第四王子はいりません
侯爵令嬢クラリッサは、静かに笑みを浮かべながらも胸の内で燃えていた。
王命により、王家との縁談が進められることになったのは栄誉であるはずだった。
だが現実は——最初に話のあったのは長男殿下。だが「より良い縁談が」と言われて一方的に破談。次に次男殿下とお見合いをしたが、彼の口から出たのは「すまない、やはり政略的に別の令嬢を選ぶ」だった。
三度目、三男殿下。
しかし彼は信じがたいほど不誠実だった。お見合いの場に堂々と愛妾を連れてきて、「彼女も一緒に」と笑ったのである。
クラリッサの唇は、微かに上がった。
(……私をどれほど侮っているのかしら)
その場では礼を崩さず、丁寧にお辞儀をして帰った。だが帰宅後、彼女はすぐに動き出した。お見合いをめぐる一連の不誠実さと、その証拠を集めて王宮の目と耳に流し込む。侍女や執事を通じて、噂は貴族社会を駆け巡った。
「長男に婚約をちらつかされ、次男に利用され、三男には愛人同伴のお見合い。王家の恥ではないか」
囁きは炎のように広がった。王家にとっても、名門侯爵家をこれ以上侮辱したという事実は重い。
やがて王宮から呼び出しがかかる。
「第四王子と話をしていただきたい」
だが、クラリッサは毅然と首を振った。
「第四王子はいりません」
その声は宮廷中に響いた。
彼女は用意していた文書を差し出した。そこには三男殿下が愛妾を連れてお見合いに来た際の証言と、他の兄弟がどれだけ不誠実に婚約話を弄んだかが克明に記されていた。
——王家を告発するような書面。
だが同時に、それは「これ以上侯爵家を軽んじるなら、全てを公表する」という脅迫でもあった。
場に沈黙が落ちた。
やがて、国王自らが言葉を発する。
「ならば、三男の件を処断しよう。愛妾を追放し、彼をお前の夫とするのが妥当か」
クラリッサは、ゆるやかに首を傾げた。
「それでよろしいのです。……ただし、彼女は二度と戻さぬこと」
こうして、三男殿下は愛妾を失い、クラリッサに「無理やり」妻とされることになった。
それと、不当にクラリッサの作っていた手芸品を壊されたことにも言及されていた。クラリッサは手芸作家になるため励んでいたが、作品を王家の影に燃やされるなど妨害されていたのだった。
王宮では「第四王子を選ばなかった強情な令嬢」と噂されたが、彼女の耳には痛くもかゆくもない。
「私は、私を侮辱した家に屈したのではない。私こそが、最も望ましい立場を選んだのだわ」
そう呟く彼女の瞳は、これから始まる政略と未来を見据えていた。
あれこれキャラ変更してくる相手は信用できないから差し戻しが妥当