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第18話:襲撃、規格外の力

森を揺らす地響き。

獣の咆哮と、金属がぶつかる耳障りな音。


「っ……!」


俺は思わず一歩後ずさった。

月明かりに浮かび上がったのは、背丈が二メートルを超えるオークと、背に棘の生えた魔獣。

その後ろには異形の兵士たちがぞろぞろと続いている。

胸には同じ紋章――魔王軍の印。


「やっぱり……!」


息が詰まる。

牢屋の石床、鉄格子、あの暗闇が一気に蘇る。

足が震え、前に出られない。


 


「……なるほど。囚人逃亡の件、本当だったか」


斥候の先頭に立つオークが低く唸った。

赤い瞳が俺を射抜く。

その眼差しには、獲物を見つけた捕食者の冷たさしかない。


「ツバサ、下がってろ」


カナムの声が飛ぶ。

俺が返事をする前に、彼女は一歩前に出ていた。


 



 


「捕まえろ。生きていれば十分だ」


オークが腕を振り下ろすと同時に、魔獣が飛びかかってきた。

牙が月光にぎらりと光る。


「……チッ」


カナムが指先をひらりと動かした。

瞬間、風が弾け、魔獣の体が宙に吹き飛んだ。

骨の砕ける音。

地面に叩きつけられた魔獣は、二度と動かなかった。


「なっ……!」


兵士たちがざわめく間もなく、次々と襲いかかる。

槍の穂先が煌めき、剣が唸りを上げる。


だが――


「遅い」


カナムの声は静かだった。

彼女の周囲に空気が渦を巻き、透明な壁のようになって兵士たちを弾き返す。

槍は砕け、剣は跳ね飛ばされ、兵士は呻き声を上げて転がった。


 


「……嘘だろ……」


目の前の光景が現実とは思えなかった。

ただ片手を動かすだけで、十人以上の兵が戦意を喪失していく。

まるで子供を相手にしているみたいに。


 


オークだけは踏みとどまり、怒りに咆哮した。

「調子に乗るなッ!」

大剣を振り下ろす。

地面が割れ、衝撃で木々が揺れる。


「おおおっ……!」


俺は咄嗟に声を上げ、体が動いた。

けれど次の瞬間、目の前に広がったのは――


「うるさい」


カナムが伸ばした掌から放たれた“水の槍”。

それは音もなくオークの胸を貫き、巨体を一撃で沈黙させた。


 



 


「……終わりだ」


焚き火の残り火がゆらめき、周囲は静寂を取り戻していた。

辺りには倒れ伏した兵士と、散った魔獣の残骸だけ。

俺はその場にへたり込んだ。

心臓は今も喉元で跳ね続けている。


 


「……ツバサ」


振り返ったカナムの瞳は琥珀色に光っていた。

戦いの最中とは違い、今は淡々とした静けさを取り戻している。


「分かったか? 今のお前じゃ何もできない」


「……はい……」


言葉が喉で震えた。

俺はただ、見ていることしかできなかった。

守られるだけで、足を引っ張ることしかできなかった。


 


「……でも」


震える声で、それでも口を開いた。


「次は……絶対に、何かを掴んでみせます」


拳を握り、膝の上で震わせる。

恐怖は消えない。

けれど、その奥にある悔しさはもっと強い。


 


カナムはわずかに目を細め、口の端を上げた。


「……いい目だ。

 なら、次の修行は“制御”だな」


焚き火に薪を投げ入れる。

炎が立ち上り、闇を追い払った。


その光の中で、俺は強く誓った。

必ず――力を手に入れる、と。


 



 


夜空には、牢屋の鉄格子越しに見たものとは違う星々が広がっていた。

でも今の俺には、それがあまりに遠く感じた。


“守られるだけ”じゃ、どこにも手は届かない。


俺は必ず、自分の翼で飛べるようになってみせる。


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