第25話 誇り
「何が起きたの……!?」
レイダが咄嗟に声を上げる。
付近で、唐突な爆発が起きたからである。
リベル・ミリネと班を組むレイダは、人助けをしている最中だった。
日常に突然の事態が起きれば、次の展開は明白である。
「「「きゃああああああああっ!」」」
即座に、そこら中から悲鳴が聞こえてきた。
レイダとミリネは左右に首を振りながら、焦った表情を見せる。
「これは……!」
「ど、どうしたら……!」
人々は声を上げ、バラバラに動き回る。
このままでは収拾がつかなくなる。
そんな時、すぐにリーダーシップを発揮する者がいた。
「落ち着きなさい」
「「……!」」
リベルだ。
彼女の王女としての責任感と経験が、ここで活きる。
リベルはさっと周囲を見渡すと、二人に指示を出す。
「まずは近隣の方の避難を最優先に。全部をやる必要はないわ。できることからやるのよ!」
「え、ええ!」
「わかりました!」
リベルに従い、三人はまとまって動き始める。
爆発が聞こえた方面から、人々を遠ざけるように。
「皆さん、落ち着いて東に進んでください!」
「周囲はわたしが見るわ!」
「私は“恵み”を!」
リベルの指示、レイダの護衛、ミリネの援護。
それぞれの役割を全うし、人々を先導する。
これでこそ、聖騎士学園の生徒だ。
──しかし、相手も性格が悪い。
「偉いねえ、ちびっこちゃん達」
「「「……!」」」
レイダ達の後方から、声が聞こえる。
「ちょっとおじさん達とも遊ばない?」
★
同時刻、聖騎士学園の校門前。
「ヴァリナ教官、さらに二班が帰ってきました!」
「了解!」
王都の南端に位置するこの場所で、ヴァリナは指揮を執っていた。
ヴァリナが指示したのは一つ。
近くにいた班は迅速に帰ってこいということ。
しかし、状況は決して良くない。
(一体なんだと言うんだ……!)
他の教員とも連携を取るが、全ての生徒は把握し切れない。
加えて、ヴァリナは板挟みになっていた。
(優先順位は付けられない……!)
聖騎士学園の教官として、生徒を守る立場にある。
だが同時に、一聖騎士としては人々を守る立場にもあるのだ。
生徒を帰すばかりでは、救える人々は減ってしまう。
「……っ!」
いつも余裕を持つヴァリナが、珍しく焦った表情を見せる。
それほどの緊急事態ということだ。
彼女自身もここの監督を任され、動く事が出来ない。
すると、教官の前に一人の少女が立った。
「一つ方法があります、教官」
「お前は……!」
少女の名は──エリシア・ディヴァリエ。
美しき銀色の長い髪。
澄んだ水色の瞳。
白色の肌も相まり、透き通るような容姿の少女だ。
だが、凛とした佇まいは“王家”の風格を持つ。
「私が人々を先導します」
「エリシア……だが!」
「教官はここで生徒を守る務めがあります。では私には、“民”を守る務めがあります。私は──」
エリシアは胸に手を当てる。
「この国の王女として」
「……!」
エリシア・ディヴァリエ。
彼女は、聖騎士学園が建つ『ディヴァリエ王国』の姫である。
そして、原作メインヒロインにして、四新星が一人。
現在は成績“一位”を冠する。
エリシアの持つ誇りが、彼女を動かす。
「しかし、一人で行くには!」
「心得ています。今の私に出来ることも。ですので、あの者を連れて行きたい」
「……!」
エリシアはピッと横を指した。
その方向からは、声が聞こえてくる。
「教官!」
「この人たちを中へ!」
指した方向から帰ってきたのは、オルトとルクスだ。
その後方には、王都の人々も見える。
仕事をしていた近隣の者を避難させて来たのだろう。
さすがの素晴らしい働きだ。
「少しいいですか」
「「……!」」
避難民は他の教官に預ける中、エリシアは二人の方に声をかけた。
「もう一度、外に出る力は残っていますか」
「あ、あります!」
「俺も──」
「いえ」
だがエリシアは、オルトに対しては首を横に振る。
「あなたは単独で行動するのでしょう?」
「!」
「顔に書いてありますよ」
「……っ」
図星だ。
オルトはこの後、一人で抜け出してでも行動を取るつもりだった。
エリシアはお見通しと言わんばかりの目で、もう一方を見る。
「私が連れていくのは、ルクスさんです」
「え、僕を!?」
ルクスの現成績は、中間より少し下。
決して良いとは言えない順位である。
だが、エリシアはルクスを買っているようだ。
「あなたには人を導く力がある」
「……!」
「どうか来てくれませんか」
「はい、全力で!」
原作主人公らしく、ルクスも人を放っておけない。
一瞬も迷うことなく、はいと答えてみせた。
「お前達……わかった」
態勢は決まった。
ならば、ヴァリナも決断を下す。
「責任は私が取る。お前らも聖騎士を目指すなら、人々を助けてみせろ!」
「「「はい!」」」
★
再び、レイダ達の戦場。
「ちょっとおじさん達とも遊ぼうよ」
後方から聞こえた声に、レイダ達は振り返る。
屋根の上に立っていたのは、複数人の男達だ。
「おじさん達──“傭兵”ともさあ」
「傭兵……!」
傭兵とは、公的立場の聖騎士とは違い、人に直接雇われて戦闘を行う者。
善にも悪にもなる傭兵だが、彼らの目的は一つ。
金銭的報酬だ。
つまり、彼らには裏で操る者がいる。
「って、それだけじゃないわね」
リベルは目を細めた。
中には、ちらほらと見たことのある顔があるのだ。
その誰もが“悪い話”である。
おたずね者に手配犯、賞金首なんて者までいるようだ。
そんな彼らに共通するのは──ただ強い。
「……学生だからってナメられたものね」
だが、リベルは全く臆してはいない。
すると、隣のレイダもふっと笑った。
「珍しく息が合ったわ」
「あら、そうだったかしら」
二人は、ここでやる気だ。
ならば、後方のミリネもぐっと力を入れる。
「私も、やれます……!」
「ええ、信じてたわよ!」
ミリネとレイダ、二人が神力を灯す。
ミリネには【恵みの杖】。
レイダには【紫桜】が宿った。
そして、リベルも両手を掲げる。
「さあ、いくわよ」
両手に収まるよう現れるのは、二つの短剣だ。
全体的には神々しい白色。
持ち手には翼を生やし、左右には赤と青のワンポイントの線も入っている。
その神器の名は──【双翼の烈剣】。
「ここは行かせない!」
三人の神器が出揃い、レイダが宣戦布告した。
「聖騎士の“誇り”にかけて……!」




