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彼が魔王になった理由  作者: 真
第一話 配られたカード
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07 『逆転のアルゴリズム(2)』

 食事を終えたカナタは確認するようにヒトハに尋ねる。作戦といえるほど大げさなものではないかもしれないが、この作戦には決め手がある。


「この町には他にも郷土料理ってある?」


「うん。あるよ」


 第一関門突破だ。ただ、この郷土料理は複数あることが望ましい。カナタの知り得る限り少なくともあと一つはあるはずだが、たくさんあるに越したことはない。


「それはどれくらいある?」


「あの、えっと、リパージュ以外に二種類……三種類かな? 曖昧なものがあるんだけど、お母さんに確認してきたほうがいい?」


「大丈夫。リパージュを含めていくつかはありそうなんだね?」


「うん」


 カナタはよしといった面持ちで頷く。


「じゃああとはチラシを作ろうと思うんだ。大勢の人に認知されないことには何も始まらないからね。でも

、凝ったものは作れないし、作業が効率よく進められるようにシンプルなものを作ろう。絶対に書いておきたいことが少しあるから、それだけは書くようにして……」


 カナタはメモ帳を取り出すと大雑把にそのチラシの案を書き始める。まずはこの町の簡易地図だ。町全体を模した図がメモ一面に描かれた。丁寧に描かれたものではなく、大雑把で少し適当さも垣間見える。そんな町の図の北西部、そこに丸を付けて線を引っ張り、宿の名前であるコノハと記す。これでだいたいの場所がわかるという具合だ。


「だいたいこんな感じで。作ってるものが多少違っても問題ないはず。大切なのは見た目じゃなくて内容だから」


「これしか書かないの? 他に書くことは?」


「一泊の値段とかを書いておいてもいいかな」


 カナタは『一泊銀貨30枚~』という文字を付け加える。


「残りは明日になったら確認する予定。ちなみにこれを配るのは明後日だね」


「チラシならわたしが作っておくよ。お料理してるときに空く時間もあるから」


「それは助かる」


「助けられてるのはわたしのほうだし……」


「それもそうか。でも僕たちも明日確認しなくちゃいけないことがあるからちょうどいいよ」


 カナタの「たち」という言葉を受けて、トオルが応える。


「その『僕たち』は何をすればいいんだ?」


「ちょっと待って。チラシにはこの言葉は絶対に入れてほしいんだ」


 トオルの言葉を遮ると、カナタはまたメモ帳に何かを書きだす。そしてそれをサクラに手渡しする。メモには『ここでしか食べられない』だとかの売り文句が並べられている。受け取ったメモに目を通してサクラは言う。


「これを?」


「そう」


「わかった。何枚必要なの?」


「必要な枚数は今のところ考えてないから、できるだけ多く作ってもらえれば」


 待ちくたびれたようにトオルは言う。内容を早く教えろと言わんばかりで。


「それで、『僕たち』は?」


「僕たちがする作業は確認だね。東の入り口と南西の入り口で、この町に来ている人の種類を把握したいんだ。行商人か旅人か、それくらいの分け方でいい。そしてその人数が合計どれくらいなのかを数えるんだ」


「人数を? それはちょっと大変な話だな」


「大変だけどやっておいたほうが融通が利くと思うんだ。僕の記憶では、数にしてみれば旅人の数もそこそこいるはずだ」


 今日町を歩いているときに旅人が思いの外いることにカナタは気づいていた。そもそもカナタたちも旅人と呼べるわけであり、今この宿で食事をしていた人の中にも明らかに旅人だという人がいた。行商人はそのほとんどが一人での行動のようだから、夕食でおしゃべりをしながら食事していた三人組は旅人だと思って間違いない。


「旅人の数でいいんだな?」


「念のために、行商人の数も。僕の思い違いの可能性もあるからね」


「まあ構わねえよ」


「さすがに一日中は大変だから、何か目印があるといいんだけど……」


「町の入り口に時計があったはずだ。あれで時間を決めておけばいい」


「時計なんてあった?」


「南西の入り口なら、入り口の柵の後ろに町のおおよその全体図が載っている地図がある。そこに一緒にあったはずだ」


「なんでそんなこと知ってるの?」


「まあ癖みたいなもんだな」


 たいていは町に来た人に時間を知らせるための時計が入り口にあるとトオルは話した。そのことを知っていたトオルは当然のこととしてそれを見ていたようだ。「時計は貴重だからな。見れるときに見ておいたほうがいい」とトオルは言った。確かに時計という装置は、風あるいは火を用いた魔法によって動いているためにその数がそもそも多くないのだ。

 カナタは時計の見方を教会で習っていたため、これを参考にすることに決めた。


「お昼を過ぎた二時から四時までの二時間にしよう。長いかもしれないけれどそのあたりの時間が一番大事だと思う」


「わかった。だとすると、俺らはその前はどうするんだ? 二時ってのは結構中途半端な時間だと思うぜ」


「トオルはどこの宿から話を聞けたか覚えてる?」


「今日のやつなら宿の名前がメモしてあるな」


「じゃあそこに行って話を持ち掛けてほしい」


「どんな?」


「町全体で郷土料理を出そう、と」


「それって私たちだけでやらなかったら意味が薄くなるんじゃないの? お客さんがいろんなところにわかれちゃいそうだよ」


 サクラが慌てて言った。


「むしろ逆だと思う。この町の宿業界はエステストの一強にある。この状態が続くことは望ましくないと思ってる宿が多いんじゃないかな。それを考えるとコノハだけがうまくいくという構図はあまり良いとは言えない。それにこのやり方がうまくいけばどうせ他の宿も真似するだろう。とすると他の宿を出し抜いたことになってコノハの立場がないし、エステストと同じような境遇になりかねない」


 不安そうにヒトハは意見する。


「わたしもそうはなってほしくないかな」


「それに、コノハだけではどうにもならないとも思うんだ。この町全体で動いている一体感があって初めて効果がある」


 二人に小規模ながらも反乱を起こされて、拗ね気味でサクラが言う。


「私にはそこまではよくわからないけれど、でもカーくんがそれをやろうって言うなら手伝うよ」


 この作戦は郷土料理以外にも、全体として統率の取れた動きができるかどうかにもかかっている。これがうまくいけばエステストの一強を今ほどまで強くさせない効果が期待できるはずだ。


「で、俺はその宿に行って、話を持ち掛ければいいんだな?」


「足並みも揃えたいから、明後日から出せるように頼んでほしい。もし承諾してもらえたら、簡単ながらもチラシを配って宣伝しますっていうのが交換条件。おそらく断る理由はあまりないと思うんだ。良い条件しか出してないから」


「わかった」


「宿屋ならではの繋がりとかもあるだろうから、他の店にも協力してもらえるように言えたら最高かな」


 カナタたちの間では話がうまく進んでいるように見えなくもないが、実際のところで言えばこの作戦がうまくいく保証はどこにもない。すべてはカナタの机上の空論である。ただ、何かをしなければ現状を変えることができないことは明白だ。カナタはそのことを自分の経験から知っている。人は何かが起これば現状を変えられるが、その何かが必ずしも平和裏に起こるとは限らない。もし自分が平和裏にことを運べるのならばそれはこの上ないことだと、カナタは考えていた。




 次の日の朝は早めに行動することを心掛けた。協力してくれるすべての宿屋にカナタの考えを行き渡らせるためには、時間がかかるはずだからだ。旅館の仕事がある程度落ち着くであろう頃合いを見計らって、カナタたちは出発した。

 しかし当然と言うべきなのか、うまく話が進まない店もいくつかあった。やはりカナタがまだ十五歳の子どもでしかないことは大きな障壁だった。


「あの、すみません」


「いらっしゃい。ああ、昨日の子か。今日はどんな用事かな?」


 受付の男性が気さくに返事をする。


「急な話なんですけど、明日から郷土料理をお店で出してもらえないでしょうか」


「郷土料理? それはまたなんで?」


 この質問の答えをカナタは用意している。昨晩トオルが「なぜって聞かれたらどう答えるかは考えておいたほうがいいと思う」と言っていたからだ。理由を幾つか用意して、その宿が一番乗ってくれそうなことを理由にしたらいいんじゃないかということだった。


「昨日とあるお店で郷土料理のリパージュを食べてとても美味しかったので、それをこの町に訪れる方に食べてもらいたいんです。なので、協力してもらえませんか」


「リパージュはそんなに大した食事ではないんだけど、それを出すのかい?」


「僕は大したものだと思います。絶対にお客さんも喜びます」


「うーん……」


 なかなか首を縦に振ってくれない。料理を出すということはお店にとっては意外と大きな決断だということがうかがえた。その点はカナタの想像していない領域だった。


「夕食の一部で出すとかでもいいので」


「仮にだ。仮に出したとして、君はなんでそんなことを頼んでるんだい?」


「実はそれをチラシにして、この町を訪れる人に配ろうと思ってます」


「なるほど。それは我々にとっては確かに面白い考えに聞こえる。ただ、それは答えにはなっていないね。君のメリットが一つもないんじゃないかな」


 カナタの考えは見透かされていた。カナタが何かを隠しているというところに納得ができなかったのだろう。それが店のデメリットになる可能性を危惧しているのかもしれない。


「それを教えてくれないと、さすがに大人は納得できないな。たいていの人間は得だと思わなければ動くことはないだろう。損得が関係なく動ける人間というのはそうそういるものではないからね。君にメリットがないのだとすれば、我々にデメリットがある可能性を考えざるを得ない。となれば、私が今ここで承諾を渋っている理由も理解できるね?」


 人は確かに損得勘定で動く節がある。何も利益を生まない行動の裏で、ひそかにデメリットが発生していることは十分にあり得ることだ。カナタの行動は客観的にはそんな利益を生まない行動に見えるのだ。

 今度はカナタが悩む番だった。どう答えるべきか。その答えを彼は探していた。


「では逆に、おじさんはなんでこの場で話を聞いてくれてるんでしょうか」


「ふむ、なるほど。僕が君の話を聞いているのは損得とは関係ないところからきていると考えたわけか。だとすれば自分の行動も同じく損得とは関係ないもので理解してほしい、と」


「違いますか」


 カナタには確信めいたものがある。なぜならそもそも昨日の時点で話をしてくれない宿もあったからだ。この人はその中で話を聞いてくれた人だ。おそらく損だとか得だとかで動く人ではないという考えがカナタの頭にはある。

 男性は少し間を取って考えている。


「――残念ながらそれでは弱いね」


 その言葉はカナタの想定外だった。否定の意味には思えたが、その裏に何か別の真意を感じた。


「こういう考えを聞いてほしい。僕は今の時間は割と退屈なんだ。だから誰でもいいから話を聞いている。要は暇つぶしの一つということだね。だから僕自身に君と話をして得をしているという感覚はあるんだ。したがって僕なりの損得勘定で動いているんだ」


 思ってもいない回答にカナタは一瞬怯む。あまりの横暴な回答に、受け入れるのを拒絶するかのようにカナタは言葉を返す。


「それが本当とは思えないですね」


「しかし本当なのだから仕方ない」


 カナタはその男性を少しだけ睨むようにして見る。答えた男性の目は楽しそうに笑っている。先の言葉は偽りなく、本心からただただこの会話を楽しんでいるだけのように見える。カナタの持ち掛けた話を拒否したいという態度ではない。

 カナタは今度は何か試されているような気がして、「なるほど、わかりました」と少し笑いながら言う。


「では、これではどうでしょう」


 そう言ってカナタは男性の目を見る。それは宣戦布告にも似たものだ。


「僕はこの町に盛り上がって欲しいんです。この町が好きだから」


 男性は少しだけ黙ると答える。


「僕の見立てによると君はこの町の人間ではないね。そんな人間がなぜこの町を好んで、なぜ盛り上がってほしいだなんて思うんだい?」


「僕はこの町の風土がとても気に入りました。旅の途中ではありますけど、いずれこの町に戻ってきたいとは思っています。そのころまで衰退せずに盛り上がっていてほしい。だから盛り上げたいんです」


 おじさんは何かを測っているようにカナタの目を見つめる。


「一理あるようには感じられるが、とてもじゃないがそれを信じろというのは無理があるな。君は何かを隠しているような目をしている。別の理由があるようにしか思えない」


 その言葉にカナタはニコッと笑う。そしてゆっくりと男性に聞かせるように言う。


「しかし本当なのだから仕方ない、ですね?」


 男性は少しの間理解しかねているようで沈黙を守ったが、カナタの言葉の意図を汲み取ったかのように「ああ」という言葉を漏らした。そして顔をほころばせる。


「なるほどね。これは僕の負けだ」


 男性は「なるほど」と繰り返し頷きながら愉快そうに笑っている。カナタも一つため息を吐く。

 本当に思っていることというのは自分でしかわからないから他人の理解は必要ない。男性はそれを自分の論として展開していた。だからカナタはこの男性の理論を逆手にとり、答えとして認めざるを得ない状況を作ったということだろう。


「それだけの知恵と勇敢さがあれば面白いかもしれないな」


 おじさんはそれまでとは全く違う笑みをこぼして大笑いしている。


「では協力してくれるんですね?」


「もちろんだ。君なら何か面白いことをやってくれそうだしね」


 カナタが「それは本当に思っていることですか」と笑って問いかけると、「これは参ったな」と男性はまた笑った。


「君、名前は?」


「カナタです。カナタ・ファーラー」


「君はきっと大物になるよ」


 カナタはそう言われると、次の宿へと向かったのだった。

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