13 『鉱山の町』
鉱山の町ディーモ。そこは年中涼しい気候の町。
近隣には高くそびえる山があり、その山の一角までをディーモの町と呼んでいる。なぜならそれらの山はこの町の生活に密接に関係があるからだ。その山々では各種鉱石が日夜採掘されている。その生産量は世界でも有数であり、王都はこの町から多くの鉱石を輸入している。
鉱石の用途とは主に金属製の物を作ることにある。それは例えば家庭用の包丁であったり、果物を切るときのナイフであったりする。しかし家庭から少し目線を変えてみると、鎧や武具などに必要とされるのもまた鉱石である。それらを作るのに必要な鉱石の量は他と比べてはるかに多い。そしてその鉱石を輸出することでこの町の経済は成り立っている。だからこそ、人々は近隣の山々もディーモの一部だと考えている。
町の中央を流れる川は、ディーモを二分する。北から町の中央を通って南東へ流れるこの川は、人々の生活に密着している。川の上流には鉱山が並び、そこで得られた鉱石は川を使って運ばれるのだ。下流ではこの川に桟橋が架けられ、そこで鉱石の入った舟を受け取るという具合だ。また、雨量が少ないこの地域では麦の栽培も盛んだ。町の東には鉱山の採掘に携わる鉱員の家が立ち並んでいる。しかしさらにその西に目を向ければ、広々とした麦畑が広がっている。それらの麦を挽くための水車が、川沿いの家には備えられ、食料店や料理屋などを成している。
この町は自然とともに暮らしているといって間違いない。
リパを出発してからかなりの時間が経った。一週間を越える長旅に、三人は疲弊しきっている。手持ちの食糧はまだ尽きてはいないのだが、種類の少なさに飽きがきてしまう。開けた道をたどって町を目指せば、自然と時間はかかってしまうものだ。整備されていない道を進むのは危険であり、何より迷ってしまっては元も子もない。
そして数日前から急激に気温が下がり始めた。これがまた彼らの身には応えた。温度の変化事態は体力に何も関係がないように思えるが、実際のところでは想像以上に体力を消耗し、それだけでなく気力までも奪われてしまう。その一方で気温の低下は朗報でもある。ディーモの町から先は年中涼しいことでも有名だ。つまるところ、涼しくなるということはディーモの町が近いということを意味する。そしてそれは彼らの希望でもあった。
「結構大変だね」
白い上着を羽織ったサクラが言った。気温が涼しくなるとまずサクラが服装を変えた。以前のような薄着では体調を崩しかねないほどに気温は変化してしまった。今では袖のない服などを着る選択肢はもうない。長袖をもう一枚着るかどうかというところだ。カナタもそれにならって服装を変えた。半袖の上に長袖を一枚。それでどうにかなるくらいの気温ではあるのだ。そして、トオルは相変わらずお気に入りの茶色いマントを身に付けている。外から見るよりは温かいのかもしれない。
「もう少しのはずなんだがな」
リパの町で購入した簡易地図を開いて、トオルが答える。
道中で馬に乗る人とすれ違うたびに、もうすぐ着くのではないかという希望に駆られた。しかし歩いても歩いても到着する気配は一向になかった。三人は少しでも先に進めるように、ただただ重い足を前へ前へと動かすだけだ。いつ着くのかという確証はまったく得られぬまま。
「この丘を上ってまだ見えなければ野宿する場所を決めることにしよう」
「そんなこと言われると歩く気力も失せちゃうよー」
町と町の合間のわずらわしい時間は三人の体力だけではなく気力まで容赦なく奪っていく。この丘を越えた先に町が見えなければ、すなわちそれはまだ到着しないということ。そのとき彼らを襲う絶望といったらないだろう。
懸命に丘を上りきると彼らの視界が一気に開ける。辺り一帯を一望できる光景だ。
「もしかして、あれ、町じゃないか」
カナタは道の先に見える森の、その上部に揺れる煙を指差した。森の少し奥からひょろひょろと煙が立ち上っている。
「この前もそんなこと言ってただのたき火だったんだよー」
「近くに行ってみないとわからないな。どちらにしろ今日はあそこまで歩こう。町なら助かるし、町じゃなくても助かる」
「はーい」
サクラは不満そうに答えながらも反対はしない。
もし仮にあの煙が町じゃなかったとしても、多人数で夜を過ごしたほうがいざというときのためになるのだ。そのことはこれまでの旅で彼らが得た知識でもある。多くの人と触れ合うことがいかに余計な感情を紛らわすのに役立つか、それを彼らは身をもって知った。そういった理由で、人がいることが間違いない場所、つまり煙のあるところが彼らにとっての休憩場所となっているのだ。
しかしそんな心配も杞憂に終わることになる。煙は一つではなく幾つか上り始め、金属を叩いている音や何かがガタガタぶつかる音が聞こえ始める。
「ようやく着いたようだね」
「なかなか過ごしやすい町かもしれないな」
「今日は美味しいもの食べるぞー」
各々が思い思いに言葉を放った。
次第に大きくなるカンカンカンというハンマーの音。それが幾つか重なって響き渡り、まるで音楽のようである。火の燃える匂いと何か焦げているような匂いは人の活力の結晶とも言えよう。
この涼しく寛容な大地には、その山並みの一角に一つの静かな町が営まれている。
涼しい気候でありながら熱気のある町、ディーモ。そこは鉱山の町である。




