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神秘と召喚  作者: KARYU
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第十話

 昨日と同様に柔軟体操の後にランニングを始めたのだが。一時間もしないうちに、異変に気付いた。

 「どうしたの、アキオミ。もう疲れた?」

 訝しむ俺の様子に気付いて、アーシュが声を掛けてくる。

 「いや……逆だよ。昨日ならそろそろバテてくる頃合いだったけど……あまり疲れを感じないんだ」

 走りながら返事をする。

 体が妙に軽く感じていて、昨日と同じくらいのペースで走っているにも関わらず、まだ余裕があるのだ。

 「それって、《ギフト》の発露だったり?」

 「判らん」

 エリスの話では、能力に慣れないうちはその強大さに振り回されることはあるみたいだが、力を発揮すること自体に苦労する話は例がないらしい。だから俺の場合も、力の方向性が判っていないのだろうと予測していたのだが。

 「……とりあえず、私も模擬戦に参加したいから、ペースを上げるね」

 アーシュはそう言うと、いきなり飛ばし始めた。

 慌てて後を追うが、中々追いつけない。まるで短距離走のペースだった。

 だけど、追いかけているうちに、自分のペースが上がっていくことに気付いた。走っているうちに、力任せのフォームから徐々に楽なフォームに変化していく。それにつれ速度が上がっていくことから、最適化されているのだろう。

 アーシュは俺が追い付いて来たことに気付くと、更にペースを上げた。


 「ぜぇ……もう、無理……」

 さらに一時間ほど走り続けて、俺はバテて動けなくなった。

 アーシュも少し息が上がっている様子。

 「ちょっと……驚いたわ。昨日と全然違うんだもの。やっぱり、《ギフト》の力が働いているんだと思うわ」

 「……だろうな。だけど、どういう力なんだろ?」

 身体能力は、確かに上がっている。だけど、それだけだ。元の自分からすれば驚異的な話だが、エリスの助けになる様なレベルじゃない。

 「後で、エリスに聞いてみるか……」

 体力を使い果たし、考える気力が湧かなかったので後回しにしよう。



 「そう……何等かの力が働いていることは間違いないでしょうね。幸い、まだ時間はあります。アキオミは引き続き鍛錬を続けてみてください」

 昼食後、状況をエリスに報告したのだが、エリスにもまだ《ギフト》の能力は判らない様子。

 「そいうや、時間ってどれくらいあるんだ?」

 例の武術大会までの日程のことだ。

 「あと、二十日ほどあるわね。余裕があるとは言えないけれど、《ギフト》の力が発揮されたなら、最悪の事態は免れるでしょう」

 それは、俺が誰かの代わりに出場する、ということか。三人までしか参加できず、一人でも優勝すれば処刑は免れるという話だから。

 アーシュたち三人は、不満そうにしているものの、それについては誰も触れなかった。


 午後からも、休憩を挟みつつ走り続けて。くたくたになりながらも夕食を済ませて寝室に戻ると、

 「よーし、それじゃあ、夜の柔軟体操といきますか」

 アーシュがまた変なことを言い出した。

 まだ誘惑を諦めていなかったらしい。

 「……アーシュは元気だな。俺はもう疲れたよ」

 「そんな倦怠期みたいなこと言わないの。大丈夫、私に任せて。私も初めてだからうまく出来るか判らないけど、アキオミはマグロでいいから」

 脳内で変換されているから、そういう語彙はあるのだろうけど。俺と同年代で未経験者なのによくそんな語彙を持っているなこいつ。あまり人の事は言えないが。

 「それに、男の人って、疲れてるときほどヤリたくなるって聞いたよ?」

 どこの中年だよ。いや、よく知らんけど。

 「あれだけ飯食ってすぐに、よくそんな気分になるなぁ」

 アーシュも武術家の御多分に漏れず、健啖家でもあった。エリスの三倍くらい食べてた筈。

 俺の呟きに、アーシュはニヤリと笑った。

 「アキオミのは別腹だから」

 「上手いこと言ったつもりか!?」

 耳年魔が過ぎてオヤジ化していやがる。

 「それよりも。今日こそマッサージして欲しいんだが」

 回復力も異常に増している気がしているが、それでも無理な運動の後の倦怠感があり、筋肉が凝っている感じはしていた。

 「あ~……そうね、昨日はして貰うだけで寝ちゃったし。今日は私がしてあげるわね」

 アーシュに促され、ベッドにうつ伏せになる。

 まだシャワーも浴びてなかったから、用意して貰った簡素な服を着たままだったのだが。俺の上に圧し掛かったアーシュはいつの間にか服を脱いでいた。

 ……気にしたら負けだな。

 「昨日アキオミがやったみたいにすればいいのよね?」

 アーシュも特に意識した風でもなく。まずは背中から、筋肉に沿って押し始めた。

 「……ああ。張りがあるところを中心に、強く押し過ぎないように解していってくれ」

 昨日されたことを覚えているらしく、俺がやった様に、手のひらや親指を使って全身をマッサージしてくれた。

 やはり疲れていたのか、次第に眠気が増していく。

 「(……眠ったら、既成事実を……)」

 アーシュが何か呟いている気がしたが、眠気の方が勝って、そのまま眠ってしまった。



 朝起きると、アーシュはもう部屋にはいなかった。

 いつの間にか俺まで全裸になっていたが、気にしないことにする。


 柔軟体操の後、暫く全力で走ってみた。

 今日は更に、楽に、速く走れているのが実感出来た。そして、更に疲れにくく、回復も早くなっていた。

 俺はそれが楽しく、また嬉しくて、別メニューを提案した。

 アーシュの合図で、ダッシュ&ターンや加速停止を繰り返す。

 初めのうちは、減速時にバランスを崩したりしていたのだが、繰り返しているうちにそれも減っていく。

 アーシュも一緒にやっていたのだが、夕方頃には合図を出すアーシュとほぼ同等の動きが出来るようになっていた。そして、アーシュも俺と同じくらい息が上がっていた。

 「……もう、基礎トレーニングはいいかな……明日からは、槍術を教えるわね……」

 これだけ疲れていたら、今日は迫って来ずにゆっくり寝てくれるかな。


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