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2歳の息子は賢者らしい〜裏切りから始まる母子の異世界生活〜  作者: 梅丸みかん


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第13話 狼伝説

 一階の部屋に降りて直ぐに、びっしりと並んだ本棚の方へと向かう。

 この家の天井はかなり高い。本棚は、その高さに届くまで壁一面に伸びていた。


 とりあえず、目の前に並んでいる本を確かめる。


 青い表紙は魔法書。一巻から十巻まで揃っている。

 最初の一巻を手に取り表紙をめくると、「基礎編」という文字が目に入った。


 一巻から順に学べばいいようだ。

 次に緑の表紙に目を移す。


 植物辞典のようだ。

 ペラペラとめくってみる。


 カラーの図解付きでとても分かりやすい。

 こちらも十巻まである。

 橙色は魔導機辞典、そのほか生物辞典や鉱物辞典も整然と並んでいる。


 あとは、上の方にある本だけど……

 どう見ても私の身長じゃ届かない。

 いや、かなりの長身の人でも天井付近の本を取るなんて無理だろう。


 ――あの上の本、どうやって取ればいいの?

 どう見ても私の身長の倍以上はありそうだ。

 たとえ先代賢者が背の高い人だったとしても、あの最上段の本を簡単に取れたとは思えない。

 ……やっぱり、魔法を使っていたのかしら。


 半ばあきらめかけた、そのときだった。

 ふと、一冊の黄色い背表紙に目が留まる。


 ――住居マニュアル……?

 胸がかすかに高鳴る。


 もしかして。

 私はその本を手に取り、ページをめくった。


 すると……

「検索する時は「ブスカル」と唱えた後に欲しい情報を口にせよ」

 その一行が目に飛び込んできた。


 ん? どういうこと?

 よくわからないけど、試しに「ブスカル」と言った後に「部屋の灯りの点け方」と口に出してみた。


 すると、ページが勝手にめくれ、そこにはーー部屋に灯りを灯す唱和「ルース」と記されていた。

 長老に教えてもらった通りだ。


「おお……なにこれ、すごい!」

 思わず声が漏れる。


 どうやら、検索機能つきの本らしい。仕組みはさっぱり分からないけれど、なんて便利なのだろう。

 ええと……今、知りたいのは――。


「ブスカル――高い棚にある本を取り出すには……」

 本に向かってそう声に出すと、ページがひとりでにパラパラとめくれた。やがてぴたりと止まり、そこにはこう記されている。


 ――梯子を召喚する言葉――「エスカレラ」

 試しに口にしてみる。


「エスカレラ」

 すると、棚と壁の隙間から、するりと梯子が現れた。


「おお、すごい……!」

 だが、その梯子は壁にぴたりと張りついたままだ。手でつかんで動かそうとしても、重くてほとんど動かない。


 これでは好きな場所の本が取れないではないか。

 もう一度、本をよく見る。すると、先ほどは気づかなかった小さな文字が書き足されているのが分かった。


 ――梯子を移動するには「デスプラ」

 ――その場に止めるには「デテネール」

 ――元の状態に戻すには「カルダー」


 なるほど。

 さっそく試してみる。


「デスプラ……」

 ……あれ? 動かない。壊れているのだろうか。

 そう思って何気なく梯子に触れた瞬間、すっと横に滑るように動いた。


「え? 動いた……?」

 もしかして、勝手に動く呪文ではなく、“動かしやすくする”ための呪文なのだろうか。

 私は梯子を本棚の中央まで押して移動させる。そして、


「デテネール」

 と唱えた。

 すると、梯子はぴたりと固定され、力を込めてもびくともしなくなった。


「なるほどね……」

 感心しながら梯子を登り、天井近くにずらりと並んでいる背表紙を目で追う。

 ジェロール帝国の歴史、エルフの国・サティア王国、東邦連合国の秘密

 なるほど……きっとこの世界にある様々な国についての本が並んでいるらしい。


 ここにある本だけで、この世界の大抵のことは知ることができそうだ。


 でも、今は必要ないわね。

 それよりもまずは、目先のことに目を向けよう。


 まずは理玖を守るためにもなんとか魔法を使えるようになりたい。

 私はそう目的を定めると梯子を降りた。

「カルダー」と唱えると、目の前の梯子はスーッと本棚と壁の間に消えて行く。


 ほう……なんか面白くなってきた。

 もう一度、梯子を出してみたい衝動に駆られたけど、今は我慢しよう。


 あらためて手の届きやすい位置の棚を眺める。

 えっと……魔法の書……だったわね。

 

 そのとき、一冊のタイトルが目に留まった。


 ――『三種の狼伝説』。

 さきほど森から響いていた遠吠えは、白狼族だと長老は言っていた。


 もしかしたら、この本に載っているかもしれない。

 そう思い、私はその一冊を棚から取り出した。

 さっそく本を開き、冒頭を読む。


「この世界には三種の狼族が生息している。炎の精霊の加護を持つ『炎狼族』、闇の精霊の加護を持つ『黒狼族』、そして風の精霊の加護を持つ『白狼族』である」


 そこまで読んだところで、ふと疑問が胸をよぎった。


 たしか、小人族も風の精霊の力を借りて魔法を使うと、長老は言っていたはずだ。

 それなのに、小人族と白狼族は敵同士なの?

 いや、敵同士というよりも小人族は恐れているのか。


 でも、お互いに歩み寄れば仲良くできたりしないだろうか。

 あの遠吠えを思い出すと、背筋が冷たくなるほど恐怖を感じる。


 けれど、人の姿になれるというのならどうにかできそうな気もする。

 小人族を守護する精霊が同じように白狼族を守護するのなら、悪い一族とは思えない。

 なんとなくだけど、精霊は純粋な者たちを守るようなイメージがある。


 まあ、私の勝手な思い込みかも知れないけど。 


 そのとき……

「かぁーたん……かぁたん、どこぉ……? わぁぁん、かぁたん……いない……」

 理玖の泣き声が、私の思考を一瞬で断ち切った。


「理玖!」

 本を閉じるのもそこそこに、私は一目散に階段を駆け上がる。

 ベッドの上で涙をこぼす理玖を抱き上げ、背中をさすりながら、震える小さな体に自分の温もりを伝える。


「大丈夫だよ、理玖。母さんは、ここにいるよ。どこにも行かないからね」

 穏やかな声でそう告げる。

 すると、泣き声が次第に収まり、ほっと息をついた。


 昼間は無邪気にはしゃいでいたけど、こんな見たこともない世界に来て、理玖も内心不安を感じているのかもしれない。


 安心したのか再び理玖の寝息が聞こえてきた。

 理玖の存在は、未知の世界に来た私に確かに勇気を与えているのだと感じた。



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