近づいている
11時を過ぎると母ちゃんは台所に立った。
「何を作るんだよ」
「冷やし中華よ。今日は漆原さんがお昼を食べにくるから」
「出前じゃないの」
「こんなもの出前を取るほどのこともないじゃない。あんたもいるなら一玉増やすから」
どう考えてもおかしい。物凄い手際のよさで錦糸卵を作っているし。こんな家事能力はないはずだ。
俺は頭がいい。しかし知能で解決できない現象が起きているのだよ。
昼にやって来た漆原さんは気の良さそうな老夫婦だった。
ヘルパーでもないのに何でこんな老人と付き合っているのかが疑問だが、周囲に老人しかいないのだからしかたないかもしれない。
「息子のショウです」
「これはかしこそうなお子さんですな」
[塾にも行かないのに勉強だけはできるのですよ」
「私たちも見えるのかね」
当り前じゃないか目があるんだから。それにしても言葉の使い方が間違っているよ。
俺はかしこそうではなくてかしこいんだよ。
とにかく聞いてみよう。
「漆原さんは幽霊を見たことがありますか」
「それわな、わしも年だからそれらしいものは見たことはあるが、どうかしたのかね」
「そこの鏡台に白髪のおばあさんが現れたのですよ。こころあたりはありませんか」
「そう言われてもな。もしかしたらおさき婆さんかもしれない。いや、この辺一帯の地主がな若い後妻をもらった。二回りは離れていたかな。まあ財産狙いだな。それがおさきさんだった。戦後すぐの話だ」
「何か不幸な死に方をしたのですか」
「別に吝嗇ではあったが人に恨まれたと言う話は聞かなかったな。ただ子供がいなかったので。最後は孤独死したか、火事にあったという話も聞いているな」
充分にこの世に恨みを残しているではないか。
「僕たちの前に住んでいた人にこころあたりはありますか。一家心中をしたとか」
「そんなバカな。我々は暇だから若い人が好きで時々声をかけていたのだが。奥さんは細身で器量もよかった。いい条件だと思ったのだが、ギスギスして性格が最悪だったな。逃げるように越してしまったのでよくわからないのだよ」
原因はだいたいわかった。しかしこれは俺がテストで98点を取るのとは話が違う。
明日ケンタ達に相談しよう。