消失
「大丈夫?」
青年の言葉に少女は我に返る。
「うん…」
青年の顔を見た瞬間、少女は凍りついた。
「お前…は…!」
「え?」
その青年は少女の両親を殺した男だったのだから。
「どうして、お前が!?」
「…その様子だと、思い出しちゃったみたいだね。そう、君の両親を殺したのは僕だ。」
「うあああああああああああ!」
少女は手にしたナイフを青年に突き立てる。一突き目で倒れた青年に、少女は何度もナイフを突き立てる。何度も、何度も。
最初に刺した時のように血は流れていない。しかし、青年の動きはだんだんと鈍っていった。
「待っ…て…話を…」
「話って何!?どうせ全部嘘だったんでしよ!私を救うなんてそんな」
「嘘じゃない!」
青年の叫びで、少女は手を止める。
「…どういうこと?私をこんなんにしたのはあなたでしょ。」
「ごめん。君は僕のせいでシリアルキラーになってしまった。だから、僕が救わなきゃって思ったんだ。」
「…なんで私のお父さんとお母さんを殺したの?」
「殺すつもりはなかった。お金が欲しくて、強盗しようと思って…見つかって焦って…気づいたら殺してた。」
「…あの時、私も殺そうとしたよね。」
「あのときは気が動転してたから。目撃者はいちゃいけないと思ったんだ。」
「…死ぬ直前に私に何が言いたかったの?」
「『どうして泣いてるの?』って。死ぬ直前に気づいたんだ。僕を殺した君が泣いていたことに。」
「…ふふっ、呑気ね。死ぬ間際に人の心配するなんて。」
少女は青年の胸からナイフを引き抜き、放り投げる。出血はしていないものの、青年はだんだんと衰弱していってるように見えた。
「私を救うってどうやってやるつもりだったの?」
「…さあ。でも君と一緒にいたらわかる気がしたんだ。僕のことは覚えていないみたいだったし。」
「あなたはこれから…どうなるの?」
「消えるんじゃないかな。『君を救う』っていう願いは叶ったみたいだし。」
「え?」
「だって君が泣き止んでくれたから。」
確かに少女の目は赤く充血していたが、涙はもう流れていなかった。
「あ…」
「君はあれからずっと泣きながら人を殺し続けてきた。涙がなくなったんだから、もう人を殺すことはないかなって。」
「ばかみたい…泣かなくたって私は人を殺すかもしれないよ?」
「僕は君がもう人殺しをしないって、そう思うんだ。」
「あなた…変わってるね。」
「そうかな?でも君を救えてよかった…」
「!?」
青年の体は徐々に薄くなっていた。
「もうそろそろお別れかな。君の両親を殺したこと、許してくれとは言わない。僕の身勝手な行動に付き合ってくれてありがとう。」
「ほんと、自分勝手にも程があるよ…」
少女の目からはまた、涙が溢れそうになっていた。
「今度はちゃんと伝えられそうだ。泣かないで、笑って?」
「…うん!」
少女は笑顔を見せた。今までの狂気的なものではない、無邪気な笑顔を。
満足そうな顔をしたあと、青年は消えた。
「…ありがとう。」




