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第3話:鍵の在処は給湯室の隣ってマジですか?


「……じゃあ、つまり鍵の場所って、お前も知らねぇってことか」


「“使ったことはない”って言っただろ。聞いた事あるのと、触れたことがあるかは別だ」


俺は牢の中で膝を抱えたまま、思いきり天井を仰いだ。

ここにきてのまさかの「聞いたことはある」止まり。


「いや、そりゃまあ、希望が見えただけでもデカいけどさ……」


 


グルが腕を組み、ふてぶてしく壁にもたれかかる。

彼は今、まるで終業後のサラリーマンのような表情をしていた。


「……確か、給湯室の隣の倉庫になんかあるって聞いた。

鍵束を管理してる“保管棚”ってやつがあるらしい。上級の看守だけが開けられる」


「給湯室の隣……つまり、職員エリアか」


「そうだな。お前の立場じゃ、行くこともできねぇ場所だ」


「いや、お前の立場でも無理だろ?」


「おう。だから、夜勤中にこっそり探しに行く」


「え、行くのかよ!?」


「バカ、行かねぇとパン焼けねぇだろ!」


……お前、パン焼きたいのかよ。

思わず笑いかけたが、グルの目は本気だった。なんだこいつ、可愛いな。


 



翌晩、作戦は実行に移された。

名付けて――“俺たちの鍵を求めて ~ゴブリン潜入編~”。


なお、命名はグルである。


「じゃ、ちょっと行ってくるわ。見回りルートにしれっと組み込むから、30分ぐらい待っとけ」


「無理すんなよ。捕まったらパンどころか命ないぞ」


「へっ、社畜ナメんな。サービス残業歴12年だぞ。時間配分だけはプロだ」


ドヤ顔で去っていくグル。

あいつ、ほんとにどの世界でも社畜力高ぇな……。


 


しばらくして、俺は牢の奥でじっと息を殺して待っていた。

時折聞こえるゴトンという金属音、遠くから響く看守の足音。

そのすべてが、普段より少しだけ鋭く聞こえる。


 


──その20分後。


「……戻ったぞ」


「!.....無事か!?」


鉄格子の向こうに現れたグルは、汗をぬぐいながら口元をゆるめた。


「やべぇもん見つけたぞ」


「鍵あったのか!?」


「いや、違う。給湯室の横に、こんな張り紙があった」

そう言って差し出された紙切れには、手書きでこう書かれていた:



『鍵は現在、監獄副長の私室にて保管中。勝手に触ったら即処刑だからな』



「……詰んだ?」


「まだだ。俺はこの状況を“チャンス”だと捉えてる」


「なんでそうなる....」


 


グルはニヤリと笑った。


「副長が“個人的に”保管してるってことは、逆に言えば――副長が持ってる時以外、

どこかに“置いてある”ってことだ。タイミングを狙えば、盗める」


「はぁ……どこまでバクチだよ」


「バクチで人生変えられないなら、パンなんか焼けねぇ!」


 


グルの言葉は、やたらと力強かった。

そのくせ、パンが命みたいなテンションなのが逆に笑える。


だが、今はもう笑っていられない。

確かに、鍵は存在する。そして、具体的な所在もわかってきた。


あとは、“取りに行くだけ”――それがどれだけヤバいことか、まだ知らないくせに。


 


鉄格子の外、遠くでまたフクロウが鳴いた。

その声が、牢の中の俺たちに合図を送るように響いていた。


 


――脱出の第一歩は、鍵を手に入れること。


そして今、パンの香りはまだ遥か遠くだが、

その“生地”だけは、静かに、確かに練られ始めていた。


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