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第36話 今回こそは

 「うおおおおおっ!」


 声を上げたオルトが、ザンっと魔物を斬る。

 魔界の魔物にも決して(ひる)まない、さすがの実力だ。


 しかし、周りにはまだまだ気配がある。


「「「グオオオオオオ!!」」」

「くっ……!」


 基本的に魔物は統率されない。

 魔界の魔物だろうと、その習性は変わらないはず。

 しかし、この魔物たちは決まった行動を取っているように見えた。

 

 ならば自然と思いつく。

 後ろで操る者がいると。


(魔物を操るなんて、あれ(・・)ぐらいしか……!)


 オルトには、それを可能にする隠しアイテムの見当がついていた。

 同時に、それを入手できる人物についても。


(またなのか、ヴォルク……!)


 黒幕の正体には気がついた。

 だが、簡単には手を離せない。

 レベルに付いてこれない生徒を逃がすためにも、オルトは剣を取るしかないのだ。


 そんな時、背中合わせになった者から声が聞こえる。


「行け、オルト」

「エリシア!」


 王女エリシアだ。

 その鋭い観察眼で、彼女は勘づいていた。


「何か手がかりがあるんだろう」

「……! でも、こんな状況じゃ!」

「フッ、安心しろ」

 

 オルトの声に対し、エリシアは無数の盾を浮かび上がらせる。

 絶対的な攻防力を兼ね備える【アイギスの聖盾(たて)】だ。


「私がいる場所で犠牲は出さん。 ──【|天より降り注ぐ聖盾流星群アイギス・ミーティア・アルヴァーナ】」

「……!」

「「「グオオオオオオッ!」」」


 流星群のように降り注ぐ無数の盾は、魔物を次々に押し潰していく。

 その威力は、先の王都騒動よりもさらに増している。

 また攻撃と同時に、聖騎士側の勢力(エリア)を広げるように盾を展開した。


 オルトの心配には“力”で示したのだ。

 すると、もう一方からも声が上がる。


「そうだよ!」

「ルクス!」

「ここでは誰一人死なせない!」


 ルクスの掲げる【光の刃(ケラウ・ソラス)】が青白く光り輝く。

 その光には周りが応えた。


「「「うおおおおおおおお!」」」


 学園生、そして聖騎士の士気が一気に上がる。


 人々に希望をもたらす光。

 原作主人公ならではの唯一無二の力を以て、オルトに示す。

 ここは心配いらないと。


「二人とも……!」


 ルクスとエリシア。

 まるで王国を守護する剣と盾を見ているようだ。

 ならば、オルトは(ほこ)となるべき存在。


 バッと手を伸ばし、ヴァリナ教官が声を上げた。


「オルト、お前はお前にしかできないことをやれ!」

「……! はい!」


 オルトはその場を()り出した──。

 

 



 東拠点近く。


「ど、どうしてあなたがいるのよ……」


 顔をひきつるレイダは、ぶるっと体を震わせる。

 前方から歩いてくる人物が、二度と見たくない人物だったからだ。


「グラウディル……!」

「はははっ」


 元聖騎士のグラウディルだ。


 特殊修練場での一件から、数週間。

 最近、グラウディルは監獄(かんごく)でようやく口を開いたのだ。

 彼が“母の(かたき)”であると。


「脱獄する手立てがあったから、事実を話したの……?」

「そういうことだ」

「この……っ!」


 境界線見学後、レイダはグラウディルを訪ねるはずだった。

 母について色々と聞くために。


 だが、レイダを(もてあそ)ぶように姿を見せた。

 その上、透明な結界により閉じ込められている。


 ──しかし、心強い仲間がいた。


「あの栄光の聖騎士が悪い奴って、本当だったのね」

「リベル!」

「イメージと違いすぎてびっくりしました」

「ミリネも!」


 リベルとミリネである。

 レイダが【神力結界(クローズ)】に引き込まれる瞬間、異変に気づいた二人は迷わず飛び込んだようだ。


 すると、グラウディルも目を開く。


「おっと、ネズミが二匹入り込んだか。さすがは我が母校の生徒」

「生憎、レイダは危なっかしいのよ」


 視野の広いリベルは、しっかりとレイダを見ていた。

 ならば、今やるべきことも理解している。


「ここから出してもらうわ」


 三人は神器を宿し、グラウディルに向ける。

 彼を倒さなければ、結界から出られないと分かっているようだ。


 対して、グラウディルはニっと笑った。


「まさか、私に勝てるとでも?」

「そのまさかよ!」

「……!」


 間髪入れず、レイダが地面を()る。

 戦場で不意打ちなど存在しない。


 だが、瞬時に顕現(けんげん)した【聖剣グラウディル】により、レイダは受け止められる。


「この程度でよく言えたものだ」

「ええ、終わりじゃないからね!」

「……ッ!」


 ただし、単調な攻めではない。

 両者がかち合った瞬間、レイダの後方から二本の剣が飛んでくる。

 レイダの首元すれすれだ。


「ぐっ……!?」


 思わぬ攻撃に、グラウディルは体を後方に逸らす。

 相変わらず並外れた動きだが、態勢が崩れた。

 レイダはそこを一気に突く。


「はああああああッ!」

「……!」


(なんだ、急に力が……!)


 レイダの力が一気に強まっている。

 後方からの強化をもらっているのだ。

 

 二本の剣はリベルの【双翼(そうよく)烈剣(れっけん)】。

 強化はミリネの【恵みの杖】。

 一連の流れは、三人のとっさの連携だ。


 そして、態勢を崩したグラウディルに、最後はレイダが大技を放つ。

 オルトから教えてもらった、原作レイダの最終奥義だ。 


「【神楽(かぐら)(さくら)吹雪(ふぶき)】……!」

「ぐおおっ!」


 重い一閃から、数多(あまた)の斬撃が咲き乱れる。

 以前、オルトがグラウディルを沈めた技だ。

 

「わたしたちも前に進んでいるのよ」


 先の王都騒動では、三人合わせてもヴォルクに及ばなかった。

 その悔しさから、日々オルトに戦いを習っていたのだ。

 

 神器を投げるという発想。

 強化のタイミングによる緩急。

 ユニークな戦術は、オルトが教えたそれである。


 結果、数週間で三人は見違えるほど強くなっていた。


 ──しかし、元“栄光の聖騎士”はそう甘くない。


「ああ、そうか」

「……! ぐぅっ!?」


 倒れたグラウディルから、周囲に突風が巻き起こる。

 レイダの体は浮き上がり、結界(はじ)まで飛ばされた。


 だが、これは攻撃ではない。

 ただの神力による()だ。

 

「できるだけ傷つけたくないのに。愛しのレイダ」

「……っ!」


 すうっと立ち上がるグラウディル。

 不気味な顔を浮かべるその姿に、リベルとミリネも顔をひきつらせる。


「さすがに、強いわね」

「はい。今のも良い攻撃だったはずですが」


 倒すには至らなかったが、確実にダメージは入っているはず。

 そう思いたかった(・・・・・・)


「貴様たちはいらない」

「「……ッ!?」」


 突然見失ったかと思えば、目の前から声が聞こえる。

 グラウディルは、一気に二人の(ふところ)に入ったのだ。

 そのまま回し斬りのように【聖剣グラウディル】を振るう。


私とレイダ(私たち)の邪魔だ」

「「きゃあっ……!」」


 二人は神器で防ぐも、勢いは止まらず結界に強く打ち付けられる。

 速いにも程があるが、瞬間移動ではない。


「“戦術”で聖騎士に(まさ)るとでも?」


 グラウディルは、一瞬わざと神器を輝かせ、二人の目をひそめさせた。

 その隙に神器を消し、迫った上で再度具現化させたのだ。

 元聖騎士の名に恥じない、高度な戦術だ。


「リベル、ミリネ!」

「しばらくは起きんぞ? レイダ」

「くっ!」


 しかし、これはグラウディルの力だけではない。


「ふっふっふ、それにしても素晴らしい力だ」

「……!?」

「ダメージを受けて、ようやく目を覚ましたようだ」


 三人の連携で、確かにダメージは入っていた。

 だが、それが呼び覚ましてしまったのだ。

 グラウディルに植え付けられた、魔人(・・)の力を。


「あの男にもらった力、使わせてもらおう」

「ま、魔人……!?」


 原作知識を持つヴォルクから授かったのだろう。

 グラウディルも“半魔人”のような姿になっていた。

 リベル達に迫った人外のスピードも、この力の影響が大きい。


「危うくやられてしまうところだったよ」

「……ッ!?」

「ね、愛しのレイダ」

「くあっ!」


 魔人の力を行使し、グラウディルはレイダに接近した。

 速すぎる腕で、そのまま襟元(えりもと)を掴む。


 グラウディルは、ニヤアっとした笑顔を浮かべる。


「ああ。やっと私の物になるのか、レイダ」

「何よ、母は殺したくせに……!」

「そうだが?」


 グラウディルは当然かのように答えた。


「あの女は、他の男へ行こうとした。だから殺した」

「……っ」

「しかし君は違う。未来永劫(えいごう)、私が大切にするのだから」

「誰があなたなんかに!」

「おっと」


 だが、レイダは宙返りをしながら、グラウディルの手を離れる。


「相変わらず悪趣味ね!」

「……それ以上抵抗するなら、私も少々お仕置きしなければならないが」

「……っ!」


 ズズズっと、グラウディルから黒いオーラが出る。

 彼本来の神力に、魔人の力が合わさった証拠だ。

 騒動時のヴォルクよりも強いことは、容易に想像できた。


(こんな時、アイツがいたら──いえ、違う)


 その威圧感に、一瞬オルト(想い人)が頭を(よぎ)る。

 しかし、それを振り払った(・・・・・)

 

「わたしは、いつも肝心な所で守られるばかり」

「……!」

「でも、それじゃダメなの!」

「まさか……!」


 レイダの【()(おう)】がまばゆく光る。

 今までとは一線を画す輝きだ。


「だから今回こそは、超えてみせる」


 神力操作の第三段階──“覚醒(エボルヴ)”。

 それは原作では終盤に解放されるものだ。

 だが、学園編で退場するレイダは、その段階に至ることはない。


「あなたとは、わたし自身が決着をつける!」


 すなわち、原作では発現しなかったものだ。

 そのはずが、今ここで覚醒を遂げる。


 レイダが手にしたのは──覚醒神器【()(おう)(りょう)(らん)】。


「勝負よ、グラウディル……!」

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