表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神秘と召喚  作者: KARYU
17/30

第十七話

電話での会話について、相手の台詞は『』にした方が判りやすいと思ったのですが、アメリアたちの言語をこちらで使う場合に『』として使っているため、電話のこちら側と相手側を区別せずに書いていますm(__)m

 翌日、朝からアメリアが召喚された場所付近を探索した。

 先日はキャンプ場まで辿り着くとひっくり返っていたのに、今では息も上がらないことに自分でも驚いた。

 結局、手がかりは何も見つけられなかったのだが、いいトレーニングにはなったと思う。


 ***


 連休が終わって。俺が学校にいる間は、アメリアは家で待つことになった。

 一人でこの世界を彷徨うのはまだ不安らしい。部長も手を尽くしてくれているらしいので、暫くは待機すると言っていた。


 朝から教室に入ると、既に奈緒がいた。俺より先に登校しているのは初めてかもしれない。

 奈緒の席は入口に近く、すぐに俺に気付いたのだが、不機嫌そうに眼を逸らした。

 アメリアの件で何か文句でもあるのだろうか。だとしても、俺としては何も言うことはない。

 構わず自分の席に座ると、何故かクラスの女子が数人、俺に近寄って来て。

 「ちょっと、牧嶋君」

 そのうちの一人、たしか汐見さん、だったか。俺に顔を寄せ、小声で話しかけて来た。

 彼女は普段、奈緒とよくつるんでいる人だな。他の女子も、その仲間だった。

 「朝から奈緒っちの機嫌が大変よろしくないみたいなんだけど、牧嶋君、奈緒に何したの?」

 どうしてか、俺が原因だと決めつけている様子。

 心当たりと言えるか判らないが、あるとすればやはりアメリアの件しかない。だけど、それで何故、奈緒の機嫌が悪くなるのかが判らない。

 「いや、よく判らないんだけど……一昨日からちょっと変なんだよ」

 俺の返事に、汐見さんたちは顔を見合わせ、──ニヤリと笑った。

 「へぇ……連休中、会ってたんだ?」

 「ああ。部活で、だけどね」

 もっと色気のある話を期待していたみたいだが、すぐにオチを話す。

 「あぁん、もうちょっと遊ばせてくれてもいいのにぃ」

 汐見さんは残念そうに肩を落とした。


 午後の最初の授業は体育だった。

 短距離を数人ずつ繰り返し走らされたのだが、今の身体能力で本気を出すと、どれくらい速く走れるのか判っていないが、どういう結果になるのかは明らかだった。

 適当に手を抜こうと思ったのだが、召喚前の俺はどんな風に走っていたか、全く思い出せない。

 別に走り方を教わった訳ではないが、向こうでの走り込みの中で、元の走り方からかなり無駄が削ぎ落されていると思う。そして一旦その走り方を覚えてしまうと、今度はフォームを崩して走るのに我慢できなくなってしまっていた。

 そのため綺麗なフォームでゆっくり走っていたのだが、体育教師からは「手を抜くな」とか「もっと本気で走れ」と怒鳴られた。「お前の本気はその程度か!?」などと言われて思わず笑ってしまいそうになったのだが、他の男子生徒にまでとばっちりが行きそうだったので我慢した。


 体育の授業が終わり、体育館にある更衣室に向かう途中、クラスの女子たちとすれ違った。

 女子は、体育館で体操だったらしい。

 沢渡はそれを聞いて、「そっちを見たかった」などとぼやいていた。体操と聞いて、別のモノを想像しているみたいだ。

 奈緒たちともすれ違う。奈緒は、相変わらず不機嫌そうにしていて。俺と目が合うと、プイっと横を向いた。汐見さんはその様子を見て吹き出していた。

 「えっ……?」

 その時、奈緒の後ろにいた南木さんが、俺の方を見て、立ち止まって驚きの声を上げた。

 「どうかした?」

 手前にいた汐見さんが、首をかしげて問う。

 だが南木さんはそれに答えず、俺に近寄ると、まじまじと全身舐め回すように眺め始めた。

 「なっ、何かな?」

 その挙動不審さに戸惑い、とりあえず理由を問う。

 「……あなた、誰?」

 その返しに思わず吹き出してしまった。

 「酷いな。隣の席の牧島だよ。連休で顔を忘れた?」

 「いいえ、あなたが牧嶋君である筈がないわ。こんな見事な筋肉、私がチェックを漏らす筈がないもの」

 ……なんか埒外なことを言われてしまった。まさか、そんなところで召喚後の変化を読み取られるとは思いもしなかった。

 「そういえば。牧嶋氏、連休前と比べて、髪が長くなっていませんか?」

 沢渡からも突っ込まれてしまった。一か月ちかく向こうで過ごしたから、少し髪が伸びていて当然だ。自分では気付かなかったし、奈緒たちからも突っ込まれなかったから、全く気にしていなかった。

 そこは何とも言えなかったので、スルーすることにした。

 「……連休中、山に登ってかなり鍛えて来たからな。筋肉も結構付いているんじゃないかな?」

 わざとらしく、力こぶを作ってみせる。実のところ、あれだけ鍛錬を繰り返して、身体能力も格段に向上しているにも関わらず、ほとんど体積は変わっていない。体重は一割以上増えていたが。

 自分で見た限りでは、少し引き締まったかな、くらいの感想しか抱かなかったのだが。筋肉フェチの目から見ると、随分と違って見えるみたいだ。

 「そんな筋肉を見せられてしまったら……君の子供を産みたくなってしまうではないか」

 一瞬の沈黙の後。

 「「「えええええぇーっ!?」」」

 奈緒たち女子は驚愕の声を上げ、沢渡ら男子は盛大に吹き出した。

 「……唐突に何を言い出すかな」

 「あれ、何かおかしかった? 最上級の誉め言葉のつもりだったんだけど」

 「いやまあそうなのかもしれないけどさぁ……」

 思わず頭を抱えてしまった。


 部室に行くと、琴音先輩は休みだった。

 昨日、高杉先輩が亡くなって。琴音先輩は昨日の通夜から今日の葬儀までずっと高杉先輩の傍にいたらしい。

 俺にも一報入れてくれてもよかったのに。アメリアのことがあったから、気を遣ってくれたのか。


 ***


 翌日。

 「失礼します」

 教室で授業を受けていると、事務員のお姉さんが教室に入って来た。

 「……なんでしょうか?」

 授業をしていた数学担当の相沢先生が、何事かと問う。

 「牧嶋君の家の方から電話がありまして。大至急、お母さんの携帯に電話を掛けて欲しいと言付かったのですが……」

 うちの親から電話?

 相沢先生が俺を探すよりも早く、俺は立ち上がって、慌てて事務員の傍に駆け寄った。

 「詳しいことは聞いていません。一旦電話は切られていますので、牧嶋君の方から電話を掛けてください。事務室の電話を使いますか?」

 「いえ、携帯がありますので。──相沢先生、電話を掛けに廊下に出ますね」

 相沢先生は無言で頷いた。

 事務員と一緒に廊下に出る。

 「それでは、お願いしますね」

 事務員はそのまま事務室へ戻って行った。

 携帯の電源を入れる。

 起動すると、着信が三件入っていた。

 そのまま母の携帯に掛ける。

 一コールで母が出た。

 「明臣っ!?」

 「なっ、何かあったの?」

 慌てた様子の母に、何事か問う。すると──

 「──あんたの部屋に、知らない女の人がいるんだけど」

 「ちょっ、母さん、家に帰ってるの!?」

 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 背後の教室で、誰かが盛大に吹き出していた。今のは奈緒か。俺の言葉だけで状況を把握したのだろう。

 「……もう。やっぱりあんたが連れ込んだのね。洗濯物をたたんでいたから泥棒じゃあないとは思ったけどさぁ。言葉も通じないからどうしていいか判らないじゃないの。家に放置しているのもアレだけど、誰か家に住まわせるのならせめて一言くらい連絡入れてよね」

 「……ごめん」

 台所の状況などから、アメリアが泊まり込んでいることを察したのだろう。

 当分家に帰ってこないと思っていたから、わざわざ連絡を入れて心配させることもないと思っていたのだが。

 「……それで。言葉通じないけど、どうしてるの?」

 「ああ、それなら大丈夫。俺が彼女の言葉を話せるから」

 「うそっ!? 母さんには何語かすら判らなかったのに、話せるの?」

 「うん。ちょっとアメリアと変わって貰えるかな? 俺の名前を言ってから携帯を差し出せば多分大丈夫だから」

 「本当かしら……判った、彼女と代わってみるわ」

 電話の向こうで、何やら話をしているのが聞こえる。

 『──アキオミ?』

 『ああ、そうだ。今アメリアに電話を渡したのは、俺の母親だから』

 『やっぱり。部屋に入って来るとき、アキオミの名前を呼んでいたから、そうだと思った』

 『すまん。まさか、家に帰ってくるとは思わなかった』

 『仕事で外出しているだけなら、帰ってくることもあるでしょう。……不審者と思われていなければいいのだけど』

 『アメリアが洗濯物をたたんでくれていたから俺の客だとは思ったらしいけど、何せ言葉が通じないから困っていたみたいだ。俺から説明しておくから、もう一度、母さんに電話を渡してくれ』

 電話の向こうで、ガサゴソと物音。

 「……明臣、今の、本当に通じているの?」

 母さんにはまだ信じられないみたいだ。

 「大丈夫だから。アメリアには、母さんのことを説明しておいたから。アメリアのことなんだけど、俺の知り合いに彼女と同郷の人がいて、言葉はその人から教わっていたんだ。アメリアは誰かに招かれて日本に来たらしいんだけど、待ち合わせ場所に現れなかったみたいなんだよ。そして彼女が日本語が話せなくて困っていたのを見かけて、俺が手助けすることにしたんだ」

 「……色々と言いたいことはあるけど……まだ授業中よね? こっちのことはもういいから、授業に戻りなさい。──今度、洗いざらい吐いて貰うからね」

 ……色々問題含みではあるけど、とりあえず保留にしてくれたので安堵した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ