第9話『まぁ焦るなよ。テレビはさっさとしろ』
いよいよ終盤戦という事で、俺も焼酎から梅酒へと切り替える。
やはり最後は梅酒でサッパリさせるのが一番だからな。
しかし、水で割るのもめんどくさいし、このままロックで良いかとコップに注ぎ、飲む。
うむ。うまい。
そんなこんなで酒を楽しんでいた俺はまた番組に意識を向けた。
どうやら次に映し出されたのは電車チームらしい。
『今日で終わりですね。少し名残惜しいです』
『佳織ちゃんは楽しかった?』
『はい! 色々な事を経験させてもらいました』
『それは良かった。うん。そうだね。もし佳織ちゃんが良いなら、今度旅行に行こうか? 陽菜も連れて』
『良いんですか!?』
『うん。知らない場所に行くっていうのは楽しいからね』
『はい! お父様に聞いてみます!』
電車に乗りながら、流れる景色を見て話す二人に俺はホッコリとした気持ちになる。
落ち着くな。
癒し成分がテレビから出てくるのを感じる。
しかし、佳織ちゃんと陽菜ちゃんと立花光佑の旅か。
面白そうだし。どっかの番組でやってくれないかな。
【旅番組のオファーが待ったなしやな!】
【山瀬、陽菜ちゃん、立花。数字めっちゃ取れそう】
【各地で名産とか紹介すれば、そのCM代だけで番組出来そう】
【なるほどな。いい商売じゃないか。はよ】
【放送はよ】
【まぁ焦るなよ。テレビはさっさとしろ】
【笑った】
【焦るなとは何だったのか】
【焦らなくても良いけどさっさとやれって事だぞ】
【無茶苦茶言ってくる上司と同じで笑う】
【しかし、アイドルとか女優が男と旅行は不味いんじゃないですか!?】
【今更だろ】
【これまで何を見てきたのか】
【そういや、あんまりにも自然だから忘れてたけど、立花と一緒に居たんだったな。佳織ちゃん】
【完全に親子ないし兄妹だったからな。自然過ぎて違和感がまるでない】
【確かにこれなら、陽菜ちゃんを含めても何かが起きる気配がしない】
【……なんだろう。陽菜ちゃんを含めた瞬間に何かが起こりそうな予感がするのは】
【陽菜ちゃんは立花と兄妹だぞ。何かが起こる訳が無いだろう!】
【血は繋がってない定期】
【マ!?】
【この話何回目だよ】
【てか、マジで二人が血縁者だと思ってる奴多すぎだろ。全然似てないが】
【陽菜ちゃんは大野の球打てないもんな】
【いやっ、そこじゃないだろ!】
【それは別に立花と血のつながった家族でも打てないから】
【未だ謎多き立花家については色々考察あるけど、少なくとも血は繋がってないし、戸籍上も別に家族じゃないぞ】
【つまり、結婚出来る】
【ざわ……ざわ……】
【夢咲陽菜ガチ恋勢に激震走る】
【いや、立花光佑ガチ恋勢かもしれん】
【それは、どうなの? 居るの?】
【あれだけのイケメンだぞ。居ない方が不思議だろ】
【まぁ、そうな。ガチ恋勢とは違うかもしれんが、この前婚活で会った女が立花光佑くらいの男が自分にちょうど良いとか言ってたし。同じくらいの考えしてる奴が結構居るみたいだぞ】
【立花がちょうどいい。ってお前は何? どんなハイスペックな奴と婚活してんだよ】
【なんと驚き、四十代で自称二十代に見える家事手伝いさんだ】
【うーん】
【見た目は?】
【まぁ、四十代の方だな。って感じ】
【キツくね?】
【まぁ、でもウチの会社の課長(女)も飲み会で自分が稼ぐから立花と結婚したいとか言ってたぞ。まぁそれなりに美人の三十代】
【まぁ、それはまぁ、なんか分からなくもない】
【言うのは自由だからね】
【いや、立花ってまだ二十一か二だろ? その課長も婚活女もどっちも大分ヤバイだろ。立花が選ぶ理由が無いからね?】
【まぁ選びたい放題だろうしな。実際立花クラスなら金出しても良いって女は多そう】
【オークション形式なら、もう相手は決まってんだよなぁ。某石油王の愛娘が立花に惚れて、求婚したって話を聞いたことがあるぞ】
【何それ、何の話?】
【都内某所に観光に来ていたその石油王の愛娘が、暴漢に襲われそうになっていた所を助けたとか何とか】
【なるほど。俺にも出来そう】
【ちなみに、ナイフを振りかざす暴漢を一撃で気絶させ、三階建てのビルから落ちそうになっていたその人を助け、無事地面に降り立って……平然と無事ですか? レディとか言ったらしいぞ。一応探せば動画もある】
【???】
【ここまで全部聞いて意味不明で笑った】
【相変わらず一人超人選手権やってんな】
【まぁ学校の屋上(四階)から落ちても無傷だし。今更感はある】
【感覚が狂ってんだよなぁ】
【そういう話なら某国のロイヤルファミリーが是非我が国にとか言って、娘と結婚させようとしたとか何とか】
【何? 映画の話?】
【遂に姫まで落としたんか】
【今度はなんや。十階から落ちたんか?】
【知らん。ただ、某国には陽菜ちゃんと行ってるし、そこで何かあったんじゃない?】
【テロリストを制圧したか、反乱分子を制圧したか、王宮の屋上から落ちる姫様を助けたか】
【誰か詳しい奴が居れば聞けるんだがなぁ】
【てか立花の話ばっかり話してるが、陽菜ちゃんも佳織ちゃんも結構モテてるぞ】
【そらまぁ、とんでもない美少女だからな】
【百年に一度の美少女陽菜ちゃんと、底知れない人の好さと深窓の令嬢感ある美少女佳織ちゃん。モテない理由が無い】
【ただ、立花ほど派手な話は聞かないけどなー】
【いや、陽菜ちゃんは結構派手だぞ? 某世界的ミュージシャンなんかは陽菜ちゃんがいくつかの国でライブしてた時に、わざわざその日程に合わせて世界ツアーをしたとかな。理由を聞いたら「ヒナに会う為さ」なんて言ったらしいし。これはニュースサイト見れば分かる】
【それを言うなら、佳織ちゃんも大分派手だがな? 映画の海外ロケで某映画大国に行ってた佳織ちゃんが現地のトップ俳優と共演して、惚れられて、そのまま結婚させられそうになったとか。ちな佳織ちゃんに結婚の意思なし】
【倫理観どうなってんねん】
【はっきり嫌だと言わないという事は了承したという事だっていう理論なんだろ】
【拗らせたオタク君かな?】
【ストーカーの発想やん】
【佳織ちゃんとお近づきになりたいなら、まずは俳句を詠め】
【まずはのハードル高すぎて笑う。なんで俳句】
【佳織ちゃん好みのタイプに格好いい人と言っていて、どんな人が格好いいの? に対して俳句をスラスラ詠める人って答えてるから】
【うーん。独特】
【まず、その、日常的に俳句を詠むような場面が無いんだわ?】
【あまりにもハードルが高い】
【いや、まだ今からでも俳句教室とかに入ればワンチャン】
【ワンチャンなんかある訳ねぇだろ。鏡見ろ】
【辛辣ぅ!】
【佳織ちゃんは外見なんて気にしてないぞ。カットされたけど、俺、偶然今回の旅番組で佳織ちゃんと立花と同じ電車に乗る事になってさ。話したけど、俺みたいなデブのキモオタ相手でも二人とも普通に話してくれて、マジで神だった】
【注:佳織ちゃんは俳優です】
【やめたげてよぉ!】
【どんな嘘でも相手が気づかなければそれは真実と何も変わらないから】
【急に哲学始めるやん】
【つまり、佳織ちゃんが俺にべた惚れだと信じ続けていれば、真実になるってこと?】
【急に狂人が出てくるな】
【佳織ちゃんは別に嘘吐いてないんだが】
【お前の妄想で佳織ちゃんを汚すな】
【ボッコボコで笑う】
【そら。こういう発言する奴を肯定して放っておいたら犯罪者になるかもしれんし】
【勘違い野郎を放置すると面倒ごとしか起こさないからね】
【立花に迫った某アイドルさんの話してます?】
【そういえばそんなのも居たな】
【どんな話だっけ?】
【自称最高に可愛い勘違いアイドルさんが、立花との関係を呟きアプリで匂わせて、トーク番組でも匂わせ発言をしていた。しかし、その番組が独自に調べた所、立花は過去に恋人を亡くしており、毎年その人の墓参りに行くくらい未だに想っているとの事。その事についてそのアイドルに確認したところ、過去ばかり見ていてもしょうがない。死んだ人は生き返らないし。未来を見るべきと発言。炎上した。ちなみに番組で発表した内容は立花の許可を貰ってなかったため、炎上した】
【ちなみに、この件にブチ切れた自称立花と最も仲が良いとするアナウンサーがアイドルの発言を不適切だとしつつ、匂わせ行為について、非常に不快であるとコメント。しかし直後同期の女子アナから当該アナウンサーは立花が恋人の写真の入ったパスケースを現在でも持っている事に関して、写真抜き取って燃やしちゃおうか、とか。死んだ奴はさっさと消えて欲しい等の発言をしていた事が音声付きで流出し、炎上した】
【登場人物、立花以外全員クズしか居ないんだが】
【芸能人でもない立花のプライベートを勝手に調べて番組で使ってって、頭おかしいだろ】
【女子アナの話さ。録音してたって事なんだろうけど、咄嗟に録音なんて出来ないじゃん。つまり普段からそういう話してたって事だろ?】
【ちなみに暴露した人間は、自分は常に諫めていたと発言しているけど、まぁ、ね】
【会話は一人じゃ出来んからな】
【なんか立花が可哀想になってきたわ】
【モテないとただ虚しいだけだが、モテると変な奴に出会う可能性が上がるからな】
【立花には幸せになって貰いたいもんだ】
何だか今回の番組で立花光佑に妙に詳しくなってしまったが、それを不快に思う事もなく。
俺もまた、掲示板に書き込まれているコメントの様に、幸せになって貰いたいもんだと他人事の様に思うのだった。
まぁ、俺なんぞが思った所で何かが変わるって事も無いだろうが。
そんな事を考えながらテレビを見ると、既に電車チームの二人は目的地の駅に着いていた様だ。
そして町をゆっくりと眺めながら歩いてゆく。
『どうやら展望台に行くのは歩いていくか、モノレールで行くかの二つがあるみたいだね。佳織ちゃんはどっちが良いかな?』
『うーん。私はずっと電車だったので、歩いていきたいのですが』
『うん。そうだね。じゃあハイキングコースで行こうか』
『はい!』
そして二人はにこやかにハイキングコースへ向かっていった。
これは……。
【完全にフラグ回収の流れ】
【どうせここから人間やめるムーブするぞ】
【さよなら人間だった立花】
【解き放たれた獣】
【CMの後には、空を飛ぶ立花に驚愕する天王寺の姿が!】




