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第4章 回転寿司と、回らない魂

目が覚めると、死神が座布団に座っていた。


フードを深くかぶったまま、動かない。

その姿が、そこに“いる”という事実だけを主張していた。


「……おはよう」


「おはよう」


挨拶する死神なんて律儀なのか冗談なのか、起きてすぐの頭では判断がつかない。


俺は頭を押さえながら聞いた。


「で、今日は何すんだよ 延長なんて言ってたけど」


「お前が死ねなかった理由を探しに行く」


「それは分かってるけど起きていきなりだな」


「延長とは言ったが俺も気になることではある、とりあえず行くぞ」


「どこ行くんだよ」


死神は言った。


「回転寿司だ」


「なぜそうなる」


「自殺志願者は最期に何を口にするか迷う 備蓄する」


「統計とるなよ」


午前十時、俺は車のエンジンをかけた。

死神は当然のように助手席に乗ってくる。


「おい、なんで助手席にいるんだよ」

「当たり前だろ、お前を観測するのが仕事なのに」


死神はさも当然のように答える。

「浮遊できるって言ってただろ」

「あぁ、浮遊できるが車についていけるほど万能ではない」


死神も大したことないのか、なんて思いながら運転する。

回転寿司に着くと、死神はタッチパネルを凝視していた。


「使い方分かるのか」


「分かる 前任から引き継いだ」


「お前らに前任とか引き継ぎとかあんのかよ」


「ある 働き者の死神は優秀だ」


俺はまぐろ、死神はサーモンを注文した。


「味わかるのか」


「味覚はない 情報として摂取する」


「働き方が効率的すぎて怖いんだよ」


「ある意味働き者の死神だろ?」



寿司を二皿ほど食べたとき、死神が言った。


「死ねない理由の答えは出たか?」


「寿司を食べることがやり残したことではないのがわかったよ」


「そうか、それは残念だ」


「食事は生存行動だ 自殺の直前でさえ多くの者が最後にそれを求める」


たしかに妙に納得できてしまった。でも俺は食べ物に対して執着なんてなかった。


俺は腹が満たされた辺りで少し考えた。自分が死ねなかった理由、やり残したことと言えるもの。


「……ゲーム作りたかったのかもしれない」


入れ直した熱いお茶の湯気が揺れ、目には少し沁みた。

俺は続けて言おうとしたが死神が割り込むように言った。


「それで十分だ 言葉は兆しでいい」


何が十分なのか分からなかったが、少しだけ胸が軽くなった。


「次はゲームセンターだ」


「なんでそうなるんだよ」


「検証する」


「何を?」


「ゲームセンターがどういうものかだ」


「それってお前が行きたいだけじゃないのか?」


「そうとも言うな」


俺は短くため息をついた。

本当はサボって遊びたいだけの死神なんじゃないかと思い始めてきた。


「働き者の死神だ」


フードの奥で笑った気がした。


ゲームセンターで、俺たちはクレーンゲームの前に立った。


黒猫のぬいぐるみが、こちらを見ていた。

死神が近づいてきて一言。


「取れ」


「無茶言うな」


「自殺志願者は遺品として黒い獣を求める傾向がある 参考にする」


「統計増やすな!」


結果、千五百円を吸われ、黒猫は俺の手に落ちた。


死神は黒猫を膝に乗せ、満足そうに言った。


「有益なデータだ」


「俺の財布にとっては致命傷なんだよ」


「次は海だ」


「帰らせろよ」


「延長中だ」


その言葉は、どこか楽しそうだった。

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