表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神秘と召喚  作者: KARYU
11/30

第十一話

 翌日から槍の扱い方を教えて貰った。

 武術については剣道しか知らないから、色々と新鮮だった。

 攻撃の型を教えて貰い、壁際に並べられた甲冑の案山子を相手に攻撃練習をして。

 防御の型を教えて貰い、アーシュからの攻撃を捌く練習をした。

 運動能力的にはアーシュに近づけたと思っていたのだが、得物を持って対峙すると、初めのうちは全く相手にならなかった。

 アーシュの動きが目で追えず、アーシュの動きに対して体の反応が遅れてしまうのだ。身体能力は以前と比較にならないほど向上したものの、動体視力と反射神経が追い付いていないのだ。だがそれも、繰り返しアーシュと対戦することで向上できた。

 得物を持って三日目にはアーシュの攻撃をどうにか捌くことが出来る様になり、四日目には数回に一度は反撃出来る様になった。五日目に、俺からの攻撃が当たる様になるに至って、エリスは俺の《ギフト》を断定した。

 「アキオミの《ギフト》は、学習能力でしょう」

 「……武術の才、という話ではないのか?」

 グレンの質問に、エリスは笑って根拠を述べる。

 「皆、気付かない? アキオミが既に私たちの言葉を話していることに」

 俺自身、言われるまで気付かなかった。まだ覚えていない語彙の箇所は日本語が混じっていたが、ほぼこちらの言葉で話をしていたのだ。

 ……この状態で、学校の勉強をしたらものすごく効率がいいんだろうな。

 思わず益体もないことを考えてしまう。

 「じゃあ、次はグレンと格闘術の訓練をして頂戴」

 エリスの言葉に、皆不思議そうな顔をした。

 「このまま槍術の訓練をして、アキオミに出て貰うんじゃなかったんですか?」

 「いいえ。召喚システムは、ちゃんと望みを叶えてくれる相手を召喚してくれたのよ。アキオミの《ギフト》が学習能力であるなら。槍術だけでなく、格闘術も剣術も短期間で上達が可能でしょう。そうなれば、あなたたち全員、同門との訓練が可能になるのよ」

 アーシュたちは三人とも上級者ではあったのだが、全員部門が違うため同門対決である武術大会の訓練には効率が落ちるのだ。

 そこで俺が、三人とも効率よく訓練出来れば、エリスの望みを叶えることが出来るかもしれない。そもそも、一人だけでも優勝すれば処刑は免れることが出来るのだが、それでも長期の服役を課せられてしまう。二人優勝すれば数年の服役。無罪を勝ち取るには三人とも優勝する必要があったのだ。


 次の日から格闘術を学んだ。

 動体視力と反射神経がかなり向上していたため、初めからそれなりに戦うことが出来ていて嬉しい。

 三日目にはグレンと互角に戦える様になった。


 更に次の日からは剣術を学んだ。

 三日目にはカイトを圧倒するまでに至り、

 「これでアキオミの特訓はひと段落したと考えていいわね。それでは、アキオミの身柄は返して貰うわ」

 エリスがそんなことを言い出した。

 「そっ、それは──」

 アーシュが止めようとするが、

 「これから先のことを話し合う必要があるのよ。これは、私がやらなければいけないことだから」

 エリスにそう断言され、アーシュも沈黙した。


 夕食後、エリスの部屋に連行された。

 「どうしたんだよ。よもや、俺がアーシェと同衾していることを妬いている訳でもあるまい?」

 「あら。そういう面もあってはいけない?」

 エリスはにこやかにそう返す。俺をからかっているみたいだ。

 「これから先のことを話し合う、というのは本当のことよ。明日から八日間、三人に稽古をつけて貰って、その次の日が本番。武十大会が始まったら、アキオミには私の命を守ることをお願いするわ」

 なんでもない風にそう言われて、その不穏当な事柄を聞き逃しそうになった。

 「……命を狙われているのか?」

 「元々、私は嵌められてここに捕らわれているのよ。犯人も、まさか私たちが武術大会で優勝するとは思ってもいないでしょうね。裁判所主催の武術大会だし、ある意味牢獄の中よりも厳重だから、大会そのものへの妨害工作は強者を送り込む以外は難しいでしょう。だから、私たちの優勝が目前になったとき、犯人が動くとすれば、観覧席の方でしょう。そちらもある程度厳重ではありますが、後ろ盾が無い状態の今の私相手なら、襲撃出来なくもないでしょうね」

 まるで、犯人に目星がついている様な言い方だと感じた。

 「相手に心当たりがあるのか? あと、そのことを三人は知っているのか?」

 「……ええ。大会当日、私に接触してくる人物が犯人だと思うわ。あと、あの三人には知らせていません。大会を目前にして、動揺させて何になります? 大会で優勝することは絶対条件なのだから、余計なことで悩ませてはいけません。それに、私にはアキオミがいるのだから、何も問題はないでしょう?」


 その後、八日間掛けて三人の特訓を行った。

 初めはローテーションを組んで、俺が相手をしていない二人も対戦しつつ、休憩を挟みながら入れ替え戦を行っていたのだが。俺が見切りや無駄な力を使わないやり方を学習していき、また体力も更に向上していった結果、俺は休憩いらずで次々に対戦訓練を施し、相手がバテたら交代させる流れになった。

 最終的には、剣と槍を持ち、三人同時に相手をして、相手に合わせて得物を換えつつ戦うまでに至った。それでも、俺より先に三人がバテて動けなくなっていたが。

 「……すっかり化け物になっちゃったわね」

 アーシュの呟きに、俺も同意してしまった。


 三人への特訓の合間、と言っても夜のことだが。寝物語、というと誤解を招きそうだが、寝る前に、エリスからこちらの世界のことについて色々と教えて貰った。ついでに語彙の習得も捗ると思ったのだ。

 こっちは何と呼ばれる世界なのかと質問したのだが、ここはイシュトラムサスという大陸にあり、その半分程度を治める同名の国であると言われた。

 「世界に名前何て必要ないでしょ? 特定の他の世界と自在に行き来出来るとかいう状態なら別だけど。敢えて言うなら、『世界』を意味する単語の読みがその世界の名前と考えればいいのでしょうね」

 それもそうか。

 神話などで名称が語られている場合は別だが、そうでなければわざわざ呼称を充てる意味は無さそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ