第7話 初めての共闘
「誰か知らないけど、手伝いなさいよ」
「喜んで!」
レイダからの提案に、オルトは思考すらなく答える。
勝手に動いた自分の口に、自分で驚いているほどだ。
だが、ハッとしたオルトは冷静に考えた。
(レイダが主体にならないと意味ないよな……)
ヴァリナは、レイダの力を試そうと対決に誘ったのだ。
そこにひょいと現れたオルトが圧倒しては、レイダの面子が立たない。
オルトもそれだけは避けたかった。
そして何より、推しの活躍は自分の人生の希望だ。
(よし、俺はサポートに回ろう)
オルトは決意を固めると、レイダに意思を伝える。
「すみません、さっきのたまたまなんです」
「は?」
「だからここは、あなたが前で、僕が後ろからサポートするのはどうでしょうか」
「……分かったわ」
多少思う事はあるが、ごちゃごちゃと言っている場合ではない。
レイダは了承し、オルトの前に立つ。
対して、ヴァリナは訝しげな表情を浮かべる。
「ほう。そうくるのか」
だが、作戦に口出しはしない。
今はまだ入学試験中。
彼らを導く立場にはないのだ。
しかし、彼らをふるい落とす立場にはある。
「果たして上手くいくかな!」
「……!」
ヴァリナは再び、前衛に立つレイダに迫った。
【蛇剣】を元のサイズに戻し、身体強化と共に突っ込んで来る。
圧倒的なスピードだ。
だが、今度はサポートがいる。
「させませんよ」
「おおっ!?」
オルトが神力の飛礫を放ったのだ。
エネルギーの塊であるそれは、牽制に役立つ。
ヴァリナがとっさに防御の姿勢を取ると、レイダがその隙を突く。
「はあああああッ!」
「……! 悪くないコンビネーションだ!」
途端に、状況は一転。
かなり力を出しているヴァリナに、レイダが攻められるようになった。
これを作りだしているのは、オルトである。
(私の攻撃を読んでいるのか!)
攻防の間にも、オルトの神力の飛礫は飛んでくる。
それが厄介でならない。
否、厄介どころの話ではない。
ヴァリナですら、信じられない精度だ。
(あの少年、これを狙っているのか……!?)
オルトは、ヴァリナのあらゆる急所を狙い続ける。
一秒の間に何度も切り替わる激しい攻防の中でだ。
もちろんレイダの剣技も決して遅くない。
その針に糸を通すような神業を、幾度となく放ってくるのだ。
(一体何者だ……!)
ヴァリナも強者だからこそ理解できる。
オルトの神力操作が異常であることを。
また、それはレイダも感じ取っていた。
(なんてやりやすいの!)
攻撃を食らっていない為、ヴァリナほど脅威を感じてはいない。
だが、オルトがヴァリナを崩してくれるおかげで、かなり攻めやすい。
オルトの恩恵は、この状況を介して認識していた。
だが、当のオルトは全くそんなことを思っていない。
(レイダたそ、それだよそれそれー!)
ただただレイダの剣技に惚れ込んでいた。
実際目にしたわけではないが、彼女がどれほど努力をしてきたかは痛いほど知っている。
その努力の結晶である剣技を生で見られて、激しく興奮しているのだ。
なんなら、サポートは片手間程度である。
(あの辺、効きそ~)
何とも軽い感覚で、神力の飛礫を放ち続ける。
豊富なゲーム知識に加え、二年もの間『魔神の箱庭』で磨き続けた感覚。
それが功を奏し、脅威となっているのだ。
だが、ヴァリナも伊達に教官をしていない。
「多少は楽しませてくれるということか!」
「……!」
二人の共闘に対抗するよう、さらに力を強める。
ここにきて神力の出力を上げたのだ。
それにはオルトが反応した。
(あ、それはやばい!)
レイダの現在の力を考えて、不相応だと直感する。
すると、オルトは思わず力が入ってしまった。
結果、今までとは段違いの飛礫が飛んで行く。
(ああ、しまった!)
その飛礫は──ヴァリナの神器を砕いた。
「なっ!?」
「……ッ!」
オルトの飛礫は、威力と同時に速度もとんでもなく上がっていた。
それはヴァリナでさえも見えないほどに。
ヴァリナからすれば、神器が突然大破したように感じる。
何が起きたかは分からないが、レイダは目を見開いた。
(チャンス……!)
状況を把握している余裕はない。
これを逃す理由もなく、神器【紫桜】で差し迫る。
「くっ!」
ヴァリナも神力で硬化させた腕で防ごうとする。
だが、神器の有無は、天と地ほどの差をもたらす。
「──わたしの勝ちよ」
「……!」
レイダはヴァリナを押し倒し、顔の横に【紫桜】を突き刺す。
対して、ヴァリナは素直にバッジを差し出した。
「まさか私が負けるとはな」
「……わたしの力だけではありませんが」
だが、レイダの表情は満足げではない。
自分一人では勝てなかった悔しさがあるのだろう。
すると、レイダは受け取ったバッジを後ろに流す。
「これは受け取れないわ。アンタが持ってなさい」
「……!」
無自覚に睨むような、鋭い視線だ。
だが、闇墜ちしているようには見えない。
瞳の中に、人としての感情を残しているように思えた。
(良かった。まだ手遅れじゃない)
それに安堵しながらも、オルトは首を横に振る。
「い、いや、俺は大丈夫、です……」
「は?」
推しを前に若干挙動不審ながら、バッジは受け取らない。
同時にポケットから取り出したのは、獲得済みのバッジだ。
「もう五枚、持ってるから」
「「……!?」」
オルトは確定合格に必要な枚数を、すでに持ち合わせていた。
レイダを三十分前からストーカーしていたため、それより先に集めきっていたことになる。
「アンタ、本当に何者──あ」
レイダがに聞こうとした瞬間、チャイムが鳴り響く。
試験終了の合図だ。
「じゃ、じゃあ俺はこれで!」
「ちょっ!」
すると、オルトはぴゅーっと逃げ出すように走った。
ヴァリナのバッジは、レイダに持ってほしかったのだろう。
これで彼女も確定合格となるからだ。
「ったく……あ」
すると、レイダは最後にぽつりとつぶやく。
「名前を聞きそびれたわ」
こうして、聖騎士学園の入学試験は終わりを迎えた。