始まりの少女
まずはどうやってこの国ができたのか
それをお話しましょう
小さな、名も無き村
ここに少女が産まれた
少女がまだ自らの力で動けない頃
何もない空を見て笑い、手を伸ばしたり
まるで祈るように胸の前で手を重ねたりしていた
ただ、小さな子にはよくある事だと
周りの人間たちは気にも留めなかった
動けるようになった頃には
何もない空に向かい祈りを捧げるようになった
それでも周りの人間たちは
よくあるごっこ遊びだと微笑ましく見守っていた
そして彼女がやっと話した時
「女神様のために戦う」
そう言って村を出て行こうとした
初めて聞いた娘の声に喜ぶのと同時に
自分たちのことではなく"女神"という
聞いたこともない言葉を発したことで両親は
娘は魔の者に取り憑かれたと恐れ
自分たちの知らない場所に行くことを許した
彼女が産まれ
花が咲き誇り、木が青々と茂り
動物たちが果実を喜び、そして寒さに震える
そんな季節の流れを10回ほど繰り返した頃だ
この時代には女神というモノはなく
神は全て男神のみと言われていた
ただ1人、少女だけが女神を崇拝し
女神の存在を広く知らしめるために旅立ち
行く先々で奇跡としか言いようのない力で
人々を救い、時に裁きをくだした
そして見事バラバラだった村々をまとめあげ
1つの国を作り上げた
それがこの国"ディヌス"
女神の寵愛を一身に受け、女王となった少女
その親族を名乗る者が後をたたなかったが
彼女はその者たちを全て認めず、罪人とした
女王自らが選んだ婿との間に
男女複数人の子供が生まれたが
力を引き継いだのは全て娘のみだった
ただ、引き継いだ力もそれぞれ1つずつで
女王のような凄まじい力を持つ者は現れなかった
そのことを女王は嘆くことはなく
この国が平和である表れであり、喜ばしいことだと
にこやかに語っていたという
力を引き継いだ娘のうち1人が女王の座を継ぎ
他の子たちは貴族となり国を支えていくこととした
娘たちはひとつとして同じ力はなく
それぞれが持つ力を尊重し足りない部分を補い
国を守っていった
不思議なことに力のない息子に娘が産まれると
その娘には女神の力が発現した
近隣の国では女神の力を恐れつつも
その神秘性に惹かれ、ディヌスの貴族令嬢を
自らの血族に加えたがる者が増えていった
しかしディヌスは政略結婚を許さず
他国へと嫁ぐ者はほとんどいなかった
そうして国内では女神の力を持つ者が増えていき
だんだんと女神との約束は忘れ去られていった