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神秘と召喚  作者: KARYU
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第十三話

 体感で数秒ほど五感を喪失していたのだが。気が付くと、俺はオレンジ色の光に包まれていた。

 召喚に纏わる神秘的な光ではなく。明け方か夕方かは判らなかったが、太陽光だろう。

 見回すと、周囲は岩肌に囲まれており、どうやらここは『縁を映す鏡』が顕現した場所らしい。召喚された所に戻って来たのだ。

 だけど、召喚された直後では無いみたいだ。

 エリスから寝物語に聞いた話では、各々の世界で時間の流れが違うのか、世界を渡る際の同期が取れていないのかは判らないが、現地での滞在時間と元の世界での経過時間に相関は無いらしい。言い伝えでは、元の世界での経過時間の方が短いらしいのだが、それも確証は無い話。実際に俺が召喚された後、どれくらい経過しているのか不安になる。

 だが、その不安は直ぐに解消された。

 「……牧嶋君か?」

 岩陰から、部長が現れたのだ。

 「明臣!」

 そして、部長の背後から奈緒が飛び出して来て、俺に抱き付いて来た。

 服装は若干違うが、見た感じ二人の様子は召喚前と殆ど変わらない。

 「どこに行ってたのよ!? 心配したんだから……」

 奈緒は俺を捕まえたまま、泣き出してしまった。どうやら、本気で心配してくれていたみたいだ。

 「……俺、どれくらい消えてたんだ?」

 「四十時間くらいだな」

 俺の呟きに、奈緒ではなく部長が答えてくれた。

 彼女も心配そうな顔をしていたのだが、俺が無事な様子にため息を吐いた。

 「君が消えてしまった後、暫くこの中を捜索したのだが、どこにも見当たらなかったんだ。神秘が絡む話だったから、事件として捜索願を出すことも憚られて、私たちだけで捜索を続けてたんだよ。下山予定日までに見つからなかったら、諦めて警察に届けようと思ってはいたのだがね」

 と言うことは、今は夕方か。そして、経過していたのはたったの二日弱。やはり、時間の流れは同期してないらしい。

 こちらの経過時間が短くて助かった。浦島太郎みたいな状況も、少しは覚悟していたのだ。

 「しかし……そういう聞き方をすると言うことは、何やらおかしな事態に巻き込まれたみたいだな」

 部長がニヤリと笑みを浮かべた。望外の神秘ネタに興奮を隠せないみたいだ。

 「まぁ、その話はおいおい……って、琴音先輩は?」

 この場所での出来事を思い出す。琴音先輩の精神状態が心配だった。

 「ああ、鷲塚君なら……ここに来る途中、襲ってきたやつがいただろう? 昨日は居なかったんだが、今日また出くわしてしまったんだ。そして、先日の様には引き下がってくれなくてな。こっちに来ないところを見ると、まだ外で相手をしているんだろう」

 この前は、琴音先輩が相手の獲物を叩き折って退けたのだが、今日は向こうもそれなりの得物で対峙してきたのだろう。

 部長は落ち着いているが、俺は琴音先輩の事が心配になって、洞窟から飛び出した。

 この前二人が争っていた場所に近づくと、鈍い打撃音が聞こえて来た。

 駆けつけると、琴音先輩が片膝をついて、肩で息をしていた。

 「琴音先輩!」

 俺の登場に、琴音先輩が目を丸くする。対峙していた相手はその隙を見逃さず襲って来ようとしたが、俺は琴音先輩から素早く木刀を奪うと相手の攻撃を弾き返した。

 「なっ!?」

 琴音先輩が驚いているのは、簡単に木刀を奪われたことに対してか。

 相手は距離を置いて、様子を窺っている。俺を警戒しているみたいだ。

 改めて、相手の姿を見た。

 すらりと長い手足。身長はアーシュくらいか。ボディラインはアーシュよりも更にメリハリがある。アーシュよりも若干年齢が上なのだろう、アーシュには無い色香を感じさせる。

 肩口で切りそろえられた銀髪は、夕日を浴びて金色にも見えた。そしてその顔は、ややきつめな印象はあるが、アーシュやエリスよりも美形だった。

 木刀よりやや太い木の棒を得物にしているが、その構えはカイトに似ていた。

 無言で暫く見合って。やがて、短く息を吐いてから攻撃を仕掛けて来た。

 鋭い剣戟。カイトの剣技に似ているが、その技のキレは終盤のカイトよりも上だった。

 だが、それでも俺の方がまだ上だった。

 危なげなく捌いていると、連戟のペースを上げて来る。

 それもいなしていると、今度は体を左右に振って、トリッキーな大技を繰り出して来た。

 「気を付けて! その攻撃は──」

 琴音先輩が警告らしいことを叫ぶが、問題なく対処出来るレベルだ。逆に、隙を突いて反撃に転じる。

 そこからは、相手は防戦一方になって。大きく踏み込んで、突きを繰り出すと相手は無理に体を捩って躱す。足元がお留守になっていたので踏み込んだ足で軸足を刈ると、相手は大きくバランスを崩した。

 相手の注意が足元に行ったので、相手の得物を木刀で絡め取って上に弾くと、得物が宙を舞った。

 よろけて立木に背を預けた相手の眼前に木刀を向けて、動くなと意思表示をする。それで相手は大人しくなった。

 無言のまま対峙していると、俺の周りに皆が集まって来た。

 「……お前、牧嶋じゃないな?」

 琴音先輩が変なことを言い出した。

 「なんですか、それ?」

 「私が知っている牧嶋は、そんなに格好良く無いもん」

 思わず噴き出しそうになる。

 「俺、格好良かったですか?」

 会話をしながらも警戒を解かないでいる俺を見て、銀髪の女性はため息を吐いた。

 『剣術しか取り柄の無い私が……剣術で負けた、か。最早私には何も残っていない。好きにするがいい』

 その相手の言葉に、

 『別に何もするつもりは無いよ』

 と思わずエリスたちの世界の言葉で返事をしてから、相手が発した言語に気付いた。

 相手は驚愕の目で俺を見つめた。

 『よければ、君の事情を話してくれないか? 俺なら力になれるかもしれない』

 俺の言葉に相手は涙を浮かべて、

 『やっと……逢えた』

 向けている木刀を掻い潜って俺に抱き付いて来た。


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