第28話 真っ向勝負
「もうお前を許さない、ヴォルク!!」
王都を荒らしたヴォルクの元に、オルトが降り立つ。
怒りを露わにして。
すると、十字架に張り付けられるレイダが声を上げた。
「ア、アンタ……!」
「ごめんレイダ。遅くなって」
「いえ! それよりもリベル達が──」
「それは安心して」
オルトはこくりとうなずく。
「二人は送り届けた。傷一つ付いていない」
「……! よかった……」
ミリネとリベルは、体を縛られて放置された。
傭兵達が目を覚まし、危ない場面だったが、オルトがギリギリで到着。
そのまま傭兵達を一掃し、事態を収集させた。
その後、リベル達を送り届け、この北端まで一気に辿り着いたのだ。
一連の流れにおいて、規格外の速さである。
これが怒ったオルトの力だ。
すると、ヴォルクが口を開く。
「ハッ、相変わらずかっけえなあ? モブ」
「……」
「ここで推しを救って王子様ってか?」
対して、オルトは鋭い視線のまま聞き返す。
「お前の目的はなんだ、ヴォルク」
「見て分かんねえか? RPGだよ」
「お前……!」
「ほお、察しが良いねえ」
ヴォルクはニヤリとしながら続ける。
「姫が悪役に連れ去られ、それを主人公が助ける。王道展開ってやつだ」
「……」
「けど、俺は常々思うんだよ」
その身勝手な計画を。
「たまには悪役が勝ってもいいんじゃねえかって」
「……それだけの為に、お前は大勢の人を巻き込んだのか?」
「だけとはひどいじゃねえか。俺だって真剣だぜ?」
「……っ!」
この大がかりな計画も、ただヴォルクが楽しむため。
王道物語の舞台を作り、ここでオルトを倒すためだけに用意されたものだ。
ヴォルクは、自分の欲求を満たすためだけに王都を荒らし、人々を傷つけ、そしてレイダを攫った。
「……そうかよ」
“現実とは思っていない”。
ヴォルクが度々口にするこの言葉が、全てだろう。
ヴォルクはこの世界の人々をゲームの住人だと見下し、好き勝手に弄ぶ。
ならばもう、話し合いは必要ない。
「決着を着けるしかないみたいだな、ヴォルク」
「ああ、だからそう言ってんだろうがあ!」
「……!」
すると、早速ヴォルクから仕掛けてくる。
【覇道の黒剣】を両手に、ただ真っ直ぐに。
「お前はいつも様子見からだよなあ!?」
「ぐっ!」
ヴォルクの速さに、オルトの反応がほんの少し遅れた。
それだけの差でオルトの体が浮き上がる。
そのまま二人は、空中戦にもつれ込んだ。
(こいつ……!)
オルトの反応が遅れたのも理由がある。
ヴォルクの速さが、前回打ち合った時とは段違いなのだ。
成長速度があまりに早すぎる。
攻防は空中に渡り、レイダに聞こえづらい中でオルトは声を上げた。
「ヴォルク、どれを使った!」
「『夜星の巣窟』だよ」
「……! くっ!」
その中で、二人にのみ共通する会話。
すなわち──原作知識だ。
「よりによって、一番厄介なやつかよ」
「当たり前だろ。原作知識と地位は使ってなんぼだ」
夜星の巣窟。
立ち入りが禁止されている危険ダンジョンだ。
ゲーム内では、高難易度コンテンツとして扱われている。
神力の成長方法は、筋トレと経験値。
神力は使うほど総量が大きくなり、強い魔物を倒すほど多く獲得できる。
ヴォルクは公爵家嫡男という立場を使い、そこへ踏み入った。
危険ではあるが、学園では得られない圧倒的成長を遂げることができる。
リスクに合ったハイリターンを得られるのだ。
その力を見せつけるよう、ヴォルクは再度仕掛ける。
「もうお前を超えちまったかあ!?」
「くっ……!」
再び激しい攻防の開始だ。
すると、二人を見上げるレイダに焦りが見られる。
(アイツが、押されてる……?)
会話は度々しか聞こえないが、そう感じてしまった。
ヴォルクが一方的に攻め、オルトは受けに回っているように見える。
逆に、合間に挟むオルトの策は尽く破られているのだ。
「神力の飛礫!」
「なんだこのゴミは! ナメてんのか!?」
「くっ……!」
ヴァリナの神器を壊した飛礫も。
「【黒の波動】」
「ぐぅぅっ……!」
レイダの攻撃をいなした防御も。
今までオルトが見せてきたものは、まるで通用しない。
二人の決定的な違いは──神器だ。
「どうしたんだよ、クソモブ!」
「……っ!」
「この前の威勢はどこいったあ!」
ヴォルクが扱うのは【覇道の黒剣】。
形はシンプルだが、“孤高のメインキャラ”に似合う性能を持つ。
相手に与える一撃が重く、制圧力が非常に高い。
対して、オルトは“ただの剣”。
これといった特徴はなく、神器としては平凡以下。
今まで勝ってきたのは、オルトの素の力が高かっただけだ。
「モブらしい雑魚神器だもんなあ!?」
「ぐぅっ……!」
ヴォルクの重い一撃に、オルトが弾き飛ばされた。
素の力量が縮まった今、神器の差は如実に表れる。
「もう手札はないのかよ?」
「……っ」
部分的な身体強化、神力の飛礫、気配のコントロールなど。
オルトならではのユニークな神力の扱い方は、全て破られた。
そんな小細工は、圧倒的な力でねじ伏られたのだ。
だが、オルトはふっと口角を上げる。
「手札ってのは隠しておくものだからな」
「あ?」
「けど、どうやらここが使い所らしい」
オルトの神器が、まばゆい光を放つ。
その輝きは神器具現化する時の比ではない。
それには、ヴォルクも目を見開く。
「お前なら分かるんじゃないか」
「……バカな、まさかこの時点で!?」
神力操作には段階がある。
第一段階は、基礎的な使用法。
第二段階は、神器具現化。
神器具現化ですら、上位一パーセントの限られた人間しかできない。
それほどに高度な神力操作だ。
だが実は、まだ上が存在する。
それは、この世界でも数えるほどしか到達していない領域。
神力操作の第三段階だ。
「見せてやるよ」
「……ッ!!」
その名は──覚醒。
「これが俺の“覚醒神器”だ」




