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神秘と召喚  作者: KARYU
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第十六話

 奈緒たちが帰ったことで、アメリアはようやく落ち着けたみたいだ。

 両親とも仕事で戻ってこない日が多く、自然に自炊する様になっていたのだが。今日は気疲れしていたのでご飯だけ炊いて、レトルトのカレーで夕食を済ませることにした。

 アメリアには甘口を用意したのだが、試しに俺が食べてる大辛も味見させてみても大丈夫みたいだった。

 食後、ヨーグルトドリンクを飲んで一息ついたところで、アメリアが気まずそうに切り出して来た。

 『あの二人は……あなたの女なの?』

 何を気にしているかと思えば。そういう誤解をして、所在無げにしていたのか。

 『違うよ。奈緒はただの幼馴染で、琴音先輩は学校の先輩に過ぎないよ』

 『そうは見えなかったのだけど。今日、二人が私たちに付き合ったのは、私を警戒してのことでしょう?』

 『どちらかと言えば、アメリアのためだよ。俺がアメリアに変なことをしないか、などとおかしな心配もしているみたいだが』

 俺の言葉に、アメリアはキョトンとした。

 『変なことって?』

 『俺が、力尽くでアメリアを手篭めにしたりしないか、なんてな』

 自嘲気味にそう言うと、アメリアも苦笑いしていた。

 『力尽く……そうね、あなたの方が強いのだから、その危惧も見当違いとは言えないのかも』

 『……強いのは、今のうちだけかもしれないけどね』

 『それって、どういう意味?』

 『そのまんまの意味だよ。俺が向こうの世界で強くなれたのは、《ギフト》のおかげなんだ。俺の《ギフト》は学習能力らしくてね。効率的に肉体を鍛えたり、技を磨いたり出来たんだよ。だけど、こっちに戻ってきたから。召喚され、役目を果たして戻った場合、《ギフト》の一部を持って帰れる、なんて話も聞いたけど。仮に《ギフト》が一部残っていたとしても、今の俺の能力を維持できるとは思えない。元々、俺に武術は向いていなかったみたいだしね』

 アーシュたちは各部門でも上級者と言っていい筈。そのアーシュたち三人と《ギフト》全開で密度の濃い鍛錬を続けていたのだ。それと同等のことをこちらの世界で望むのは無理だろうし、普通に生活していく上では鍛錬に避ける時間もずっと少ない。

 『それでも……ギフトがあくまで学習能力であるのなら。あなたが今のレベルにまで上達出来たのは、あなた自身にそれだけの素養があったということよ。もちろん、効率的な鍛錬の方法が無ければ到達し得ない領域なのでしょうけど、それでもあなたには才能があったのでしょう』

 『到底信じられないけどな……どちらにせよ、こっちに戻って来たから、後は衰える一方だろう』

 昔のことを考えれば、才能など微塵も感じられないんだけどな。それとも、鍛錬が足りないだけだったのだろうか。当時は召喚前よりも更に体力が無かったから、そんな鍛錬は不可能だけど。

 『こちらでも鍛錬は出来るでしょう? ……って、私が相手では不足でしょうけど』

 『いや、アメリアが付き合ってくれるなら、劣化を遅らせることは出来るかもしれないな』

 『それなら、あなたの鍛錬メニューは私が考えておきますね』


 その後、風呂などを済ませて、寝る段階になって。

 アメリアには俺の部屋のベッドで寝るように指示をして、タオルケットだけ持ってダイニングに戻ろうとしたところでアメリアに掴みかかられた。

 『何処へ行くつもり?』

 『……俺はそっちで寝るから』

 『家主にそんな真似をさせるくらいなら、私はここから出て行くわ』

 立場は違うが、エリスとのやりとりみたいだ。

 『かといって、アメリアにベッド以外で寝てもらうのは、歓待する側としても看過できない』

 『それなら、一緒に寝ればいいでしょう』

 ……頭が痛くなってきた。

 『お前たちって、そういう文化なのか?』

 『……何の話よ?』

 『召喚先でも、俺が床に寝ようとしたら、一緒に寝ないのなら自分が床で寝る、なんて言われたんだよ』

 見ず知らずの相手と同衾することに抵抗がない、なんて文化じゃないだろうに。

 『それは当然です。あちらでは、あなたは請われて呼ばれたのだから。もてなす側としては当然でしょう』

 『ここでは俺がもてなす側なんだが』

 『事情が違います。私は、あなたに請われてこの世界に来た訳ではありません。あなたはただ、私が困っているから手助けしてくれているだけに過ぎません。そして私たちの文化では、謂れも無く施しを受けることは不名誉なことだと思うのが一般的です。特に、私たちの様な立場の者であれば尚更そう考えます。当然、あなたからの手助けに対して、私は対価を支払うつもりです』

 『あいつも対価を払うって、言い続けていたな』

 思わずため息が漏れる。

 『そういう文化なんです。対価や報酬は、正当なものでなければなりません。……あなた、ちゃんと対価を受け取って来たのでしょうね?』

 『いや……さすがに無理だった。体を差し出されたんだぜ?』

 やれやれ、と言う感じで説明したのだが、アメリアの方がやれやれ、みたいな感じで嘆息した。

 『他に支払える物が無ければ、そうなるでしょう。私も、あなたに支払える物はこの身一つしかない訳ですし』

 チラ、と襟元を捲って見せてくる。

 その辺りの観念について、色々と疑いたくなる。いや、そういう文化だと言い切られてしまえばそれまでなんだが。異世界の人間にこちらの観念を押し付けるのも非常識なのかもしれない。だけど──

 『……別に、貞操について軽く考えている訳ではあるまい?』

 『当然です。だからこそ、対価としての価値があるのです』

 そんなことを言われてもなぁ。

 『確かに俺は、彼女を助けたが……そんなことで、彼女の初めてを貰う気にはならなかったんだよ』

 『……寧ろ、貰わないことが残酷な場合もあります。あなたが受け取らなかったことで……その女性はもう誰とも結婚しないかもしれません』

 『なっ……どうしてそうなる?』

 アメリアの言葉に愕然とした。

 『ある種の誓いだと考えてみてください。対価としてあなたに差し出すことを誓ったのです。他の誰にも渡せないでしょう?』

 『誓いって……そんな……』

 ……俄かには信じられない。だが、不安にもなる。

 別に、エリスはそう宣誓した訳ではなかった。ただ、どこまで本気でいたのかも俺には判ってなかったのだ。

 『……まぁ、その辺りは……個人で考え方も違うでしょうし、必ずしもそうするとは限らないでしょう。ただ、私ならそうするかもしれない、という話です』

 アメリアの宣言に、開いた口が塞がらない。 

 そんな俺の様子に、アメリアはクスッと笑った。

 『別に、嫌々差し出す、なんてことを言っている訳ではありませんよ? 私は、剣術家としてそれなりに名も通っていまして。それなりに求婚もされてはいたのですが、好みのタイプで、かつ私よりも強い男性は現れなかったのですよ。……今までは』

 アメリアはそう言うと、妖艶に微笑んで見せた。


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