第二十話
月曜になって。教室に入ると、今日も奈緒は先に来ていた。
そして、今日もまた不機嫌そうにしている。
「おはよう」
気にせず声を掛けると、
「……昨日、部長さんから連絡あったわ。あの人、送り届けて来たんだって?」
内緒にされてた、と思って不機嫌になっている様子。基本的に、アメリアと奈緒は無関係な筈なのだが。
「あたしに連絡くれないとか、冷たくない? お別れの挨拶くらいしたかったのに」
交友関係の広い奈緒にとっては、ちょっと知り合っただけの間柄でも、そういうところはきちんとしたいらしい。
なので、安心する様に、
「ああ、それなら。アメリアはまた家に連れて帰ったから大丈夫だよ」
昨日の顛末を伝えたのだが。
「……はぁ!?」
奈緒は、よけいに不機嫌な顔になってしまった。
そこへ。
「何々~? 痴話喧嘩? アメリアって誰よ?」
汐見さんが、獲物でも見つけたかの様に、奈緒に後ろから抱き付いて話に加わって来た。
「……明臣が、銀髪美女を家に連れ込んで何日も泊めてるだけよ」
「何ですと!?」
何故かそこに宮内が現れた。
「まさか、彼女……ですか?」
その背後から今度は沢渡まで加わる。って、その言葉、何度目だよ。
「お前らなぁ……学校外でのプライベートな話だ、コメントは控えさせて貰う」
色恋話が気になるお年頃なんだろうけど、聞かれる側には迷惑なだけなので、質問は全てシャットアウトすることにした。
放課後、部室に行くと、部長一人だけだった。
琴音先輩は、今日は休みらしい。明日からはちゃんと出てくると言っているらしいから、心配はいらないだろう。
奈緒は、不機嫌顔のまま先に帰ってしまっていた。
既に巫女から連絡を受けているかもしれないが、衣空神社での顛末を部長に話す。
「──なるほど。それで三宮君は来なかったのか」
どうしてそこに繋がるのか判らないので、その発言はスルーした。
「だが、あの子に目を付けられるとは……君も災難だな」
「……判っていて連れて行ったんでしょう?」
俺の問に、部長はフフンと笑うだけで、何も答えなかった。
***
翌日。奈緒は、朝からはずっと俺のことを無視していた。
四時間目の授業が自習になり、汐見さんが俺の席まで来て、
「なんとかご機嫌取りなさいよ。こっちまで気まずいじゃない」
などと言うのだが、アメリアのことでとやかく言われる謂われは無いので、俺は肩をすくめて見せるだけだ。
なんてやり取りをしていると。窓際の男子が騒ぎ出した。
「おい、あれ見ろよ。巫女さんじゃないか?」
「どれどれ。──ほんどだ! 一緒にいるのは外人さん? 綺麗な銀髪だなぁ」
などと、不吉なことを言い出した。
思わず席を立って、他の連中に交じって窓際に行くと。校門付近に、それらしい姿を発見した。
……あれ、やっぱりアメリアと巫女、なんだろうなぁ。
ため息を吐きながら眺めていると、巫女がこっちを向いて手を振った。かなり距離があるのに、教室にいる俺が判ったのだろうか。
アメリアも釣られてこっちを見て。やはり俺に気付いた様子で手を振り始めた。
「……あれ、アメリアさん?」
いつの間にか、隣に奈緒が立っていて。アメリアたちを見て呟いた。
「隣にいる巫女姿の人は誰よ。また女増やしたの?」
「えっ、あの二人、牧嶋君の彼女なの!?」
汐見さんが大きな声でそんなことを言い出すものだから、クラスは騒然となった。
そのタイミングでチャイムが鳴ったので問題にはならなかったが、そうでなければ他のクラスから教師が飛んできた可能性もあった。
俺は慌てて教室から飛び出すと、急いで下駄箱まで移動したのだが、何故か奈緒まで付いて来ていた。
奈緒を見ると、不機嫌そうに睨み返され、何も言えず放置することにした。
校門まで走ると無駄に目立ちそうだから、速足で歩いた。巫女が俺の姿を見てまた手を振るものだから、結局目立っていたのだが。
「明臣様。またお会いできて嬉しいです」
近くまで行くと、巫女がペコリと頭を下げる。
「明臣……様?」
巫女の挨拶に、奈緒は不審顔だ。
「初めまして。このたび明臣様と誼を結ばせていただきました、古部由良と申します。よろしくお願いいたします」
「……初めまして。明臣の幼馴染の、三宮奈緒です」
丁寧に挨拶されて、奈緒は気勢が削がれた様子で、挨拶を返していた。
直後、奈緒はぐりんと顔を俺に向けて、小声で、
「誼を結ぶって、何やらかしたのよ?」
まるで俺が何かやらかした様に詰問される。
「別に、何もやってないんだけどな」
説明するのも面倒なので、とぼけることにした。いや、実際何もやってはいないのだが。
「それで。今日はどうしたんですか?」
「例の準備が整いましたので、アメリアさんを迎えに来たのです。今日明日で調整して、本番は明後日の夜を予定しています」
巫女は主語をぼかして説明した。
奈緒は何のことか聞きたそうにしていたが、アレは秘密なのだろうから俺も無視するしかなかった。
***
結果の連絡を受けたのは、木曜日の深夜だった。俺も気にしているだろうからと、巫女から電話があったのだ。
そして、その結果なのだが。
「穢れの討伐ですが、うまく行きませんでした」