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第5話 レイダの試験

<三人称視点>


「残り(じゅっ)(ぷん)……」


 周囲を見渡しながら、とある少女がつぶやく。


 まとめた金髪を左右に揺らすのは、レイダだ。

 そのポケットには、四つ(・・)のバッジが入っている。

 つまり、残り一つのバッジで確定合格となる。


 だが、ここにきてレイダは苦戦しているようだ。


「誰も見つからない」


 レイダは嫌われていると同時に、天才と恐れられている。


 初めこそ順調にバッジを手にすることができた。

 だが、彼女の大体の位置が分かると、受験生たちはこぞって避けていたのだ。

 相手が見つからなければ、バッジを獲得することもない。


 残り時間も考えれば、ここらで誰かしらを見つけなければ、最悪不合格もあり得るのだ。


 すると──


「相手ならいるぞ」

「……ッ!」


 修練場に入ったところで、前方から声をかけられる。

 バッと体を向けると、片目に眼帯をつけた女性がいた。


「今の間合い、戦場なら死んでいたぞ」

「ヴァリナ教官……ッ!」


 ハンター役として参加しているヴァリナだ。

 彼女を目にすると同時に、レイダは冷や汗を垂らす。


(まずい……)


 時間を考えれば、戦える最後の一人だ。

 だが、ここで最悪の相手に当たってしまった。

 加えて、ヴァリナほどの者から背を向けて逃げられるとも思えない。


 ならば、取れる手段は一つ。


「ほう、私とやる気か」

「ええ!」


 レイダは腰の剣を抜き、真っ向から勝負する構えを取った。

 それにはヴァリナも素直に感心する。


「そう来ると思っていたぞ!」

「……! くっ!」


 すると、瞬時に神器具現化(マテリアライズ)したヴァリナは、【蛇剣】を片手に真っ直ぐ突っ込んだ。

 レイダもなんとか受けるが、そこから始まるのは猛撃だ。


「さすがだな、レイダリン・アルヴィオン!」

「……ッ!」


 神器(じんぎ)は、神力の(かたまり)

 通常武器とは比べられないほどの性能を持つ。


 その上、ヴァリナの剣筋に容赦(ようしゃ)がない。

 初手の反応がほんの少し遅れただけで、レイダは一方的な防御を()いられる。


「豊作と言われる今年の受験生でも、筆頭と呼ばれるお前を試したかったのだ!」

「うぐっ……!」

「どうした、そんなものか! ここには私とお前しかいない(・・・・・・・・・)のだぞ! 自分の力で切り開いてみせろ!」

「チィッ!」


 答える余裕すらないレイダに、ヴァリナは好き放題に攻める。

 この口ぶりから、最初から対決を狙っていたのだろう。

 だが、このままでは面白くないと感じたのか、ヴァリナは一歩距離を取る。


「今のままでは話にならん。三秒くれてやる」

「……!」

「できるのだろう、神器具現化(マテリアライズ)

「当然よ……!」


 レイダは、自分一人の力で生きて行くと決めた。

 ならば、この時点で高度な神力操作も身に付けている。

 剣をしまったレイダは、手に神力を集めた。

 

「これでぶっ倒してやるわ!」


 まばゆい光から、紫色の桜が咲き誇る。

 咲き乱れた紫色の桜は、やがて一本の剣を形作った。 


 レイダの両手に合うよう具現化したのは──【()(おう)】。

 紫色のオーラを(まと)った真っ直ぐな剣だ。


「ほう、良い神器だ」

「余裕も保っていられるのも今の内よ!」

「……!」


 すると、今度はレイダから仕掛ける。

 左右にフェイントを入れながら、高速でヴァリナに迫った。

 神力による身体強化も施し、先程とは別人のようなスピードだ。


 しかし──


「淡いな」

「くっ!」


 ヴァリナには届かない。

 正確にレイダの剣筋を見極めると、カァンっと【紫桜】を弾いたのだ。

 だが、その表情には高揚が見られる。


「その意気だ! もっとこい!」

「言われなくても……!」


 【紫桜】を片手に、レイダは攻めの姿勢を取り続ける。

 今までの修行の成果を示すように。

 自分の生きてきた証である“剣”を示すように。


 だが、やはりヴァリナには敵わない。


(なんなのよ、この余裕……!)


 どれだけ攻めようとも、ヴァリナの防御は崩れない。

 こちらが速度を高めるほど、ヴァリナも同じように速度を上げてくる。

 まるで、レイダの力を計るかのように。


(堅すぎる……!)


 様々な差がある両者だが、一番の差は神力だ。

 学園で教官を務めているだけあり、ヴァリナの神力は出力が段違いである。

 (まと)っている身体強化も、神器の強度も、何もかもがレイダより数段上なのだ。


 すると、攻防の中でヴァリナは問う。


「残り時間は五分だ」

「……!」

「ここで逃げ出せば、他の者からバッジを取れる可能性はあるだろう。|周囲には誰一人見つからないがな《・・・・・・・・・・・・・・・》」

「……っ!」


 早く諦めろ。

 そう促したのだ。

 だが、レイダは首を横に振る。


「舐められたものね!」

「ほう……!」


 その意思力が、さらにレイダの神力出力を上げた。


「絶対に倒す! わたしは誰にも頼らず生きていかなきゃならないのよ!」

「そうか。では終わりだ」

「……!?」


 しかし、現実は非情。

 ヴァリナなりの最後通告だったのだろう。

 その覚悟を評して、一気に神力の出力を上げた。


「これでバッジはゼロだな」

「こ、これは……!」


 膨大(ぼうだい)な神力を出力し、ヴァリナの【蛇剣(じゃけん)】が(ふく)れ上がる。

 上に構える湾曲した剣は、数メートルに及んだのだ。

 これほど強大な力の前では、レイダも立ち尽くすしかない。


「貴様の受験はここまでだ」

「……っ!」


 振り下ろされる巨大な剣。

 もはやレイダは避けきれない──はずだった。


「なにっ!?」

「……!?」


 だが、レイダの前で甲高い音が鳴り(ひび)く。


 気がつけば、両者の間に一人の少年がいた。

 ヴァリナの剣の速度に割り込める者など、この時点の原作には存在しない。

 ──異常(イレギュラー)さえいなければ。

 

「……体が動いちゃった」


 レイダの前に立っていたのは、オルトだった。

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