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売れない作家

「ダメです!」




机を叩いて俺を否定するのは俺より一回りも年下の女性編集者。


俺みたいな落ちこぼれの担当になってくれている可哀想な人だ、会社の指示で嫌々担当になっているだかだと思う。




「ミステリー小説のプロットにどうしてラブコメが組み込まれているんですか!」


「いや…面白いかなって思って…」


「面白くありません!むしろ無駄な要素でしかありません!」


「うーん…今回もダメかぁ」


「いいですか!?何度も言っていますが近年の作品は内容のブレない作品が人気なんです!ミステリーならトリックを複雑にしたもの、コメディなら簡潔に分かりやすく、ホラーなら幽霊や妖怪と言った実在しないものを…」


「幽霊は実在すると思うんだよね、ほら心霊写真とか」


「揚げ足をとらないでください!」




また怒鳴られてしまった。


こんなに編集に怒鳴られる作家なんて俺しかいないんじゃないんだろうか。


とは言え、文句を言うことすらできない。




俺は昔、何となく書いたファンタジー小説を登文社と言う会社に持ち込んだ。


全くの素人だったが編集は面白いと言って掲載した結果、新人賞を取ったのだ。


それ以来、登文社にお世話になって10数年全くヒット作品を作れていない。


そもそも売れない作家を10年もかかえてくれる会社が存在しするのかすら怪しい。


だが俺にチャンスをくれ続けてくれている、だからこそ頭が上がらないし、なんとか売れる作品を作りたいと思ってはいる。




「編集長もなんでこんな作家を気にかけているのか…私には理解しかねます」


「失礼だなぁ」


「事実です」




彼女は相沢千穂、大学を卒業後に登文社に就職。


学生時代は作家を目指していたらしいが勉学との両立が無理と諦め、登文社に就職。


経験を積ませるためにと山岡さんが俺の担当に当てたらしい。


山岡さんは俺の元編集で、編集長になってからも俺のことを気にかけてくれている。


感謝はしているが俺は何も返せていないため少し罪悪感を感じている。




「直すだけじゃだめかな?」


「直す箇所が多すぎて大変です、2週間も確認に来なかった私にも非はありますが…」


「うーんごめんね」


「仕方ありません、今回は没にしましょう」




時間をかけて直しても評価は得られないと言う判断だろう。


作品が没になるのは珍しくないが悲しい気持ちにはなる。




「他に構想はないんですか?編集長は引き出しが多いし彼にはもう一度ファンタジーを書いて欲しいって言ってましたよ?」


「思いつきで描いた作品がたまたま賞を取っただけだからなぁ…」


「…嫌味ですか?」


「相変わらず被害妄想が激しいなぁ…今までそんな嫌がらせしたこともないでしょうに」


「…すいません」




これだから…おっとこれ以上は今のご時世まずいな




「ファンタジーかぁ…」


「どうしてファンタジーが人気あるのかご存知ですか?」


「考えたことなかったなぁ」


「現実に飽き飽きしていると非日常、刺激のある世界に興味を持つんです」


「まぁ筋は通っているか」


「最近多いのは異世界転生、主人公ハーレム、最初から強い主人公、追放物ですね」


「今の主流ってそう言う感じなんだ?なんか現実逃避を促してるだけにしか感じないんだけど」


「私も同意見です、とはいえ面白い作品はありますし何とも言えないですね」


「相沢さんも読むんだ?」


「仕事柄です、というか少しは周りに目を向けてください」


「あんまり興味がなくてね…」




俺ががむしゃらにファンタジーを書いた時も確かに仕事をクビになってむしゃくしゃしてた時だったな。


現実逃避、あながち間違っていないかもしれない。


…もう一度書いてみるか…




ピンポーン




誰かが玄関のチャイムを押した。




「私が出てきますよ」




そう言って玄関に向かって行った。


俺の家は両親が残してくれた家でそこそこ大きい。


稼ぎがないが何とかなっているのも両親のおかげだ。




「異世界かぁ…」


「興味がおありですか?」




後ろから聞こえた声に驚いで振り返ると、そこにはペストマスクをした怪しい男が立っていた。




「だ、誰だお前は!」


「失礼、私は…人間が呼ぶ名前で言うとクロノスと申します」




クロノス…時間の神だったか?




「その通り、私は時間を司っておりましてね、ほら今も時間が止まっているでしょう?」




外を見ると雨が空中で止まっている、本当に時間が止まっているのだ。




「心も読めるんですね」


「信じていただけたなら結構、貴方には小説を書き続けてもらいたく、そのお手伝いができればと思い参った次第です」


「…何で俺なんだ?」


「貴方でないとダメな理由がありましてね、貴方も妹のために小説を書き続けないといけないでしょう?」




神様は何でもお見通しらしい。




「私にできるのは別の世界に招待することだけ、その世界を参考に作品を作って頂ければと思います」


「こっちの世界はどうなるんだ」


「私が時間を止めておきましょう、貴方が満足して戻ってきた時に動かして差し上げます」


「…ファンタジーの世界ってことは危険も伴う、死んだ場合は終わりですか?」


「別の世界で死んだ場合はそのまま死にます、その世界が気に入れば永住しても構いませんが、その世界のことを題材にした作品は死後でも書いてもらいます、神ですからそれくらいのことはできます、私は貴方のファンタジー作品が手に入ればそれで良いので」


「時間の神様なんですよね、未来から…」




そこまで言いかけてクロノスは首を横に振った。


どうやら俺は生きている間にファンタジー作品を書くことはなかったらしい。




「お察しの通りです、では」




クロノスが俺に手のひらを向けると俺は芝生の上に座っていた。


周りは太陽の光で照らされキラキラ輝いている。


ここは人間が立ち入ることができる空間じゃない、神々しすぎる。




「貴方がクロノスの言っていた人間ですね?」




この女性は女神様なのか?




「私はラケシス、運命の女神の次女です」




次女ってことは長女がいるのか。


いやそんなことより…ここはどこで俺は何でここに?死んだのか?ダメだ頭が混乱していてパニックに陥りそうだ。




「人間は忙しいですねぇ、とりあえず落ち着いて話を聞いてくださいな」




俺は深呼吸をして落ち着こうとする。




「クロノスに頼まれて貴方を別世界に送るのですが、何か希望はありますか?」


「希望…ですか?」


「どう言った世界がいいとかあれば、ちなみに世界の都合上生まれ直しをしてもらう必要があります、記憶はそのままですが」




赤ちゃんからやり直すことになるのか。


記憶があるのならだいぶ楽にはなる。


生活に困らないようにある程度裕福な暮らしができること、体も弱くなく戦闘ができて魔法も使えると嬉しい。


魔法は…クロノスに倣って時間魔法とかあればいいな。




「ではその条件で送ります、神の退屈に付き合わされる人間は苦労しますね」


「それはどういう…」




質問する前にラケシスは俺に手を翳し、俺は意識を失った。

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