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隼人という人間

僕は小さな頃から地方銀行の営業に憧れていた。銀行からの融資は夢を支えることに直結する。そんな風に思ったのは両親が小さなカフェを経営する際に融資を受けた時に思った。あの頃の両親はキラキラしていた。夢を叶えようとする気概、人の幸せなひと時を提供しようとする真心、ポジティブな感情すべてを持ち合わせていた。なにより、両親の幸せそうな顔を見る度、僕は幸せな気持ちでいっぱいだった。僕は両親が好きだった。他人の幸せを心から願える両親に倣って、僕もカフェを開こうと思った程に。けれど、そんな幸せは長くは続かなかった。某ウィルスによるパンデミックが起きた。当然、飲食店は自粛を迫られる。銀行は両親の飲食店では借金を返せないと判断した。その判断を下した銀行は何をするか?答えは明白、店の差し押さえだ。銀行員は両親の店を差し押さえて借金に対していくらかの足しにした。けれど、それだけで借金は減らず、両親は喧嘩が耐えなくなった。

「私は融資なんて反対だったのよ!」

「カフェを開きたいって言ったのは、お前だろ!」

「借金してまで開業したいとは思わなかった!」

「じゃあ、俺が全部悪いのか?お前の夢を応援した俺が全部悪いのか!?」

僕は耳を塞ぐことしかできなかった。両親の喧嘩はすぐに終わった。離婚という形で。僕を引き取ってくれた母にこう言った

「僕、銀行の営業になるよ」

「なんであんな人になるの?家族を壊した人間たちなのよ!」

「違うよ母さん、銀行の営業は本来、夢を支える仕事なんだ」

「違うわ!銀行は晴れた日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる仕事よ!」

「僕が雨の日にでも傘を差しだせる人間になるよ」

家族が壊れた原因があるからこそ、僕は銀行の営業にこだわった。かつて、憧れていた夢を支える仕事、それを実現させるために。母は最期まで反対した。

「ノルマが厳しいからあなたじゃ無理」

「どうして僕を信じてくれないの?」

「あなたもカフェを開業したいって言ってたじゃない」

「気づいたんだ、より多くの人の幸せを願うなら、雨に傘を取り上げない営業が一人でも必要なんだ。母さんもそう思うだろ?」

「銀行に携わる人間はみんなクズなのよ!」

母は僕の問いには答えない。話も聞いてくれない。信じてもくれない。けれど、僕は誰にも認められなくても銀行の営業を目指すんだ。


そんな時さなえさんと出会った。さなえさんは『人の役に立ちたい、そのために何ができるかを考えて目標にするのは、等しく素晴らしいこと』なのだと、認め理解してくれた。さなえさんの言葉は母から聞きたかった言葉だらけだった。短くてもその言葉は僕の心に残るには十分な言葉だった。そんなさなえさんに僕は恋をしたのだが、どうやら僕の恋路は険しいらしい。佐藤さんとさなえさんは見るからに親子ではない。似ていないというのもそうなのだが、言葉の節々から嘘の匂いがする。悪気はないけれど隠しているようなそんな感じが。問題なのはさなえさんが佐藤さんに好意を抱いている様子があるところだ。佐藤さんの言葉に顔を赤らめる、そんな女性を見たら、一発で佐藤さんに好意を抱いているのだと、鈍感な男でも気づく。僕は勝負に出ることにした。さなえさんと僕、そして佐藤さんを含めた三人で水族館に行くことにした。僕の本気度、いや相応しさを理由に、佐藤さんが諦めてくれると良いのだけれど…。


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