第4話 入学試験
<オルト視点>
「受験生ども、聞くがいい!」
受験会場である校庭に、大きな声が響き渡る。
声の主は、片目に眼帯をつけた女性だ。
「私は教官のヴァリナだ! 今から入学試験の説明をする! 質問は許可しない!」
対して、集合していた受験生たちは、一気に顔をしかめる。
おそらく、俺の初プレイ時と同じことを思っただろう。
(((軍隊かよ……)))
聖騎士学園は、聖騎士という名の“戦士”を育てる学園。
軍隊というのも、あながち間違いではない。
予想はしていたけど、やっぱり迫力がすごいな。
そんな事情は知らず、ヴァリナ教官は続ける。
「学園に生半可な者はいらん。そこで手っ取り早く選別するべく、試験は一つのみ。方法は──バトルロワイヤルだ」
「「「……!」」」
受験生は目を見開いている。
でも、俺が思ったのは一つ。
──来たな。
「では詳しく説明しよう!」
説明を片耳に、俺はゲーム内でのことを思い出す。
試験のルールは簡単。
一人一つ胸バッジをつけ、それを奪い合うゲームだ。
武器や魔法、事前に申請したものは全て使って良い。
そして、他人から五つ以上のバッジを奪えば、“確定”で合格。
四つ以下の者は、採点で上から順番に合格だ。
採点は、校内の至る所に潜んでいる先生たちが行っている。
この入学試験、ゲームではチュートリアル的な扱いだった。
だったら、この中にもメインキャラ達はいるんだろう。
そう軽くワクワクしながも、俺は視線を一点から逸らさない。
もちろんレイダの方向だ。
「……フフ」
運良く斜め後ろになれたので、ずっと横目で眺め続けている。
気づかれることなくこの場所は、最高に素晴らしい。
「!」
と思ったら、なんかゾワっとしているな。
誰かの視線に気づいたか?
ふざけやがって、レイダをストーカーする不審者は俺がぶっ倒してやる!
なんて考えながらも、俺は最後までレイダを見続けていた。
「ルールは以上だ」
そうして、ヴァリナ教官は説明を終える。
でも、まだ驚くべきことはあるんだよな。
「だが、一つだけ言っておくことがある」
「「「……?」」」
「この試験には、私自らも参加する」
「「「……!」」」
そう、試験にはヴァリナ教官も参加してくる。
ゲーム内では、操作説明と同時に彼女から逃げるんだったか。
まあ、学園の教官を務めるぐらいの実力だ。
対峙すれば負け濃厚だからだろう。
つまり、ハンター的な立ち位置というわけだ。
そして、重要なことがもう一つ。
「もちろん“神力”は使うぞ」
「「「……!」」」
俺も二年間修行してきた神力。
ゲーム内で核となる要素は、この場面で登場する。
ヴァリナ教官の神力を見せることで、目指すべき場所を示す感じだな。
そんな神力には段階がある。
身体強化など、基礎的な神力操作はあくまで“第一段階”だ。
ならば、第二段階は──
「神器具現化」
「「「……!!」」」
神力で形作った“神器”で戦うんだ。
「これが私の神器だ」
ヴァリナ教官は、神器を掲げる。
受験生に見せつけるように。
──神器具現化。
神力で自分専用の武器を具現化する技術だ。
具現化されたものは、神力の武器という意味を込めて“神器”と呼ばれる。
神器は十人十色で、“自らの経験や魂に基づくもの”が生み出される。
これを習得するには、神器を形作る放出量、形を崩さない制御と、高度な神力操作が必要となる。
「名を【蛇剣】という」
ヴァリナ教官が具現化させたのは、蛇のように湾曲したS字形の剣。
あれが厄介なんだよな。
直剣で正面からやり合おうとすると、ぬるりと一方的に懐に入ってくる。
神器は本人に基づいて生成される。
その通りに、ヴァリナ教官はひねてくれていると攻略本に書いてあった。
──って、やべ、なんか睨まれた。
「これを見れば分かると思うが、私からは逃げるが吉だろう」
「「「……っ」」」
「向かって来るならば容赦はせんがな! はっはっは!」
高笑いをしながら、ヴァリナ教官は受験生を挑発する。
神器具現化は高度な技術だ。
受験生の世代で出来れば、もれなく“天才”と呼ばれるだろう。
ここには千人ほどの受験生がいるが、できるのはおそらく数人程度。
すなわち「ヴァリナという脅威から逃げながら戦え」という試験なわけだ。
そうして、ヴァリナは堂々と宣言した。
「では説明は以上!」
「「「……?」」」
だが、それ以上は何も言わず。
すると、そのまま目の前の受験生のバッジを奪った。
「え、なっ!?」
「何をしている?」
フッと口角を上げたヴァリナ教官は、再度口を開く。
「魔人はわざわざ合図を待ってくれんぞ?」
「「「……!」」」
「分かったらさっさと逃げるんだな」
「「「う、うわあああああああっ!」」」
途端に、受験生は一斉に走り出した。
心の準備が出来ていなかった者は、大慌てみたいだ。
けど、冷静さを保っている者たちもいる。
──どれも見た事のある面々だな。
「やっぱり名前付きキャラは違うか」
そんな者たちを確認し、すっと人混みに紛れる。
俺もぼちぼち作戦通りに動くとするか。