01 『日陰に咲く花(1)』
太陽の照りつけは厳しいものだ。否応なしに輝くそれは、人の体力を容赦なく奪う。
普段はなんとも思わない水でさえ、極上の飲み物だと思えるほど思考は乱される。暑さによって失われた体力の補填があるのならばまだいい。王都アイリスからリパの町まで、その間に彼らを癒すものなど何もない。ただただその疲労と苦痛に耐え、歩を一つずつ進める他にない。
汗はすでに大量にかき、その粒が落ちた矢先から蒸発しているような、そんな印象すら受ける。そんな厳しい道中を乗り越え、彼らはたどり着いた。リパの町に。
彼らを迎えたのは大きな賑わいだ。この暑さに負けないくらいの暑苦しさがある。行商人と思しき人々が馬などの比較的大型の生物を引き連れて歩いている。その荷の量はカナタたちの数倍はある。人のざわめき具合もここまでの道中とは別格だ。
「まずは近くの店でお昼だね。さすがにお腹が空いたよ」
「私もー」
「俺もだよ」
短い話し合いの末、町の入り口から近いところにある大衆食堂に入ることに決まる。馬を店の入り口の店員に任せると、三人は店の中へと入っていく。
日陰だからか空気の循環がいいのか、店の中は涼しい。円形の机に案内され、三人は座る。サービスとして出された水を一気に飲み干してトオルは言う。
「かーっ、うまいね。これのために生きてるみたいなところあるよ」
酒を食らったような言い方に、「トッくんおっさんみたい」とサクラが言う。
「でも遠路はるばるやってきたって感じだろ? 簡単に言えば帰るのにも二日かかる場所なわけだからな」
カナタも水を飲むうちに実感が湧いてくる。一度の野宿を挟んでこの町にたどり着いたため、二日かかったことになる。その両日ともひどい快晴だった。しかしそれだけの距離を歩いてきたことは何事にも代えがたい経験でもある。カナタはそう思った。
「僕らの町まで二日……遠くに来たんだね」
「なんか昨日の出来事も昔の出来事みたいに感じるね」
彼らがしばし感慨に浸っていると、声がかけられる。
「ご注文はお決まりでしょうか」
語尾が上がるような健康で元気な声がする。声の先にはふくよかな体形の女性。笑い顔のせいか細目のせいなのか瞳があまり見えない。にこやかにその女性は笑う。
咄嗟に店の壁に立てかけられているメニューを見るトオル。
「えっと――俺はオススメ定食で。ちなみにオススメってのは?」
「今日はカゲシマ原産のカゲシマクロウブタの定食だね」
「カゲシマクロウブタ? 豚の種類?」
カナタはサクラに目を遣る。食べ物についてはサクラに聞くのが手っ取り早い。彼女の頭の中の半分は食のことで詰まっていると言っても大筋間違いではない。
「カゲシマクロウブタはクロウブタをカゲシマにいる豚と掛け合わせて作ったクロウブタの亜種みたいなものかな。カゲシマの風土と掛け合わさって、さっぱりとしていて豚本来の臭みが少ないのが特徴ね」
「あら、そちらのお嬢ちゃんはよく知ってるねえ。普通の豚とは脂っぽさが違うらしいのよ。私にはわかんないんだけどね」
女性は大きく口を開いて笑う。そして続ける。
「昨日の夕方に行商人から買い取って、今日の目玉はこれだってうちの旦那が張り切っちゃってね。赤字にもなりそうなぐらいだからオススメだよ」
こういった商売人のすごいところは、あくまで「なりそう」なだけであって、実際には赤字ではないところだ。
「じゃあおばちゃん、俺はオススメで」
「僕もそれで」
「私もそれでお願いします」
「私はおばちゃんじゃなくてお姉さんだよ」
そう言ってまた一つ大笑いすると、店の奥のほうに振り返って「オススメ三つ!」と叫ぶ。奥から「オススメありざーす」という声が聞こえる。おそらく「オススメありがとうございます」だろう。
「ではごゆっくりどうぞ」
そう言うとまた一つ笑顔を彼らに向け、店員の女性は席を離れて行った。
「リパっていいところね。活気があるし人も優しそう」
「前に来た時はもっと人が多かった気がするけどな」
「これよりも?」
カナタはひどい人混みを想像した。「アイリスでの朝と同じくらいの人混みが夕方くらいまで続いてた気がする」とトオルは答えて、「でもうろ覚えだけどな」と付け加えた。
「話は変わるけど、この町にはどれくらいいる予定なの?」
「準備ができたらすぐにでも移動しようと思ってる。その準備にどれくらい時間がかかるかだけど、早ければ明日かもしれないし遅ければ一週間後かもしれない」
「私、準備ならできてるわよ?」
「まだ誰も準備できてねえよ。少なくとも食料が圧倒的に足らないだろ」
「あー、なるほど。そういうことね」
「パニーとかを買って長旅に備えなくちゃな。まだまだルシオの町まで半分も進んでない。ちなみに長持ちするパニーは固いやつだってのは知ってるぜ。そうだよな?」
「正解。パニーは麦の粉を水などで練って焼いているの。食べ物が腐るというのはたいてい水分が原因だから、固いパニーはその水分を飛ばしてる分固いしその分長持ちってことね。でも、ただただ水分を飛ばして焼いたパニーは美味しくないってのが相場よ」
「なるほど」
「ここまで詳しいと逆に尊敬するな」
「逆にって何? 普通に尊敬して」
サクラは顔でこそ怒っては見せたが嬉しそうにしている。
「そもそも、準備するだけのお金はあるの?」
これに対してトオルは「お金は多少持ってきたから大丈夫」と答えた。
しばらくして料理が運ばれた。
「オススメ三つね。お会計はこの時点で払ってもらうことになってるわ。一つ銀貨七枚だから、合計二十一枚ね」
おばさんの大きな手が差し出される。トオルは袋から銀貨を取り出すとおばさんに渡す。おばさんは枚数に間違いがないか確認しながら受け取る。
「はい、ちょうどだね。表に出てる馬の餌はサービスしとくよ。それと食べ終わったらこれをひっくり返しておいてね。それじゃあごゆっくり」
おばさんは札を取り出しながらそう言った。札は片付けの合図か何かと考えられる。
「これで一つ銀貨七枚って、安いわね」
目の前に出されたのは山盛りのご飯と山盛りのサラダ。サラダにはドレッシングのようなものがかけられている。それにスープがついて、メインのクロウブタもある。クロウブタはただ焼かれているだけではなく、ソースがかけられている。普通の定食と言えば安いもので銀貨五枚ほどだ。これだけのものが出されるとなるとその倍はかかってもおかしくない。
サクラの目が一際鋭いものになった。サラダ、スープ、クロウブタ、そしてご飯と一口ずつ食べると分析し終えたのか語り出す。
「どれも味に関して特別な何かがあるわけではないけれど丁寧に作られているわ。これだけの人数を相手にする食堂でこの手際の良さは相当な腕前ね」
「それは褒めてるのか?」
「もちろんよ! 料理人の腕は味だけじゃないのよ。いかに速く作るかも大事なの。しかも手を抜いてはいけないし味に偏りがないことが一番大切。結構難しいことなんだからね」
「僕らにはわからない世界だね」
「今度、カーくんも作ってみる?」
サクラのその問いかけにカナタは少し悩んだが、「やめとく」と答えた。トオルはすでに半分近くを平らげていた。
彼らはカゲシマクロウブタの定食を食べ終えると店の外に出た。
「ありがとうございました」
店員の女性の力強い声が店から聞こえる。トオルが「美味かったぜおばちゃん!」と答えると、店の中から「お姉さんだよ!」と返ってくる。店の中では店員も客もみな笑っているようだ。
馬を引き渡されると三人は今日の宿を探すことにした。
「それにしても、人多いわね」
「だからさっき言っただろ。そういう町だって」
この町は他の町よりいる人が多い。それは住んでいる人が多いことを意味するわけではない。このリパという町は交易路のちょうど交わるところに位置するため、行商人を中心とする人の行き来が活発なのだ。そのため宿屋を筆頭に食堂や弁当屋などの旅の供と考えられる店が所狭しと並んでいる。
「ある意味では俺らもこの町の一部ってことよ」
サクラは相槌を打つ。
この町が栄えているのはその土地柄だ。町行く人々がこの町を支えている。それは他の町とて変わりのないことなのだけれど、この町に限ってはそれが生命線でもある。
「こんな町でこれから俺らが探すのは安い宿だ。お金もあるだけ使えるわけでもないしな。高い宿に泊まろうもんなら小金貨が何枚も必要になる事態もありうる」
「そんな高いところもあるのね」
「一人分がそれだけともなれば、誰が泊まるんだよって感じだな」
「でも僕らには安い宿を見分ける術がないわけだけど」
どの宿が高くてどの宿が安いのか。それを知る方法を彼らは知らない。
「頭が足りない分は足で稼ぐ。聞いて回るしかねえな」
「なんかせこい感じがして恥ずかしいわね」
「あるいはあからさまに安そうな宿を見つけるとか、だな」
三人は辺りを見渡す。どの店もこぎれいにされていて、見た目には何の見当もつかないことがわかる。こういった店が並んでいるとすれば、どこも同じかもしれない。
「とりあえず歩き回ってみないと始まらないか」
まだ陽は十分に高い。宿を見つけることに時間がかかっても問題はない。その上、彼らのいるところは彼らのあまり知らない土地だ。その光景の一つ一つが彼らを楽しませる。歩き回るのはそれほど苦ではないだろう。
辺りが赤く染められ始めた頃にその宿は見つかった。町の中心部から北西に離れた片隅の、民家と区別が曖昧な旅館だった。
「まさに絵に描いたようなボロ旅館だな」
看板と思われるものには蜘蛛の巣が張り、引き戸となっている入り口も片側しか開かない。空気がどんよりとしているのは部屋の明かりが何か所か消えているからだろう。
蜘蛛の巣の隙間から、宿の名前がコノハだということがかろうじて読み取れる。
「ランプですら節約されてるわけだけど」
彼らの見る先には、点いたり消えたりしているランプがある。そのランプからは交換されずに長いこと使われていることがうかがえる。
「いかにも安そうな旅館ね。それが逆に不安に感じる」
三人は建物の中に入ってみるものの、そこに人の気配はない。宿に入ると普通はすぐに出迎えが来るもので、あるいは廃業している可能性もある。
「あのー、すみませーん」
耐えかねてサクラが声を出すと、奥から「は、はひっ」という返事が聞こえる。
「一応人はいるみたいね」
サクラがそう言うと、目の前の戸がバンと開けられ、人が出て来る。
「ほ、本日はようこそおいでくだしました」
三人と同じ年くらいの女の子が慌てながら出てきた。そして出てきてすぐに頭を下げるものだから三人は顔がうまく把握できていない。下げられた頭からはうすい水色の髪をリボンで一つ結びにしていることがわかる。旅館の人のような服を着ているからおそらく旅館の人なのだろう。
「な、何名様でおこしでしゅか」
カナタは頭をポリポリと掻きながら、「そんなに緊張しなくてもいいですよ」と言った。
その女の子は「は、はい」と言いながら顔を上げる。何か困っているのか心配しているのか、彼女は眉を力なく寄せながら今にも泣きだしそうだ。
「私たち今晩の宿を探していて――」
女の子は食い気味に話し始める。
「ご、ごめんなさい。や、やっぱりお客様ですね。わたし、この旅館の、娘の、ヒトハと申し上げ存じ奉りございます」
言葉がおかしくなってしまっている。あまり客を相手にしたことがないのかもしれない。
「このままだと話になんねえな」
トオルは呆れている。サクラは優しいトーンで語りかける。
「顔を上げてもらえませんか。私たちもあなたと同じくらいの年だからそんなに気を遣わないで」
その言葉に旅館の女性ヒトハは恐る恐る顔を上げる。顔を上げきると今度は三人を見る。きちんと三人と目が合って、会話が成り立ちそうな気配が漂う。
ヒトハは一息吸うと話し始める。
「わたしはこの旅館のヒトハと言います。本日はうちの宿に泊まっていただけるんでしょうか」
「そうそう。そうしようかなと思うんだけど、この辺の宿って全体的にそこそこするでしょ? ちょっといくらぐらいかかるのか知りたくてさ、値段を聞きたいんだよね。一泊だといくらくらい?」
早く話を済ませたいのか、トオルは笑顔ではあるものの早口でまくし立てた。ヒトハは「え? え?」と混乱気味になり、また涙目になってしまう。
慌ててサクラがトオルに言う。
「ちょっとトッくんは向こう行ってて。私が話すから」
サクラが手でトオルを追い払うと、トオルは「俺何か悪いことしたか」とカナタに確認しながら表に出た。サクラは「まったく……」と言って腰に手をあてて困り顔を見せる。そしてヒトハのほうを向くと知りたい情報を尋ねる。
「一泊はいくらですか」
「お部屋代が銀貨二十枚、それに加えてお一人様あたり銀貨十枚いただいています」
「夕食も込みで?」
「夕食と朝食は宿泊料とは別で合わせてお一人様十枚になります」
「ざっと計算して一泊銀貨百枚ほどね」
サクラは何か考えているようだ。腕を組みながら誰とも焦点の合わない視線を空中に漂わせている。
「これってあと少し安くはならないですか」
カナタは言った。百枚というのはおそらく持っている銀貨で払えなくはない。ただできるだけ安く済ませたいことに変わりはないのだ。
「そ、それはわたしに言われても……」
「そうよね。さすがにヒーちゃんには決定権ないわよね」
「ヒーちゃん?」
カナタとヒトハの声がかぶる。
「ヒトハちゃんだからヒーちゃん。変?」
サクラはきょとんとしている。何か自分がしていることにまったく落ち度はないと言わんばかりに堂々とした態度で。
「い、いや、そういうことではなくて」
これにはヒトハのほうが困惑気味だ。
カナタは「まったく変わんないな」と納得している。カナタがサクラと初めて会ったときもサクラはすぐにカーくんと呼び始めた。サクラはそういう人間なのだ。
対してヒトハは、顔を赤くしてうつむきながら「ヒ、ヒーちゃん……」とつぶやいている。
すると、ヒトハの背後の戸が優しく開かれる。
ヒトハの隣に膝を折ると、両手を軽く床に付けて頭を下げる。その行動の節々に上品さがうかがえる。ヒトハよりも鮮やかな青の髪が、ほどけないように後ろできつく団子結びされている。
「旅館『コノハ』の女将のフタバです。本日はようこそおいでくださいました」
顔を上げると、フタバはヒトハに客の要件をうかがっているようだ。その所作から大人の女性特有の優雅さが感じられる。
ヒトハから話を聞き終えたフタバは、カナタたちのほうに向き直す。
「日も暮れてきまして今晩はもう他の宿を探すのは億劫でしょう。私どもの宿は部屋も十分に空いておりますので、ご自由にお使いください。一部屋分と三人様、夕飯と朝ご飯で銀貨八十枚でいかがでしょうか」
トオルはサクラと目を合わせる。サクラが小さく頷くと、カナタは「じゃあそれでお願いします」と答えた。
実際に宿内を見てみると客はほとんどいない。人の気配がないのだ。カナタたち以外に一組か二組しかいないのかもしれない。加えて、外観もそうだったが旅館の中も隅々まで掃除が行き届いているかと言われると頷けない。リパの町にこんな宿があることが不思議に思える。
夕食は大広間で行われた。十組は優に収まるであろう空間にカナタたちを含めて三組しかいない。やはりこの広さからしても、本当はもっと客がいてもいいはずである。食事をしているさなか、戸が一つスーッと開けられる。ヒトハが顔をのぞかせている。三人を探しているようだ。
「あ、ヒーちゃん!」
戸の影から三人の場所を確認していたヒトハに、サクラはいち早く気が付いて手を振る。ヒトハは軽く会釈してこちらのほうへ向かってくる。トオルはサクラの呼び名に怪訝な目をしている。
「お母さんがおしゃべりしてきていいよって」
先ほどまでの緊張はそこにはもうない。彼女の話を聞くには、たまたま店番を頼まれたときにカナタたちが来たようで焦っていたという話だ。
「お料理おいしかったよー。ヒーちゃんが作ったの?」
「わたしはちょっとお手伝いしただけ。わたしにはちょっと難しくて」
「わかる! お料理って難しいよね。私も結構失敗しちゃって」
「サクラちゃんも作るの?」
「私はこれでも料理人の娘なの」
サクラは自慢げにしている。彼女にとっての誇りでもあるのだろう。
「って、私、名前教えたっけ?」
「ち、違うの。ご、ごめんなさい」
あたふたしながら答えると、ヒトハは顔を赤くしてうつむいてしまう。
「謝られても何もわからないよ」
「あのその……宿帳で勝手に名前見ちゃって……」
ヒトハは恐縮している。それに対してサクラは「別に大したことじゃないよ。これからもよろしくね」と声をかけた。アイリスの外で会う女の子は彼女が初めてなのだろうし、サクラは素直にこの機会を楽しんでいるようだ。
そんなやりとりをしていたヒトハにトオルは投げかける。
「飯もうまかったのにあんまり人いないのな。なんかあったの?」
トオルは誰もが思っていることをあっさりと聞いてしまう。彼はそういう人間でもある。
ヒトハを纏う空気が少し重くなる。「うん、ちょっとね」と答えて、ヒトハは笑顔を作って見せた。
トオルの言う通りで料理の美味しさの割には人がいない。もちろん宿がそこら中にあるのだからどこかが割を食うことにはなるのだろうが、それにしてもいなさすぎる。表の看板に蜘蛛の巣が張っていたことからも、理由があるようにも思える。理由があって看板に蜘蛛の巣が張っているのか、蜘蛛の巣が張っていることがそもそも理由なのかは定かではないが。
「あ、ごめんね。気にしないで。トッくんそういう空気読めないところあるから」
「ううん、いいの。気にしないで。全然大丈夫だから」
ヒトハは必死に首を横に振った。
「もし良かったら話聞くけど。僕らができることあれば手伝うし」
「カーくんまで……」
「ううん。本当に気にしないで。ただ――」
「ただ?」
「最近はこの町に訪れる人が減ってきてね。それで昔と比べてお客さんの数がそもそも少ないの。それはわたしたちではどうしようもないことだから」
この町は交易路の交差点だ。しかし、その交易自体は弱まっている。行商人の数が減っているのだ。特に顕著なのが鉱石を運ぶ行商人。その数は著しく減ったといってもいい。そのせいでこういった宿が煽りを受けているのだろう。
うつむき加減に話していたヒトハがハッと顔を上げると、両手を振りながら言う。
「あ、ごめんなさい、こんな話。でも大丈夫だから気にしないで。わたし最後の料理持ってくるね」
そう言ってヒトハは大広間を出た。カナタは余計なことを聞いてしまったかなと思いつつもどこかもどかしかった。サクラは「ヒーちゃん……」と心配そうに独り言ちている。
その晩、そろそろ寝ようと欠伸をしていたカナタは不意に窓の外が気になった。何の気なしに窓の外に目を遣ると、そこには一つの墓のようなものと二人の女性の姿がある。町の灯りに映し出され、ぼんやりとおぼろげに。その二人は両手を合わせて側にある墓のようなものに頭を下げている。
辺りは薄暗かった。
しかし、その髪は青色をしているように見えた。