王位継承権
3年の月日が流れた。
俺は3年間、自室にこもってひたすらにこの世界の知識をつけていた。
兄と顔を合わせたことがない、兄から会いに来ることもなかった。
王位継承権を放棄するとハーベストに伝えたこと。
国王になるつもりがないということ。
自室にこもってばかりの弟と仲良くする必要もないと判断されたのだろう。
知りたいことがあれば人を呼び、シトリが面会を求めてたまにやって来たり、ティンクとラトは定期的に話し相手になってくれた。
ハーベストやカルアもたまに様子を見に来てくれる程度だった。
王族としての話し方をしなければと思っていた俺も気にする必要がないんじゃないかと考えを改め、せっかく若いんだからと砕けた話し方をするようになった。
ある日、事件は起こる。
血相を変えて部屋に入って来たのはルルティアだった。
「ルル、部屋のドアはいきなり開けないでくれ、びっくりするだろ?」
息を切らしたルルティアはそんな場合じゃないと言わんばかりの顔をしている。
「ハーベスト陛下がお亡くなりになりました!」
流石に驚いた。
先日話をしたばかりで体調が悪いなどの話も一切聞いていない。
「父上の死因は知っているか?」
「詳しくは…カルア様がガルド様に国王の間に来るようにと、仰せつかっております」
「わかった、行こうか」
国王の間に向かう途中何人かの兵士とすれ違った。
俺を見るなり壁に背を向け頭を下げる、面識はないが王族だと理解しているようだった。
国王の間はたくさんの人で溢れていた。
貴族、兵士、あとはわからん。
入ったなりにカルアが出迎えてくれた。
「ガルド、こちらへ」
ルルティアと離れカルアの元へ向かう。
1番前で貴族たちの前に立っている3人の男、その横に並べさせられた。
俺が右端ということは左からアラン、フラグス、アベルドだろう。
初めて顔を合わせたのがハーベストの死というのは少し悲しいもんだ。
「ハーベスト陛下がお亡くなりになられた故、バルグレット王国国王不在となった、早急に新たな国王を決めればならない」
やけにあっさりしているな、この国ではこれが普通なのか?というか喋ってるこのおっさんは誰だ?
「その前に、ハーベスト陛下の残した遺言を読み上げる」
遺言、そんなシステムがあるのか。
「王位継承権を持つ我が子、アラン、フラグス、アベルド、ガルド、先立つ私を許してくれ。4人でこの国を支えてほしいというのが父親としての願いだが、無理だと言うのは分かっている、私の時もそうだったからな。私がもっとも信頼を置いている宰相が総指揮を執り行うように。遺言は以上です」
「許すも何もやっと俺の時代が来たってもんだ」
「兄上、勝ち誇るのは早いですよ」
「そうです。結果が出たわけではありませんからね」
こいつらは王座にしか興味がないのか?
1人くらいまともな王がいても良さそうなものを…
「というかガルド、初めてお前の顔を見たけどガキだな!」
「お初にお目にかかります、兄上」
「お前王位継承権を放棄したんじゃなかったのか?」
「そのつもりでしたが放棄されていなかったようです」
「お話中失礼、王位継承権の放棄は王族に生まれた以上認められておりません」
「だってよ」
じゃあ嫌でも巻き込まれるわけだ。
「10日後か…そんなに待てねえよなぁ」
「奇遇ですね、私もそう思っていたところです」
「早速ですがやりますか」
3人は携帯していた剣を取り出して構え出した。
こいつらアホなのか?
他の貴族たちも何も言わずに見ているだけ、王族に口出ししたくないと言わんばかりだ。
声を上げても仕方ないと諦めている人もいるかもしれないが。
もっと高度な情報戦とか暗殺とか奇襲とかあると思っていたんだけどなぁ…
「母上、ひとつ聞いてもよろしいですか?」
「なんですかガルド」
「父上の死因を教えてください」
カルアは口をつぐんで何も言わない。
はぁ…そう言うことか。
「兄上達、決まり通り投票で決めませんか?生き残った者が勝者なんて馬鹿馬鹿しいと思いません?」
「ガキは生き残るために必死だなぁ!」
「先にお前から処理してやろうか」
3バカは俺に剣を向ける。
「この中で俺についてくる気のある貴族はいるか?今まさにこの状況でだ」
「いるわけねえだろ、居たら即打首だろうがよ」
「私はガルド様を支持いたしますぞ」
「俺もガルド様に命を賭けよう」
シトリとヴァースが声を上げた。
ヴァースにいたっては3年前にあったきりなのにそんなに信頼してくれていたのか。
「…私は最初からガルドについて行くって決めてる」
「落ちぶれ貴族ですが任せてください!」
ティンクとラトも賛同してくれた。
「馬鹿がよ!俺たちの争いに外部の連中は手を出せねえよ!」
アランは剣を振りかぶって俺を狙う。
「ケルベロス、来い」
俺の命令と同時に何処からともなく黒装束を纏った一団が俺を囲む。
「な、お前ら誰か知らねえが俺たち王族に刃向かおうってのか!?あ!?」
「俺の私兵ですよ」
「王族には逆らえない、それが鉄則ですよ」
「彼らは俺の奴隷です、所有権は俺にある何かおかしいですか?」
「汚ねえぞ!」
「こう言う方法もありますよって言いたかっただけです、彼らには手を出さないように言っておきましょう」
俺が目配せをするとケルベロスの一団はさっと姿を消した。
隠密部隊ってかっこいい。
「死ねえ!」
「タイムストップ」
時間を止めた俺はアランの剣を取り上げ、胸を貫いた。
フラグスとアベルドも同様に剣で胸を貫き、俺は時間を動かす。
3人はその場で倒れ込み動かない。
「宰相、これで俺が王で決まりだな」
「これでは投票は無意味ですな、新たなバルグレット国王はガルド陛下とする!」
全員が歓声をあげる。
ふざけるな。
「黙れ」
国王の間が静まり返る。
「母上、先代国王は兄上に殺されたのですね?」
「…その通りよ」
「だと思いました」
口をつぐんだのは言わなかったのではなく言えなかったからだ。
「まだやることがあってな、兄上達を殺した俺が今しかできないことをしようと思う、ケルベロス」
黒装束の一団が再度集結する。
「以前渡したリストの人間を全員殺せ」
発言と共にその場にいる貴族が蹂躙されて行く。
半数以上が処刑され、残ったのは50人くらいだ。
この3年間、管理している自領の民を苦しめていた貴族、許されない不正を働いた貴族達を調べ尽くしていた。
2年で調べがついた、が正しいけど。
膿は全部出し切らないとな。
「処刑された家族の財産は全て没収する、土地の権利は国は返還してもらおう」
「へ、陛下、質問がございます」
「シュタイン卿、聞こうか」
名前を知られていたことに驚くシュタイン卿当主、ラガンだ。
「私は国税を偽り納めておりました、なぜ私は生かされているのでしょうか?」
「簡単な話だ、自領の民のために偽りの数字で納税していた、自分の首が飛ぶ可能性があるにも関わらず、そんな男をなぜ殺さなくてはならない?」
「温情痛み入ります…」
「今ここにいる者達は俺が調べた中でまともな感性を持っていると判断したもの達だこれから新しい国づくりに協力してくれ、よろしく頼む」
そう言って俺は頭を下げた。
残った貴族達は何も言わずに膝をつき、俺に頭を下げ始めた。
「頭を上げてくれ、話はもう少し続くんだ、ルルティア来てくれ」
「わ、私ですか!?」
ルルティアは駆け足で寄ってきて俺の前で膝を折る。
「そんなことしなくていい、横に来てくれ」
「は、はい」
「ルルティア、俺と婚約してくれないか?」
「えぇ!?」
専属のメイドと婚約することに貴族よりも本人が驚いていた。
「もう一度言おうフィアネス・ド・ルルティア、私と婚約してくれないか?」
周りがざわつく。
当然の反応だ、亡国の名を持つ人間なのだから。
「…知ってたんですか?」
「ああ、割と最初から」
「…どうして私なんですか?」
「ここだと惚気になるから部屋で続きを話させてくれないか?」
「…わかりました、婚約お引き受けします」
「ありがとう、シトリ後は任せていいか?」
「畏まりました」
「母上と宰相は余生を自由に過ごしてください、お二人が幼い頃より惹かれあっていたのは知っています」
「ガルド…」
「陛下…」
「新しい時代の幕開けです、どうか平穏な生活を送ってください」
「カルア、行こう」
「レティス…」
レティスに手を引かれ2人は国王の間を後にした。
「ケルベロスの皆との奴隷契約はこれで終了なる、今まで情報収集感謝する」
「お嬢のためなら何でもいたしますよ、なぁ皆」
「話したのはあなたね!クルト!」
「おっと怒らないでくださいよ、お嬢も満更じゃなさそうだし良かれと思っての事ですよ」
「奴隷契約は解除したがこれからも俺の直属の私兵となって働いてくれるか?」
「もちろんっすよ大将!」
このくらい気さくな方が俺は接しやすい。
「後はシトリに任せて部屋で話そうか」
「いいんですか?」
「シトリとは打ち合わせ済みだ」
俺とルルティアは自分の部屋に戻る。