22 『ルシオ』
ルシオの町。そこは賢者が生まれた町として名を馳せている。
彼の名前をとってルシオの町と呼ばれるその町は、いかなる争いにも永遠に中立的であることを掲げることを一つのポリシーとしている。
そこはとても寒い町だ。それでも人々の働きのおかげか、その寒さを乗り越えるだけの方法がいくつも編み出されている。
そもそも賢者として知られるルシオのもとに集まってくる魔法使いも多い。そのほとんどは純血ではないものの、献身的に従事するものは少なくなかった。
町に着くと、三人は賢者ルシオの元へと向かう。もちろん簡単に会うことができる相手ではないことは承知の上で、それでも三人は彼の住む建物へと向かう。
町の一番奥の、大きめの屋敷と言えるような建物。そこが彼の住処だ。
彼らが尋ねようとすると、一人の男の使用人が彼らの前に現れた。
「本日はどのようなご用件で?」
「クラティア家のトオルと申します。賢者様とお話しさせていただきたく参りました」
「クラティア家……アイリスの、ですな?」
「はい」
クラティア家と聞けば驚かれていた道中と違って、使用人であるのにもかかわらずここまでしっかりした態度を保てるのは、彼がトオルのような人間を何人も相手にしてきたからだろう。それほどこの場所はカナタにとって場違いの場所でもあった。
「クラティア家といえば、紋章を家紋が施された宝玉をお持ちのはずです」
トオルは「そういえばそんなのあったな」と言って、マントの内側に手を入れると赤く光る宝石を取り出した。
使用人はそれを確認すると、答える。
「確認いたしました。本日は先に別のお客さまにお越しいただいておりますので、当館でしばらくお待ちください」
そういって彼はカナタたちを館の中へ案内した。
内装はやはりこれまでに見てきた家々とは格が違った印象がある。驚いていないのはトオルくらいであった。
その中の一室に通されると、使用人は言う。
「では、こちらでお待ちください」
三人はその場で待つことになった。
三十分ほどして、彼らの前にまた別の使用人が現れる。今度は女の使用人のようだ。
「お待たせいたしました。こちらにお越しください」
そう言って彼女は三人をルシオのいる部屋まで連れていった。
部屋にたどり着き扉が開かれると、そこにいたのがルシオだった。
白髪の老人ではあるが、そのどっしりとした構えは威厳を感じるものだった。
部屋に入り、トオルが一番に声を出す。
「お初にお目にかかります。私はクラティア家の長男、トオルと申します」
「聞いておる。しかし、お初と言うのはちと違うのう。わしは君が小さいころに会ってるはずじゃからな」
トオルは少し焦ったようにして答える。
「す、すみません」
「そんなにかしこまらなくてもよい」
ルシオは笑いながら答えた。
「して、そちらのお二人は?」
「私はサクラと言います。サクラ・フロントラインです」
「おお、あの料理屋の娘かの?」
「ご存知なのですか」
「もちろんじゃ。あの店にはアイリスに滞在していたときにはよく通ったものじゃからのう。そしてそちらの少年は?」
「僕は、カナタ・ファーラーです」
「ほう。ファーラーとな」
「いや、ちょっとな」
ルシオの含むような物言いに、カナタは少し思うところがあったのだが、口に出すのははばかられた。
トオルが言う。
「して、用件とは?」
「ルシオさんのような賢者になれるよう、俺は強くなりたいんです。どのようにすれば良いでしょうか」
「どのように、と言われてものう……。それなら、三人ともこの町で少し修行を積むというのはどうじゃ?」
「三人、ですか」
「そうじゃ。どうじゃ?」
カナタたちは小声で話し合うも、特に断る材料はなかった。カナタにとっては世界を見て回るのが少し遅れることはネックだったが、これはいい経験でもあると考えていた。
「よろしくお願いします」
トオルが代表として言った。
「そうかそうか。それでは、三人にはそれぞれ部屋を割り当てよう」
ルシオは使用人を呼ぶと、三人を案内させようとした。




