一瞬、何のことを言っているのか判らなかったのだが。アメリアが俺の方を見て舌なめずりしたのを見て吹き出してしまった。ベッドの中でのことを揶揄しているのだろう。
由良もそっち方面の話だと気付いたらしい。
「アメリアさんは、あなたにこの暴れん棒が手に負えるのなら、って言ってますよ」
何だか言葉のニュアンスが違っている気がする。
微妙に脚色して、奈緒に通訳していた。
「勿論よ。あたし、負けるつもりはないから」
奈緒は正しく理解は出来ていないものの、何となく雰囲気を察した様子で俺を睨んでいた。
「それでは、改めまして」
由良は居住まいを正した。
「アメリアさんと明臣様のおかげで、無事、穢れを祓うことが出来ました。その後の調査でも、穢れの痕跡は残っていませんでした」
『つまり。私の仕事は終わった、と?」
「そうなります。ありがとうございました」
『判った……アキオミ、そろそろお別れみたいね』
アメリアの周囲に明滅する光点が現れ、アメリアの姿が徐々に透けていく。
「アメリア!」
俺はアメリアに抱き付くと、唇を奪った。
アメリアも俺の頭を抱き返した。
やがて、アメリアの姿が見えなくなる。
抱きしめた手も、唇も、感触が無くなっていく。
『アキオミ。渡したノート、上手く活用してね』
そう、言い残して。アメリアはこの世界から居なくなった。
「……最後、アメリアさんは何て言ってたの?」
気になるのか、奈緒に問われる。
「ノートを活用して、と言っていましたね」
俺が答える前に、由良が口を挿んだ。
「ノート?」
「ああ。今朝、アメリアから渡されたんだ」
リュックから、ノートを取り出して見せる。
「何が書いてあるの?」
皆が覗き込んでくるので、ノートを開いてみせた。
「……ああ、バカだな。俺、向こうの文字は習ってないんだけど」
パラパラとめくってみたが、びっしりと、文字らしき物で埋まっている。
俺が召喚されている最中、文字を見る機会は少なかったのだ。俺が覚えて来たのは、ゼロから九までの数字を表す文字だけだ。
「何よそれ……最後の最後で締まらないわねぇ」
「全くだ」
俺は片手で目を覆って天を仰いだ。




