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子分とガキ大将 前編《年上強引幼馴染み×年下子分女の子》

私と彼は、幼馴染み。生まれた時からお隣に住んでいた、ガキ大将で気の強いお兄ちゃんと、気が弱くてお兄ちゃんの子分みたいな私。小さい頃は、まさに このガキ大将と子分の関係だった。


お兄ちゃんは、気が弱くて自分からは 他の子に声を掛けられなかった私の手首をつかみ、色んな所を連れ回した。

近所の公園。近所のお店。お兄ちゃんの友達のお家。連れ回されるうちに、私にも話しかけてくれる子が どんどん増えて、私にも友達ができた。

私が人見知りが激しいことを心配していた私の両親は、お兄ちゃんに すごく感謝していた。


それから小学生になってもお兄ちゃんと私の交流は変わらずに続いた。だけど、 私が中学生になる頃、お兄ちゃんは私と あまり遊んでくれなくなった。3つ違いのお兄ちゃんは、私が中学生になると同時に高校生になって、高校の友達と遊ぶようになったから。そのくらいの年頃になったら、もう私みたいな気弱な子分と遊ぶのは面倒になったんだろうなって思った。

ちょっと寂しかったけど、まあいいか、って思った。私も私に似た気弱な友達ができて、ちまちまと遊んでいたから。

私から お兄ちゃんに遊んで遊んでってすがるのは…かなり恥ずかしいことのような気がした。この辺で、濃すぎた幼馴染みの縁も薄くなるのかなって思った。


たまに家から出たら、同じく出かけるらしいお兄ちゃんに出くわしたりしたけど、その時は 軽く手を振って じゃあね。でおしまい。お互いに 挨拶くらいで会話もない。


それからは交流も ほとんどなくて、私も高校生になっていた。お兄ちゃんは県内の少し離れた大学に行って、一人暮らしをしていた。この頃になると、とうとう顔を合わせるのはお正月くらいになった。いざ会ったとしても、「久しぶり」「本当だね」くらい。

高校生の頃から あか抜けていったお兄ちゃんは、大学生になって更に磨きがかかった。ミルクティーみたいな明るい髪色も嫌味なく似合ってるし、お洒落な服も着こなすようになった。


もう、完全に私とは違う世界の人間になったんだな。と思っていた。









なのに、私が高校一年の秋。




ある土曜日のお昼時。両親が揃って出掛けていて、しめたとばかりに惰眠を貪っていると、ピンポンとチャイムが鳴って。居留守をしていたら、ピンポンが激しくなって、ドアもドンドン叩かれて。ついには「開けろ!」なんて怒声も聞こえてきたから、びっくりした。知っている声じゃなかったら、私は通報していたと思う。


なんだろう、お母さんに用があるのかな?なんて思いながら しぶしぶベッドから出て、玄関のドアを開けたら。


仏頂面のお兄ちゃんが立っていて、ドアを開けた私を見て、更に目付きが険しくなった。



「…久しぶりだけど、怒鳴り込みに来たの?」


「―――まずトイレを貸せ」


やけにギラギラした目で私を上から下まで じっくり見たあとに、お兄ちゃんはトイレに前屈みで 駆け込んでいった。


「絶対リビングで待ってろ」


と念押しをしながら。

訳がわからないながらも、私は言い付け通りにリビングでお兄ちゃんを待った。録画しておいたドラマを見ていると、ヒロインの着ている服が 可愛かった。…何気なく、ちらっと鏡に自分を写して見てみる。


「あら?」


私、寝起きだったからパジャマだった。しかも昨日は寝苦しかったからか、ボタンを二番目まで開けていて、お気に入りのピンクのブラが若干見えていた。


「……………………………着替えよう」


とりあえず部屋で普段着に着替えた私は、リビングに戻ってお兄ちゃんを待った。

やたらとスッキリした顔の お兄ちゃんがトイレから出たのは、お兄ちゃんがトイレにインしてから30分後だった。
















「お前、家事できただろ。俺の家を住めるようにしろ」





お腹大丈夫?って聞いてみたら、この言葉を投げつけられた。キャッチボールが成立してないよ。

話を聞いて翻訳すると、お兄ちゃんは家事が壊滅的に できないらしい。料理は得意なのに、その他の家事が全くできないと。だから部屋が汚屋敷になっているから、救助要請に来たらしい。

私は料理ができないけど家事全般はお母さんに仕込まれたから、そこそこできる。

なので、土日は俺の家を片付けろ。ということだった。






ちょっと考えたけど、暇だし家事くらいならいいかな、と思って お兄ちゃんに着いていった。


予想以上に汚ない部屋にオエッてなりながら掃除洗濯して、ご褒美に お兄ちゃん特製オムライスをつくってもらった。非常に美味しかった。完食してから気付いたけど、もう夕方なので帰ることにした。そうしたら、


「土日って言っただろ」


有無を言わさず、スウェットとバスタオルと未開封新品の下着が渡された。


お風呂に入れってことらしい。

お言葉に甘えた私が、なぜかジャストな下着とぶかぶかのスウェットを着てホカホカになってあがると。

いつもお肌ケアに使う基礎化粧品が、これまた新品で洗面に置いてあった。お兄ちゃんに聞いてみると、私がお風呂に入っている間に、お母さんに聞いて買ってきたらしい。ついでにお泊まりの許可ももらったそうだ。


お兄ちゃんは それだけ言うと、また前屈みでトイレに駆け込んでいった。お腹がユルいのかもしれない。


お兄ちゃんがいない間、暇だから お母さんに電話してみた。


「あ、お母さん」

「あら どうしたのー?」

「私 娘なんだけど、男の人の家に泊まるのに親が簡単に外泊許していいのかしらって思って」

「外泊ー?だって、(あつし)君のところでしょー?今更何を言ってるの」

「………そう言われてみれば、そうかも」

「うん、じゃあ篤君によろしくねー」



なんだか、軽くかわされたような気がする…

でも、お母さんが言う通りかな。昔は何回もお兄ちゃん家にお泊まりして、同じベッドで寝たことだってあるし。私が今更警戒するのも変な話かな。今更だよ、今更。


お兄ちゃんだって、私のことはただの子分いち、ぐらいの扱いかなあ。



…お兄ちゃん、早くトイレから出ないかな。なんだか、胃がムカムカする。あたったかな、もしかして。たまご?鶏肉?それとも黄色ブドウ球菌?



「あれ?」


食中毒って、目も攻撃するの?なんかじわじわ涙出る。


具合悪いときは横になるのが一番だから、床に寝転がってみた。フローリングの冷たさが気持ちいい。



お兄ちゃんがトイレから戻ってくるまで、私は床に寝転がっていた。




やっぱり、お兄ちゃんのトイレは長かった。



















その日、私はお兄ちゃんの部屋に泊まった。ソファーで寝ようとしたら、お兄ちゃんがソファーで寝るから、とベッドに押し込まれた。なんだか慣れないベッドにそわそわして、ついでにまた胃がきゅっとなって。なかなか寝付けなかった。でも寝た。

朝起きたら、お兄ちゃんに抱き締められていて びっくりした。抱き枕と間違えたらしい。大学生にも なって、抱き枕がないと寝付けないのが恥ずかしいのか、お兄ちゃんは私と目が合うと真っ赤になっていた。でも、抱き枕も そうだけど、ズボンに棒を入れとくのも恥ずかしいと思う。防犯にしても、場所を考えた方がいいと思うな。








そんなこんなで、土日は お兄ちゃんの家で掃除洗濯をしてご飯を食べさせてもらうのが日課になった。土日に 部屋中をピカピカにして帰るのに、次に来たときにはグシャグシャのどろどろになっている不思議。私はまるで家政婦さんのように、家事をこなした。





そうして、しばらく過ごし、私は高校二年生になった。途端に進路、進路で補習だ課題だなんだで忙しくなり、お兄ちゃんの家には頻繁に通えなくなった。




毎週お兄ちゃんからはお誘いがあるけど、行けない。行けても二週間に一回。日曜日だけ、といった感じになった。そうすれば当然、部屋は前にも増して汚れてくる訳で。



来なかったら来なかった分だけ、分かりやすいくらいに汚れた部屋を掃除しながら、私はお兄ちゃんに掃除をするようにすすめた。やりかたも分かりやすく教えたし、掃除がしやすいように道具も揃えた。

最初は「お前が やればいい」とか言ってたお兄ちゃんだったけど、次第に ちゃんと掃除をし始めたのか、日をあけて お兄ちゃんの部屋に来ても、前と比べたら(わりかし)きれいになった。





今日も、お兄ちゃんの部屋にいく予定。また二週間ぶりになっちゃったけど、最近の パターンからいって、また わりかしきれいな部屋を維持してるんじゃないかな。

あんな汚部屋だったのに、最近頑張ってお掃除をしている お兄ちゃんの頑張りを誉めたくて、ケーキを作ってきた。料理がダメダメな私だけど、苦手な家事を頑張るお兄ちゃんを見ていたら、私も頑張りたくなった。まだ下手くそで スポンジがあんまり膨らまなかったけど、お兄ちゃんを思いながら作ってみたら、(わりかし)うまくできたから持ってきた。


驚かせたくて、ちょっと遅くなるってメールして、いつも通りの時間にお兄ちゃんの家に行く。アパートのエレベーターに乗り、奥にあるお兄ちゃんの部屋に歩いて行こうとした時。

お兄ちゃんの部屋のドアが、開いた。


「お兄ちゃーー」





呼び掛けようとした私は、部屋から出てきたお兄ちゃん以外の人の姿を見て、反射的に見つからないように隠れた。


だけど、声は嫌でも耳に入ってくる。





「いつも悪いな」


「別にいいわよ。あれくらい、どうってことないし」


「……どうにも、掃除だとかは苦手なんだよ」


「フフ、知ってるわよそんなの。何年の付き合いだと思ってるの?」






親しげに話す二人を見て、目がチカチカした。でも何より、その会話の内容に どうしようもなく胃がキリキリと締め付けられた。


手から力が抜けて、持っていたケーキの箱を落とした。箱が地面に叩き付けられる音。ケーキが潰れた音。私の心臓の音。全部、ぐちゃぐちゃに混ざって聞こえた。



突然の物音に、二人は振り返った。私はお兄ちゃんの顔を見るのが怖くて、走って逃げ出した。お兄ちゃんが私を呼ぶ声が聞こえたけど、私は止まらなかった。




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