フラグは無いよ。今回嫁さん克服回です
この頃本格的に体調を崩してしまった。投稿速度が落ちますがご了承ください。
寝台に横たわる藍苺の姿は物凄く儚げで、目を離すと消えてしまうんじゃないかと錯覚してしまう程衰弱して見えた。これはますます時間が無いみたいだ。
あまり体に負担をかけたくはない。こんな高熱で精神的にも辛いだろうし、チャンスは一回だけだと思う。
「どっちを選んでも、最後まで見届けるから……」
今の言葉は自分で言ったのか? 全くの無意識だ。え? 私って痛い奴なの?
いやいや…。今はそんなコトはどうでもいい。きっと私も知らない内に精神的に参っているのかもしれない。それでもココからが正念場!
今は目の前の事に集中しよう。たった一度きりのチャンスを無駄に出来ない。もし、失敗しようものなら、要らぬ負担をかけてしまう。そうなったら一生自分を許せない。
最初から血を飲ませる訳にもいかない。特に体が弱っている今は。他人の、それも素養が無いかもしれない藍苺にとっては、濃すぎる妖力は毒でしかない。だから少しずつ、微量に妖力を送り体に馴染ませないといけない。
どうやって妖力を送るのかって?
どうやってだと思う?
みんなは何が浮かんだ?
まさか厭らしい事でも考えた?
残念、やり方は手を繋いで居るだけ。
はい? 誰もそんなこと考えてないと、それは失礼しました。
こんなので大丈夫? 事例があるので問題なし!
あの有名なフラグを言うと思った? いくらなんでもしないよ、嫁さんの命に関わるから。
実はね、妖力って微量だけど手を繋ぐだけで相手に移るらしいよ。何でも、『人から人への妖力の流は、多い方から少ない方へ自然と意識せずに流れる』らしい。だからなにもせずこうして手を繋いで居るだけ体に私の妖力が馴染むのだ。みんな純粋な人間じゃないから多少なり妖力があるらしいしね。
…………まぁ…あれだ、違う方法もあるにはあるけど…。大人用の……その、R指定がね、あるんだよ。キス以上とか………
誰がするか!!!
…………オホンッ……その、ね。言ってきた父さんを思いっきり殴ってしまったんだよ…
あはははははははは……。
8歳の子供に言う事じゃないよね。私が精神年齢28歳で良かったね。そうじゃなきゃ、今頃マミィに絞められてるよ。それとも、この世界では普通なのか?
え? 精神年齢が三十路手前が何を恥ずかしがってるかって? 前世含めて恋愛経験なんな皆無なんだよ! 免疫なんか無いんだよこちとら。
………あのハイスペックな父親の事だ、きっと思考も普通じゃない、もっとこう…ぶっ飛んだ思考なんだろう…。別に父さん嫌いじゃないよ。からかうと楽しいだけだから。
…ん?……あれ?
「こんな時に…眠く………」
意識が遠退く……。まさか失敗したか? 自分でも思っていた以上に疲れていたのか自分。まさかの不発で副作用か!?
そこで意識が完全に途切れた。
********
目を開けると、そこは草原だったのです……。
どうも、ただ今大混乱中の紅蓮です。
「いや、ドコだよココ……。」
見渡す限り草原。昼寝に最適な環境ですね~~違うだろ自分! 余裕かまして見えますが、内心混乱しています。
じ、状況確認をしよう、そうしよう。
えっと……………
1,嫁さん倒れる
↓
2,慌てて看病、高熱にビビる
↓
3,僕と契約して魔法少女云々擬きの説明と諸々
↓
4,妖力を馴染ませてからの…原因不明の気絶、自覚の無い疲労で不発の副作用?(今ココ)
うん。さっぱり分からん。さっきまでのシリアスドコいったよ。いや、シリアスなんて無かったな。
「フッ……所詮私にはシリアス何ぞ似合わないとな。」
私は「シリアスブレイカー」の称号を手に入れた! おいおい…ステータスでも上がるのかこれ。
オホンッ………え~と、つまり見知らぬ土地に居るわけですよ。
「それにしても、この草原にチラホラ浮かんでいる鏡の様なのは何だろ?」
鏡の様なモノを覗き込んでみる。よく見ると何かが映っている。どうやら鏡ではなく、映像を映すスクリーンのようだ。回りにある物はみんなそれぞれ違う映像を映していた。
「みんな見覚えの無い………いや、これは………」
よく見ると私が映っていた。音声は無いので内容は分からないが、誰かと話している。
「あれ? これ見覚えがある。」
視点は違うけれどこれは昨日の出来事だった気がする。ランに薪割りのコツを教えていた時、こんな感じだった。
「もしかしてこれって藍苺の記憶?」
と言うことは、気を失って精神が藍苺に引っ張られた? でも、確かこんな風に他人の精神の中に入り込むなんて前例が無いよ。他人の精神が入り込むなんて、ランに負担が掛からないといいのだけれど…。
どうやら私から見て奥の方に行くほど古い記憶らしい。ココが藍苺の精神世界だとして、私がココにいるのは色々と不味い。だって、人に見られたくない記憶は誰だってあるでしょ?
私は勝手に見て嫌われたくないもの。さっさとココから出て行きたいよ。
「とは言え、どうやって戻ればいいのか……」
こんな時の対処法なんて知らないしね。
「仕方ない。奥に進んでみよう。」
奥に進めば何とかなる……と、いいね。無責任だって? 仕方ないでしょ、それしか浮かばないんだから。勿論、なるべく記憶の映像を見ないように進むよ。生憎と人の記憶を覗き見する趣味は無いんでね。
「それにしても、広大な草原だなぁ………」
見渡す限り青い空と草原、遠くは地平線らしきもの………精神世界はこんなに広いものなのか。
*********
走っても、走っても、追いかけてくる血の繋がらない伯父……。確かにアイツは紅蓮親子にボコボコにされ白の国の国王の使者に引き渡した筈だ。それが何故ここに居るんだ!?
「追ってくんなよ!!」
畜生……、子供の足だからか、はたまたあちらが速いのか、その距離はどんどん詰まって行く。
それがとてつもなく恐怖だ。
走れど、走れど、道は終わりがない。人影も全く見えない。それが恐怖と疲労感を増幅させる。
今思えば、ここ数ヵ月は楽しかった。転生してからあまり良い思い出が無かったからかは知らないが、とても居心地が良くて……。
その所為か孤独感が半端ではない程のし掛かってくる。そう言えば、レン達と出会ってから独りぼっちになったことなど、就寝や風呂やトイレを除く時間以外で無かった気がする。俺はそれだけ周りに守られていたのかと2か月前のあの事件以来痛感している。
今思えば、もう少しで俺は紅蓮に八つ当たりしていたかもしれない。いや、もしかしたらしていたかもしれない………。
それにしても、何時までこの夢は続くのか……あれ? 夢なのかこれは。
「(そうだ、これは夢なんだ……)」
どうりで走っても前に進んでないような背景だったのか。それにいくら走っても疲れない。現実ならもうとっくに疲れている筈だ。
それにしても、この変態はどこまでしつこいのか。良い年して8歳かガキを追いかけてるなんて……。現実は勿論、人の夢の中にまで出てくるなんてマジでウザいな。
「声を出さないのが唯一の救いだな」
先程から一言も喋らないのは不気味ではあるが、あの人の話を聞かない変態の言い分を延々と聞いている方が精神をガリガリ削られる。
「さっさと消えろよ!」
「そうそう、変態はお帰りくださいな!」
ゲシッ! と、良い音を立てて何かが変態を蹴り飛ばした。大体予想が出来た。
「夢の中まで助けてくれるのかよ。紅蓮」
俺の夢の中にまで出てくるなんてな。ドンだけお人好しなんだよ……。あれ?この場合俺の夢の中なんだから、俺のあいつに対する………。
「(俺の中でレンは……お助けキャラか?)」
この時はまだ俺自身の感情に気付いていなかった。
*********
「居ない……」
さっきからかなり歩いたけど、記憶の映像以外に何もない、誰も居ない。嫁さんは一体どこに居るのか。ん~~……よし。
「戻ろう。」
よく解らないけど、戻った方がいい様な気がしてきた。第六感とでも言うのか知らないが無性に戻りたい。
「ここは勘に従おう。どちらにしても勘以外に手がかり無いし。」
嫌な予感がしているのだけど、まさか嫁さんよ、あの変態ロリコンに追いかけられてる夢でも見てるんじゃ?
「あのロリコンの事だ、人の夢にも平気で出てきそうで怖い……」
きっと近からずも、遠からずな事なんだろう。そう囁いているのよ、私のゴーストが……。
一度やってみたかったんだよねコレ。
ちなみに、映画版よりもテレビ版の方が好きだった。あの青い多脚戦車の声が異様に可愛かった。
おっと、話が反れた。あのさ、今初めて気が付いた事があるんだよ。実はさ、この世界実は結構狭かった。今、思いっきり頭を見えない壁にぶつけた。………精神体だからかすごく痛かった。
鎧とも言えるハイスペックな体が無いのでダイレクトにダメージが精神に来るみたいだ。
「マジで痛いと声が出ないってホントなんだね……イッタァァ……。あっ、タンコブ出来てるわ…」
にしても、何だって見えない壁が有るんだよ…。
ん? この壁……微妙に周りの風景とズレてる。
ここだけ本来は壁は無かったのかもしれない。出口だったのだろうか? なら何で塞がれているのだろう。
何かを閉じ込めた?
それとも、私を閉じ込めるため?
私という侵入者に対する防衛本能か?
どっちにしてもここ以外に手がかり無いし……。
この向こうに藍苺が居る気がしてなら無い。壊そうか? でも、壊したら藍苺にどんな影響があるかも解らないし……。
「んー…。よし。やっぱり壊してみよう。ここに居て何もしないよりもマシだしね。でも、慎重にしないと……。あれ?でも、慎重に壊すってどうすれば良いのかな?」
他人の精神世界で力を爆発させる訳にはいかないので、地道に叩き割る事にした。勿論ココに武器なんて無い。使えるのは自分の拳だけ。ココでどれ程本来の力が出せるかも解らないが、日頃の修行の成果を見せる時だ。少しだけだがテンションが上がった。
「……(体の重心を心もち前に……拳に妖力を溜めて…………打つべし!)」
打ち出したのは右ストレート。
狙う場所は周りと少し風景がズレてる場所。渾身とまでいかないがそれなりの妖力を拳に集中させたので案外簡単にヒビが入った。
「ピシッ」という不吉な音を皮切りにガラガラと壁が崩れていく。どうやら見えない透明な壁ではなく、壁の向こうにある様に見えた風景は単なる映像のようだ。壊れた壁の部分は扉の無い入口の様になっており、何も見えない暗闇が何処までも続いていた。
「あー……。如何にもって感じの入口なんですけど……。うわぁ…絶対なんかあるよ。」
正直入りたかない。が、何せここ以外外に出る手掛かりが無い。行くしか無いだろう。
「しゃーないな。女は度胸、男も度胸!」
遠くから誰かの声が微かに聞こえた気がした。あながちこちらで間違っていなかったのかもしれない。どうやら複数の足音がするので何かに追いかけられているのかもしれない。
「もしかして藍苺ってお姫様キャラか? 確かにお姫様だけどね。差し詰私はお助けキャラかな。」
きっと本人が聞いたら激怒しそうな事を喋りながら走るペースを速くした。
遠くの方で藍苺らしき声がする。
「追……く………よ!!」
やれやれ…どうやらまた追いかけられているようだ。私の勘は当たっていた。
それならば、急いで助けに行こう。きっと悪夢でも見てるのだろうか。
人影が見えてきた。出口から遠ざかると中は案外明るかったので容易に見つけるとこが出来た。
見ると、嫁さんはまたあの変態ロリコンに追いかけられていた。夢の中にまで出てくるなんてマジでしつこいやつだなぁ。
でもまぁ……夢なら手加減なんか要らないよなぁ♪
「さっさと消えろよ!」
「そうそう、変態はお帰りくださいな!」
嫁さんの言葉に便乗して一言言いながら変態ロリコンの顔面を蹴り、ヤツを吹き飛ばした。勿論今だけは手加減してね。
それにしても、この場面デジャヴ何だけど……デジャヴで良いんだっけ?それともデジャビュ?
いや、どっちでもいいか。
「お前は夢の中まで助けてくれるのかよ、紅蓮」
呼ばれなくても助けますよ~~って、ナニソレ私はソコの変態ロリコンと一緒にしないでよ~。
「なにさ、その人をストーカーみたいに……。」
「あぁ、悪い悪い。夢の中の人物に言っても仕方ないよな。」
おや? コレはまさか、私も自分の見てる夢だと思ってる? なら好都合かも。夢だから色々と聞けるかも…。
「それにしても、自分の見てる夢だと自覚してるのは驚いたね…。そうそう、速く起きた方が良いよ。何せ嫁さん呪詛を掛けられて高熱出して寝込んでるんだから。早く起きないと取り返しつかないよ。」
「呪詛? 何でまた。」
「知らないよ、私はね。嫁さん何か心当り無いの?」
「ん~~、無い。」
はぁ…手がかり無しか。まぁ嫁さんに心当りが無くても、人は一方的な恨みで他人を呪うこともあるからね……。
「心当りが無いなら仕方ないよな。れよりも、先ずは起きたら? 体に違和感無いの? 凄い熱なんだから。」
「別に何ともないけど……。それに、どうやって起きれば良いんだ? 起きたいと思っても無理そうだぞ。」
ん~~、本人の意思で起きるものでも無いしね本来も。となると……
「(私が嫁さんの精神世界から脱出して叩き起こさないといけないのか?)」
「いつもどうやって目覚めていたんだろう……」
「……そんなの時が来れば、じゃないのか? 例えば朝日で目が覚めるとか。」
「今は朝なのか? 昼間なのかも解らないし…」
ココで今昼近いと教えたら、何で夢の中の人物なのに分かるのかと感付かれる。黙っていよう。
別に言っても良いんだけどね。
「生憎と外のことは解らないよ。」
「だよな……。ん?」
「??………あぁ…何だ起きたのか……。アンタは起きなくても良いよ。」
誰が起きたか? 変態ロリコンだよ。
全く、しつこいな。誤解されてるかもしれないけど、別に人様の性癖を兎や角言うつもりは微塵もない。だけどね、人に迷惑をかけるのなら話は別なのよ。この自分勝手な妄想癖のロリコンは許せない。
大体、嫌がっている相手に結婚を申し込むのなら、相手に誠意を示さないとダメでしょ。無理矢理なんて言語道断!
あの事件の事でヤツもかなりの痛手を受けただろうが、自業自得さ。不能になっただけで許してやったんだから……実際は許してなんか無いけど。
「何なんだよ。あ、もしかして……呪詛関係とか? なら話は早いんだけど…」
簡単では無いけど、対処の仕方はアドバイスできるしね。
「ラン、今から言うこと良く聞いてね。」
「何だよ…」
「多分なんだけど、呪詛の所為でランは昏睡状態になってるみたいなんだ。昔教わらなかった? 呪詛の対処方。ちょっと思い出してみなよ。」
「ん~~……」
「悪いんどけどさ、私って基本的に何も出来ないワケ。だって嫁さんの夢が作り出した人格なんだし~。(実際は本人なんですけど)」
本人が打ち勝ってくれないとダメな気がするんだよね。特にトラウマになってるかもしれないこの変態ロリコンを克服しないと次もし会ったら今後も悪夢で魘されるだろうしね。ここはショック療法?でもやってみようかないい機会だし。
「確かに母親に「心を強く持ちなさい」とか言われたような……。」
「ほー…。(まぁ…何事とも気からだからね。あながち間違ってないかも。)なら話は早いんじゃない?」
「どうすんだよ…」
何だかグタグダになってきたぞ…。ほぉらぁ~変態ロリコンが起き上がって来し…。
「四の五の言わずにあの変態ロリコンを伸せば良いだろ。あんなのお前の想像力が産み出した偽物何だから。何もさぁ、一人でどうにかしろなんて言わないから。」
「あんなの怖くなんか無い。」
「なら何で逃げる。」
「それは……」
「あのさ、くどい様だけど何度でも言うよ。コレは自分自身でどうにかしないとダメなんだよ。」
例え私がどうにかしても根本的な解決にはならない。
「それは解ってる」
「あのさ、藍苺。藍苺は強くなりたいんだよね? 強さって何も身体的な事ばかりじゃないんじゃない? いくら腕っぷしが強くても、精神的に弱かったら意味無いよ。今みたいにさ。」
確かに私は藍苺をどんな時でも助けたいけど、こんな事はまず無理だ。今回は何故か精神世界に入ることが出来たけど、次はそうもいかないでしょ。
「さっきも言ったけどね、何も一人で倒せなんて言わないから。ただ、逃げないで、あんな変態ロリコンの何処が怖いの?」
「………」
泣きそうな顔しても今回はダメだよ。
「ただ逃げて今回も私が助けたでしょ。この悪夢から脱出しないといけないのに、助けてもらうまで待ってるつもり? 確かにあんな目に遭ったのは分かるよ。前世含めてあんな目に遭った事無いからホントのところどんな気持ちか解らないよ。」
そう、前世ではそんなことはなかった。顔が良い現世では周りに守られていたから無かった。それに今は力も強いため余程の事が無い限り無いだろう。
「………どうすらゃいいんだよ……」
か細い声を絞り出して喋った声は、今まで聞いた中でも一番弱々しくてとても藍苺が出している声とは思えなかった。
「そうだね……楽しいことを考えたら?」
「……はぁ?」
なんかスゴくバカにされてる様な顔をされた。ちょっと心外だよそれ。
「ちょっと、人が折角出した提案を……って、ヤバ!」
長話のし過ぎで変態ロリコンが完全に起き上がった。もう一度地面とご対面していてもらおうか。
「ちょっと、待ってて~……どりゃ!!」
飛び蹴りも何のその。遥かに高い場所にある変態ロリコンの顔面目掛けて蹴りを入れる。ホントにこのハイスペックな体に感謝だね。今は精神体だけど。
今回は警戒していたか一発の蹴りではぶっ飛ばなかった。もういっちょオマケで足払いからの急所蹴り。倒れた所に想像も絶する痛み……どやぁ♪
「ちょっと話の途中だからね黙ってて。」
今更ながら、良い子は絶対に真似しないでね。男性にとっては冗談じゃ無いほど痛いのよコレ。
「お前ホント容赦ないな……」
「手加減する必要あるの?」
「……お前な……」
「あ、良いこと思い付いた♪」
フフフフフ……。夢ん中何だから王族だ何だと遠慮しなくて良いからね?
「伸びてる内に、顔に落書きしちゃおうよ♪」
「……はぁー…お前はホントに…突拍子もないな………でも、面白そうだな(黒笑)」
ニヤリと笑った嫁さんの顔はとっても素敵だった。いやぁ久しぶりに見たよ心底楽しそうな顔は。
「やっぱり額に肉の文字は捨てがたいよね」
「額に馬鹿でも良いんじゃないか?」
「それって、馬と鹿に失礼だから」
「それもそうか。なら両頬に猫髭は?」
「バカっぽく見えるから採用!」
どこからか取り出した油性マジックでコレでもか!と言うほど落書きしていく。何で油性マジックが有るのかなんて言わないでよ、夢の中何だから想像すれば割りと実現できるみたいなんだよ。流石夢の中世界。
「wwwww……」
「よ、嫁さん…笑いすぎ…ふふふ…」
ダメだ、笑いすぎて腹筋が崩壊寸前だ。嫁さんなんて笑い転げて声も出ない。ちょっと大丈夫なの?
「ハハハ……だ大丈夫? 笑いすぎて腹痛いよ…wwwww…ダメだ変態を直視出来ない。」
どんな惨状か? 見るも無惨なお顔だよ。この変態ロリコン、顔が良い。例えるならダンディかな。顔だけはね。中身があれじゃ女性は近寄らないよ。
で、その今の顔何だけどね、額に肉は定番だけど、両頬に猫髭、目蓋に一昔前の少女マンガのキラキラパッチリな目に、赤の油性マジックで唇をタラコ……コレだけでも面白いのに嫁さんはまだ描き続けた。結果なんとも悲惨な……爆笑の顔面に早変わり~。元が良い分破壊力抜群何だよね。
「あ~…こんなに笑ったの久しぶりだな。夢だけど。」
「この頃熱心に修行してたもんねぇ。笑う事って大事だよ、同じくらい泣くことも大事だと思うなぁ、私は。」
笑う事はあっても、他人に弱さを見せることは無いもんね。特に泣くなんて絶対見せないだろうから。
「良く言うじゃない、人に弱さを見せるのは決して悪いことじゃない、ってさ。まぁ、別に無理して見せなくても良いけど、どこかで発散しないと感情のバランス崩れるよ。」
「言ってることが矛盾してないか?」
「うん、そうだね。だからね、泣きたくなったら人知れず泣けば良いよ。(実際泣いてるみたいだし。)」
「それは……」
「夜な夜な部屋で泣いてる? 何ででって顔してるね。忘れたの?私は藍苺の心が作り出した夢の中の人物だよ。(本当は本人だけど)」
「そっか…」
「悩みなんかも誰かに相談したらいいよ。意地なんか張らないで。それでもうまくいってないなら尚更。誰もバカになんかしないよ。悩みなんて誰でも有るもんなんだから。」
そう言って藍苺の顔を見るとさっきよりも驚いた顔をしていた。そしてどこか吹っ切れた様に見えた。
「もう怖くない?」
「あぁ。怖くないな。あんなマヌケ面見たら。」
「そっか……よかった。」
少しほっとしていたら視界が段々と霞んでいく。どうやら藍苺は目が覚める様だ。コレで私も帰れるだろう。………帰れるよね?
「さて、もうお別れの時間だね。きっと夢の中でも会うことは無いだろうね。」
「そうか。」
「寂しい? 目が覚めたら本物が待ってるでしょ。」
「寂しくなんか無い。ただ、お前にまた助けられないように強くならなきゃなぁ…と、思っただけだ。」
どうやら嫁さんは本当に吹っ切れたみたいだ。
「またそうやって無理したら台無しなんだからね。程々にね。」
藍苺が何か言い返してきたようだか、視界が霞むと同時に音も聞き取り辛くなっていたので良く聞こえなかった。
何を言っていたのだろう、少し気になった。
*********
ふと目が覚めた。あぁ、自分は今まで夢を見ていたんだな。そして気付いた。
「ずっと紅蓮が手を握っていたのか……」
だからあんな夢を見たんだな。まさか夢にまでレンが出てきて助けられるなんて。どれ程日頃から助けられてたか分かるよ。
レンは手を握って眠っていた。どのくらい眠っていたのだろう。どれ程心配をかけたのだろう。今すぐ謝って、お礼も言いたいけど、何だかまだ体が怠い。きっと夢の中で言っていた呪詛の影響だろう。
頭を撫でたくなった。唐突にだがそう思った。
「(今までこんな風に他人を想った事なんて無かったな……)」
きっと自覚してはいけない気がする。自覚してしまったら………今は考えるのは止めよう。
「それにしても、良く夢の中まで来れたな……」
レン本人は隠したかったのかも知れないが、バレバレだったぞ。でも、
「ありがとな」
本当は上掛けか何か掛けてやりたいけど、生憎と体が動かない。レンが風邪を引かないといいけどな……
そしてまた俺は眠りについた。




