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第29話 覚醒神器

 「見せてやるよ」


 オルトの剣がまばゆく光り輝く。


 神力操作には、未知の第三段階が存在する。

 その名は“覚醒(エボルヴ)”だ。


「これが俺の“覚醒(かくせい)神器(じんぎ)”だ」

「……っ!!」


 オルトが持つ、神器の剣。

 その刀身部分が、すうっと消えていく(・・・・・)

 やがて残ったのは──“持ち手の部分のみ”。


「……は?」

 

 対して、ヴォルクは目をきょとんとさせた。

 すると、徐々に笑みを浮かべる。


「……は、ははっ。はっはっはっは!」

「どうした?」

「どうしたじゃねえよ! ビビらせやがって!」


 大声で笑ったまま、ヴォルクは平常心を取り戻す。


「そもそも覚醒(エボルヴ)なんて、この時点で出来るはずが無えだろ!?」


 ──覚醒(エボルヴ)

 神器の“真の力”を呼び覚ます、神力操作の第三段階だ。

 覚醒(エボルヴ)を遂げた神器は、“覚醒(かくせい)神器(じんぎ)”と呼ばれる。


 これが原作で解放されるのは、終盤。

 最終章『魔界編』で一度打ちのめされた主人公(ルクス)が、再び立ち上がってようやく手にする代物だ。

 その力は(すさ)まじく、見た目もろとも神器が変化する。


 しかし、オルトの神器はどうか。


「そんなしょぼい小物が、覚醒武器なわけねえだろ!」


 オルトが持つのは、剣の“持ち手のみ”。

 見た目が随分(ずいぶん)とみすぼらしくなっていた。

 まだ、ただの剣の方がマシな程である。


 それでも、オルトは大真面目だ。


「だったら試してみるか?」

「あん?」


 タッグ戦の時と同じセリフを言い放ち、オルトはニッと笑う。

 余裕を持った表情は、まさに強者のそれだ。


 すると、ヴォルクはぴくっと顔をひきつらせた。


「ああ、その武器(ゴミ)ごとぶっ壊してやるよ!」


 ヴォルクは【()(どう)の黒剣】と共に、真っ直ぐ迫る。

 今までは自分が押していたのだ。

 攻め方を変える必要はない。


「……!」


 対して、オルトも正面から受ける。

 神力を出力し、持ち手から“剣の刀身”を形作って。

  

「結局(それ)か? ああん!?」

「……」

「ぐっ、チィッ!」


 答えはせず、オルトはヴォルクの剣を弾く。

 だが、この場面は今までに何度もあった。

 ──違うのはここからだ。


「気を抜くなよ」

「!?」


 たった今、剣だったはずのオルトの神器。

 その形が変わっている(・・・・・・)

 持ち手から先が、“(じゅう)”になっていたのだ。


(──は? なんだそれは)


 ヴォルクは理解が追いつかない。

 こんな神器は原作にも存在しない。

 それでも、見せかけなどではなかった。


「【神力加速圧縮弾(アクセル)】」

「ぐああっ!」


 オルトの銃から極細の神力弾が射出される。

 電撃を(まと)った超威力のレーザーだ。

 それはヴォルクの胸を捉え、勢いのまま空中から地面へと叩きつける。


 しかし、オルトの攻撃は終わっていない。


「寝ている暇はないぞ」

「……ッ!?」


 ヴォルクが顔を上げると、オルトは上空に神器を構えていた。

 今度は弓矢(・・)に変形した神器を。

 ここからはずっとオルトのターンだ。


「【豪雨矢(レイン)】」

「……! ぐ、ぐおおっ!」


 ヴォルクが横たわる場所に、豪雨のような矢が降り注ぐ。

 なんとか体をよじらせて回避するが──そこも罠。

 オルトは剣に変形させた神器を、(さや)に収める動作を見せた。


「【桔梗(ききょう)(いち)(もん)()】」

「ぐああああっ!」


 ヴォルクの回避先に斬撃が発生したのだ。

 それには、レイダも目を見開いた。


(い、今のは……!)


 【桔梗一文字】はレイダの大技。

 それをなぜか、オルトが発動させたのだ。


「ハァッ、ハァッ……!」


 傷を押さえるヴォルク。

 態勢を立て直しながら、“ある仮説”を立てる。

 だが、信じたくはない(・・・・・・・)


(バカな、バカなバカなバカな……!)


 【桔梗一文字】を含め、オルトが今使った技、使った神器。

 これらは全て原作に存在するものだ。


 つまり、オルトの神器は、あらゆる神器に“変形”する。


「覚醒神器──【千の神器(マルチウェポン)】」

「……っ!!」


 前世のオルトは、原作を百周以上クリアしている。

 そのプレイの中で、あらゆる神器を極め尽くした。


 メジャーな剣系、杖系は当然。

 盾系や弓系などのマイナー神器種。

 果ては、縛りプレイとしか思えないほどの神器種まで。


 その経験が、オルトの魂に(ひも)づいている。


「モブも捨てたもんじゃないだろ?」

「ぐっ……!」


 神器具現化(マテリアライズ)は、自身の魂から生み出される。

 だが、それはゲームの設定上の話で、名前付き(ネームド)キャラの神器はこの世界によって決められている。


 しかし、オルトは例外。

 オルトは本来存在しないキャラだ。


 だからこそ、メインキャラのように固定された神器ではなく、前世の経験を受け継ぐ形で、魂から独自の神器が具現化した。


「ふざけるな……ふざけるなよ!」


 対して、ヴォルクは歯を食いしばる。

 

 自分は悪役転生だった。

 選ばれた転生のはずだった。

 圧倒的な力で全てをねじ伏せるはずだった。


 だが、その覇道はモブ(オルト)に阻まれている。

 それだけは許せなかった。


「ク、クソがああああああ!」

「……!」


 ヴォルクはぐるっと体の向きを変える。

 そのまま駆け出したのは、レイダの方向だ。

 

「てめえの弱点は、結局レイダ(こいつ)だろ!」

「きゃああっ!」


 十字架に張り付けられるレイダに、ヴォルクは手を伸ばす。

 ──しかし、届かない。


「そう来ると思ったよ」

「ぐぅあっ!」


 オルトは離れた空中から、ヴォルクの腕に蹴りを浴びせる。

 ゴロゴロっと吹っ飛んだヴォルクに、オルトは神器を構えた。

 

「立て。最後に一つ教えてやる」

「……! てめえ、なんのつもりだあ!!」


 オルトが構えたのは、【覇道の黒剣】。

 ヴォルクと同じ神器だ。


 怒りが頂点に達したヴォルクは、オルトに向かう。


「ざけんじゃねえぞ!」

「──甘い」

「があっ!?」


 だが、ヴォルクは簡単に弾き返される。

 同じ性能なら、ここまで差があるのだ。


 そして、オルトはヴォルクに告げた。


「俺とお前の差は、“推し”の差だ」

「あぁ!?」

「お前は誰かのために(・・・・・・)努力したことがあるのか?」

「……っ!」


 オルトの神力が上昇していく。


「レイダは弱点じゃない。俺は彼女がいたからここまで強くなれた」


 オルトは、レイダを救うために努力をした。

 ヴォルクは、自己満足のために努力をした。

 その差は、やがて大きな力の差を生んだ。


「お前が見ていたのは、結局自分だけだ!」

「……ッ!!」


 二人の【覇道の黒剣】が交差する。

 だが、拮抗(きっこう)しない。

 

「お前の遊戯(ゲーム)はここで終わりだ」

「バ、バカな……」

 

 オルトの【覇道の黒剣】が、ヴォルクの【覇道の黒剣】を砕いた。

 同じ武器での神器破壊。

 これは二人にある圧倒的な差(・・・・・)を表していた。


「ここは現実ということを忘れるな」

「がっ……!」


 オルトは【覇道の黒剣】を以て、ヴォルクを気絶させた。


 そうして──。


「レイダ」

「……!」


 オルトはレイダの方に振り返る。

 彼女の拘束(こうそく)を解き、十字架から解放した。

 お姫様抱っこで迎えながら。


「お待たせ」

「……っ」


 悪役に連れ去られたヒロインを、主人公が助ける。

 まさに王道の物語だ。 


 そして、その後の展開は決まっている。

 レイダは顔を伏せながら、ぼそっとつぶやく。


「……ったく」


 心臓の鼓動がうるさくてたまらない。

 赤みを帯びた頬には、なぜか一筋の涙が流れる。

 それでも、再び上げた表情は自然と緩んでいた。


「遅いわよ。バカ」


 レイダは初めての恋をした──。

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