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第5話『光佑さん! どうやら遂に私の出番が来たようです!』

CMが終わり、番組が再開された。


画面では一日目の名場面集というか、迷場面集というか微妙な映像が映し出されていた。


謎の迷言集の様なものまであり、番組は彼女たちが今人気のアイドルや俳優である事を忘れているのではないかと思うほどだ。


そして一通り、どう反応したら良いか分からない映像集が流れ終わった後、二日目が始まった。


何か異様に不穏な空気である。


何か起きるのだろうか。


朝五時とテロップに出てきた画面では朝もやの中を二人の男女が歩いている。


そう、立花光佑と山瀬佳織だ。


こんなに早朝だというのに、二人は疲れや眠気を見せている様子もなく、老夫婦に見送られながら駅へと向かう。


楽し気に談笑している姿は本当の兄妹か、親子の様である。


『今日のチェックポイントは展望公園の見晴台だね。駅からは少し歩く必要があるみたいだ』


『頑張ります!』


『まぁ、今日は疲れるだろうし。無理せずゆっくり行こうか』


『はい!』


【なんや、不穏な感じで始まったけど……何も無いよな?】


【少なくとも何か事件起きてたら新聞かテレビに出るやろ。事件=しょうもない事。だと思うぞ】


【まぁ、そりゃそうか。生放送じゃないしな】


そんなこんなで視聴者の不安を煽りつつも、二人は電車で目的地に進んでいく。


しかし、身構えている様な何かは起きず、二人は無事展望公園に到着するのだった。


【なんだ、何も起きないな】


【別に何かが起きるとは言ってないからな。不穏な感じに始まった。ってだけで】


【そんな事あるぅ?】


【いや、なんか始まったぞ】


俺は何やら騒がしくなってきたテレビにまた視線を戻し、画面を見るとそこには白い世界が広がっていた。


何事かとカメラの人も騒いでいるが、どうやら深い霧が発生しているらしい。


声はするが、そこに立花光佑も山瀬佳織の姿も見えない。


『立花さん! 山瀬さん!』


『俺たちは大丈夫です。危ないので、動き回るのは止めましょう』


『そうですね!』


『佳織ちゃん。手を離さないでね』


『はい! って、あれ? 光佑さん。あれは』


『ん?』


『佳織ちゃん。抱えるから、捕まってってね』


『はい!』


霧の向こう側で何かが動くような気配がしてから、立花光佑と山瀬佳織の声が完全に消えた。


カメラの人や一緒に居るであろう人たちは焦った様に二人の名を呼んでいるが、返事はない。


【マジで事件起きてるじゃねぇか】


【こういうのカットしないの?】


【チェックポイントだしな。カットするとどうしても不自然になるし。何か大きな事故には繋がらなかったんだろ】


【なるほど。冷静な意見助かる】


【しかし、動きが無いな】


【なんか動いたら教えてくれ。酒持ってくるわ】


【少しは心配しろ】


【言うて、立花光佑居るしなぁ。大抵の事はどうにかなるだろ】


【噂によれば、学校の屋上(4F)から落ちて無傷、結構高い崖から転落して少々の怪我っていう男だぞ。心配するだけ無駄だろ】


【熊とも戦えるしな】


【それは魚捕りだけなんだわ。別にガチファイトした訳じゃないだろ】


【そうだったか?】


【こうしてデマは生まれていくんだなって】


【酷い物をみた】


【しかし、マジで動きがねぇな。もう放送事故だろ】


【いや、なんか霧が晴れてきたぞ】


【なに? え? 何かの見間違い?】


【いや、消えたよな?】


俺はその、画面に映し出された不可解な映像に目を見開いた。


いつの間にか見晴台の上に登っていた立花光佑と山瀬佳織の向こう側に立っていた様に見えた女性? の様な陰がスゥっと消えたのだ。


幻かと思われる様な映像だったが、親切にも番組が、ではもう一度ご覧いただこうというテロップと共に消えていく人を映していた。


確かに居る。何かが。


そして場面は一気に飛び、見晴台で立花光佑と山瀬佳織に合流した所から映し出された。


『さ、先ほどの映像は』


『何かありましたか?』


『あ、いえ。何か人影の様なものが』


『気のせいじゃないですか? ねぇ、佳織ちゃん』


『はい! 幽霊さんなんて居ませんでした!』


【答えー!!】


【もう全部言ってんだよなぁ】


【え? マジで? マジで心霊体験したの? これ、なんの番組だっけ?】


【御覧の番組は旅物語です】


【まぁ旅先で心霊体験っていう物語があったし、まぁ旅物語やな】


【暴論が過ぎる】


【てかこの公園ってヤバいの? 有識者!】


【あー。確かに心霊スポットではあるよ。ただ、そんな真昼間から出るなんて話は聞いたこと無いかな】


【そうだな。俺も一応見晴台の話は聞いたことあるが、飛び降りした人間が夜中に出るとか、火の玉が出るとか、心霊写真が撮れるとかそんな話だよ。ただ夜限定】


【あれだな。出てくるって言われてるのは女の霊だから、立花光佑に惹かれて出てきたんだろ】


【マジぃ? 遂に幽霊すら落とし始めたんか】


【もう何でもありだな】


【今始まった事でも無いから】


【しかし幽霊に会っても平常運転なの控えめに言って意味不明だな。どういうメンタルしてんだよ】


【立花光佑は、まぁ分かる。山瀬佳織は、まぁ分かる】


【どっちも分かってて笑う。説明しろォ!】


【いや、ほら。立花光佑って前に天使に会った事があるとか、あの世で好きだった先輩に助けられたとか言ってたし、既に経験済みなのかなと】


【何、その話。知らないんだけど】


【大野との対談で、高校時代の話になって、そこで語ってたぞ。大野は終始苦い顔してたけど。特に先輩に助けられたって辺りで】


【三角関係って事か? 大野、その先輩、立花で】


【大野「立花は渡さん」先輩「立花は渡さん」立花「先輩……!」大野「ギリィ」って事?】


【おかしい、おかしい】


【いや、しかし大野の立花への執着を見ていると】


【やはりか】


【やはりか。じゃねぇんだわ。大野は恋人居るだろ。いや、もう結婚してたんだっけ?】


【同じ年齢で幼馴染の一般人女性だろ】


【ちなみに陽菜ちゃんの姉的存在らしいぞ】


【なるほどな。メジャー選手の幼馴染兼恋人or奥さんで、今や世界のアイドル陽菜ちゃんの姉ね。ふむ。一般人? 一般とは】


【本人は有名じゃないから】


【なんか写真で見た事あるわ。地味な子だろ】


【大野はもっと選びたい放題だろうに。何であの子なんだろ】


【好きだからだろ。それ以上に理由があるかい】


【そうやって見た目ばっかり気にしてるから想い合う恋人も出来ないんじゃないですか?】


【人間なんて所詮動く肉だぞ。その肉を気にしても意味ねぇだろ。中身を見ろよ。あ。すまん。他人の外側ばっかり気にしてるから君の中身はゴミだったね。早く処分場に行きな?】


【フルボッコで笑う】


【見た目の話するからや】


【ハゲだって必死に生きてんのにな。髪は死んでるけど】


【ねぇ、なんで髪の話したの?】


【俺はハゲじゃねぇけど、コイツの毛髪全部燃やしたいわ】


【ようハゲ】


掲示板はよく分からない事で盛り上がっているが、テレビでは立花光佑が一度公園の下まで降りて、花と菓子を買ってきたらしく、それを供えて山瀬佳織と一緒に手を合わせていた。


完全にアレは幽霊的なアレだったのだろう。


しかし、二人とも呪われている様な様子も無いし、真剣に手を合わせている事から、あの幽霊と何か話をしたのかもしれない。


と考えると、あれはやはり……。


『さて、そろそろ行こうか』


『はい。あまり長居してはゆっくり休めないでしょうし』


『そうだね』


何だかお墓参りに来た親子の様な姿であるが、二人は手を繋ぎながら山を下って行った。


そして少々スケジュール的には遅れているが、電車に乗り温泉で適度に栄えた宿場町に到着する。


今まではどこに行っても珍しい。面白いとはしゃいでいた山瀬佳織だが、駅に着いた瞬間目を輝かせた。


『光佑さん! どうやら遂に私の出番が来たようです!』


『お。じゃあここが言っていた場所かい?』


『はい! 五年ほど前に撮影で来た場所です! 色々お土産屋さんを知ってますよ。行きましょう!』


「あぁ、行こう。と言いたいところだけど、まずはホテルにチェックインしてからね」


「あ……はひ」


【かわいい】


【これは可愛い】


【こんな娘が欲しいだけの人生だった】


【贅沢定期】


駅に着いた瞬間、立花光佑の手を引っ張りながら、早く早くと急かす様に歩いていた山瀬佳織だったが、立花光佑に諫められてからは、恥ずかしそうに顔を赤くして、借りてきた猫の様に大人しくなった。


実に可愛らしい。


佳織ちゃんの沼にハマりそうだ。


これ以上沼を増やすと、息をする場所が無くなりそうだが、とりあえずこの番組が終わったら彼女が出演している映画やドラマでも視聴してみるか。


なんて考えながら、ホテルにチェックインした後、楽しそうに立花光佑を案内する山瀬佳織を見守るのだった。

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