第7話『運命は! 収束する!!』
アイドルの朝は早い。
という謎のテロップと共に画面に映し出された時間はなんと朝四時。
CMが明けて早々にテレビ画面に現れたのはかなり元気な陽菜ちゃんと美月ちゃんだった。
『今日は大分早いですね』
『まぁ、今日は土曜日で車の混雑が予想されますからね。見晴台も車では行けず、ある程度歩く必要がありますし。早めの行動が良いかなと』
『という訳で大通りへレッツら―ゴーゴー!』
陽菜ちゃんの明るい声と共に二人は大通りを目指して歩き始めた。
その道中に美月ちゃんは陽菜ちゃんに声を掛ける。
『そういえば。良かったの?』
『何がですか?』
『ほら、いつもの陽菜ならお兄ちゃんと一緒に行く! とか言いそうじゃない。お兄ちゃん離れ?』
『あー。いや、別にお兄ちゃん離れって訳じゃないんですけど。多分今回の旅で会うのは無理だろうなって昨日察しました』
『へぇ?』
『これはあくまで私の予想ですが、お兄ちゃんはあの町でホテルに泊まる以外の方法で夜を過ごしたのではないでしょうか。例えば人助けをして、その相手が家に泊まる様に言ってきた。とか』
『なるほどね』
『まぁ、おそらく始発で出るでしょうから、それを待てば会えるんですけど、それは余りにも自分勝手過ぎるかなと思いまして。美月さんも一緒に居ますしね』
『ふぅん。なんだ。陽菜は何があっても「おにーちゃん」を優先するんだと思ってたわ』
『そんな事ないですよ! 時と場合によります』
『そうだったのね。それは謝るわ』
『いえいえ。気にしないでください。まぁ、という訳で、今日から一緒にいっぱい遊びましょう! まずはチェックポイントをささっと通過して、折角なので別チームが行けない場所に寄り道をしましょう!』
『そうね。分かったわ。じゃあ、そうしましょうか』
【鋭い】
【立花への理解度が高い】
【だが、行動する前にちゃんと周りの事が見えている陽菜ちゃんは良い子だなぁ】
【天王寺とは大違いだな】
【また天王寺が下げられとるやん】
【天王寺にはアンチしか居ないのか!】
【残念ながら】
【そこはそんな事無いぞって言ってやれよ】
【中途半端な慰めは余計に傷つけるだけだぞ】
【だからって追い打ちしても良いって事じゃないんだよなぁ】
掲示板の言葉にそうだよな。と頷きつつ、俺はやっぱり陽菜ちゃんは天王寺とは違うなと言葉に出しながら頷くのだった。
そしてテレビでは早朝だというのに、早速車を捕まえた二人が子供と二人で実家に戻る途中だという女性の車に乗り込んだ。
前とは違い、今度は陽菜ちゃんが後部座席に乗り、美月ちゃんが助手席に乗る。
後部座席に乗った陽菜ちゃんは子供と遊び、美月ちゃんは女性と話をしていた。
『そっかー。旅番組かぁ。アイドルさんも大変ねぇ』
『いえいえ。こうして色々な場所に行けますし。楽しい事も多いですよ』
『あら。そうなの? なら良いわね』
『えぇ』
『あー。なら折角だし。この辺りの名所とか教えようか』
『ありがとうございます!』
社内の会話は楽し気に過ぎてゆき、見晴台近くに到着した二人は車を降りてそのまま登り始める。
まだ立花光佑たちが謎の現象に立ち会う前で、二人はなんて事もなく上り終わってから景色を楽しみ、その場所を後にした。
【なんも起こらんやん】
【結局アレは何だったんだ?】
【やはり立花光佑が例え幽霊でも女を惹きつけるだけなのでは】
【マジで信憑性が出てきたの笑うな】
【もしさ。仮にだけど。あの見晴台で出るって言われてた幽霊の目撃談とか、心霊現象が消えたら、立花光佑が除霊したって事になるのか?】
【霊能者界隈からスカウト待ったなしじゃん】
【そんな界隈あるのか……?】
【あるはあるだろ。テレビで結構出てるだろ。ウチの近所にも霊視えるっていう人いるし】
【まぁ見えるだけならどこにでもいるわな。問題は解決出来るかどうか】
【てことは問題解決出来たっぽい立花はかなり優秀なのでは?】
【まだ分からんぞ。てか、立花の場合女は除霊出来ても、男は無理なんじゃね? 逆に怒りを買って怨念が強くなりそう】
【イケメンに苛立つのはしょうがない】
【それは、どうかな!?】
【なに!? 貴様! どういう事だ! 説明しろ!】
【何この茶番】
【そもそも立花って、元高校球児だろ。少しでも野球好きな奴なら立花と話すだけで成仏すんだろ】
【それは確かに】
【大野と立花の対決を見にわざわざ地方の球場へ行った私。激しく頷く】
【これで七割は除霊できるだろうし。三割はなんか頑張れば良いだろ】
【野球好きの人口多すぎだろ】
【まったく野球に触れた事ない男は滅多に存在しないから】
【そう言われるとそうだが、なんだ、この、なんだ?】
【お前らどうでも良いが、番組見ろ。すげぇ事になってんぞ】
俺は掲示板の混沌とし、行き場を失った会話を見つつ、テレビへと視線を戻した。
そこでは、アスレチックで大はしゃぎする陽菜ちゃんと、適度に優れた運動神経で鉄棒の技を決める美月ちゃんが映っていた。
一つ決めるごとにカメラにいい笑顔を向けるのは流石と言える。
『いえーい! 陽菜ちゃん。オンステージ!』
陽菜ちゃんはアスレチックの上にある目立つ所に立ち、パフォーマンスを始める。
テレビのテロップには赤字で激しく良い子は真似しないでくださいと書かれていた。
陽菜ちゃんは良い子じゃないからオーケーという事だろうか。
『いやー。楽しかったですね!』
『陽菜。はしゃぎ過ぎよ』
『美月さんも結構楽しんでましたよね!?』
『覚えてないわね』
『えぇ!? 絶対はしゃいでましたよ!』
スタッフから渡されたタオルで汗を拭きながら美月ちゃんは控え目な笑みを浮かべていたが、俺の目は確かに楽しそうに笑う美月ちゃんを見た。
そして二人のパフォーマンスが面白かったのか、現地に居た人々は楽しそうに笑って拍手している。
それは、まさにアイドルというような姿だった。
【良い子は真似してはいけません】
【良い子は真似出来ません】
【良い子じゃなくても真似出来ねぇわ。なんだ。あの運動神経は】
【立花の妹だしな】
【血は繋がってないんですけど】
【魂が似るんだろ。知らんけど】
【適当すぎる】
【陽菜ちゃんが異常行動過ぎて美月の異常行動には誰も気づかない】
【気づいてるわ! 大車輪見逃す奴はおらんだろ!】
【すげぇ……めっちゃ回ってる! 飛んだ!! 砂場に降り立って……ドヤァ】
【可愛い(確信)】
【かわ、いい……?】
【美月オタはヤバイ奴らの集まりだから】
失礼な。
俺は美月ちゃんをデビュー時から推してるが、おかしなオタクじゃないぞ。
ドヤ顔まとめ動画は毎日見てるが、全然中毒じゃないし。
『いやー。存分に遊びましたね。って、そろそろ時間ヤバイですよ。泊まる所を目指さないと!』
『そうね。この辺りだと……。あ。ここに温泉街があるわ』
『温泉!! 良いですね! そこ行きましょう!』
『じゃあそれっぽい車を捕まえないとね』
二人は温泉街方面へ走る車を捕まえて、新婚らしき二人の車に乗り込むのだった。
そして向かう温泉街の名前を見て、俺は笑う。
どうやら無欲の勝利みたいだなと。
【運命は! 収束する!!】
【結局二日目も同じ町で泊ってて笑う】
【さて、今回は出会えるのか】
【会えそうな匂いはしてるがな】
【あ】
テレビでは温泉街で新婚さんと別れ、歩いていた陽菜ちゃんが佳織ちゃんを見つけ、抱き着く所。
そして、天王寺に文句を言われ、言い争いになる所が映し出されていた。
それから三チームは温泉街を回り、十分に楽しんだであろう所で、番組はCMに突入するのだった。




