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第18話 格の違い

 「しょぼい(じん)()と言ったか?」


 ヴォルクの重い大剣を、オルトはただの剣で弾く。

 その何の変哲もない剣を向け、オルトは言葉を付け足した。


「お前にはこれで十分だ」

「ほお……?」


 対して、ヴォルクは顔をひきつらせる。

 モブだと思い込んでいるオルトに、まさか弾き返されるとは思わなかったのだ。

 ならばと、ヴォルクも力を見せる。


随分(ずいぶん)と調子に乗ってるみてえだなあ!?」


 ヴォルクは爆発的に神力を増幅(ぞうふく)させた。

 さらなる身体強化を(ほどこ)し、神器の密度も上げる。

 今の攻防よりも、神器は数段硬化されている。


「この、井の中の(かわず)があ!」


 しかし、その程度はオルトも当然のようにできる。


「その言葉、そっくりそのまま返すよ」

「バカな!?」


 同じく神器の密度を高め、真っ向から抑えてみせた。

 だが、ギリっと歯を()みしめるヴォルクは猛攻を開始する。


「チィッ! 生意気なクソモブが!」

「……!」

 

 激しい(らん)()だ。

 【()(どう)の黒剣】は、実はそこまでの重量は無い。

 だが、固有の特殊効果により、相手にだけ重い一撃を与える。


「オラオラ、さっきまでの威勢はどうした!」

「……っ!」


 ヴォルクもその性能を理解しているのだろう。

 作中随一(ずいいち)の重さを誇る攻撃を、これでもかと押し付けてくる。


 加えて、ヴォルク自身の強さも相まり、剣筋は“速くて重い”。

 その単純な言葉で表すにふさわしく、小細工が一切ない強さだ。


(これが悪役転生ってわけか……!)


 本来は努力しない悪役が、努力してさらに強くなる。

 王道の悪役転生の道筋を、ヴォルクも辿(たど)ってきたのだろう。

 その証拠に、現時点で持ち得る力とはとても思えない。


(これは数カ月どころの話じゃないな)


 おそらくオルトと同じ二年間。

 もしくは、それ以上前からヴォルクに(ひょう)()していたと考えられる。


 それほどに、同級生では飛び抜けた実力だ。

 ──オルトという異分子(イレギュラー)を除けば。


「もう十分だ」

「……ッ!?」


 激しい乱舞の中、またもオルトがヴォルクの剣を弾く。

 ほんの一瞬にも満たない、刹那(せつな)の隙を突いたのだ。


「お前の実力は分かった」


 制限時間が迫る中、オルトもただ防御に回っていたわけではない。

 原作から逸脱(いつだつ)したヴォルクの力を計っていたのだ。


 その結果──


「脅威にはならない(・・・・)

「んだと……!?」


 自分を上回っていることはないと判断した。

 すると、オルトは立場を明らかにする。


「お前に特に恨みはない。でも一つ忠告しておく」

「……!」

「もしレイダに手を出すなら、俺はお前を許さない」

「……!?」


 対して、ヴォルクは目を見開いた。


(なんだこの力は……!?)


 オルトの神力が上昇していく。

 すでに全力を出しているヴォルクなど話にならない。

 姿形は変わらないが、ヴォルクはその威圧感に背筋を凍らせた。


(こ、こんなの、シナリオ終盤クラスじゃ……!)


 そう思えるほどに圧倒的な存在感だ。

 ヴォルクの目の前にいるのは、文字通りの“化け物”である。


 そして、今度はオルトからヴォルクへ迫る。


「せいぜいおとなしくしていろ」

「……ッ!?」


 ヴォルクもとっさに防御するが──受けきれない(・・・・・・)

 オルトの神器が、ヴォルクの【覇道の黒剣】を破壊したのだ。


(神器破壊、だと……!?)


 以前、ミリネに絡んできた上級生に対して行ったものだ。

 ここから導かれるのは、二人の神力量には圧倒的な差がある(・・・・・・)ということ。

 神器破壊は、精神に多大なダメージ(メンタルブレイク)を与える。


(このモブが、俺より上だと言うのか……!?)


「ぐっ……」

 

 神力を消費し過ぎたのか、ヴォルクは膝をつく。

 自然と、オルトが上から見下ろす形になった。


「悪い事さえしなければ、俺も口出しはしない」

「……!」

「その転生を楽しむんだな」

「……っ!!」


 警告を残し、オルトはヴォルクに背を向けた。

 その方向から、推しが走ってくるのを感知していたからだ。

 状況を目にしたレイダは、はっと声を上げた。


「ア、アンタ……!」

「なんとか勝ったよ」

「な、なんとかって……」

 

 だが、そう言うには少々無理がある。

 膝をついているのが、現成績一位のヴォルク・ナイトフォール。

 それを下してなお、オルトは余裕を保っているからだ。


「……フッ、まあいいわ」


 それでも、レイダは笑みを浮かべた。

 それでこそ“自分が目指すべき道”だと思ったのだ。


 オルトは、最後にヴォルクを目を向ける。


(あれ)はもらっていくよ、ヴォルク」

「……ッ!」


 転生関連の話はしない。

 他人にバレるのは、双方にメリットがないからだ。


 タイミングよく戦闘が終わったのも、オルトが計算していたのかもしれない。

 レイダが勝利し、ヴォルクから目的を聞き出した上で、転生の話を聞かれる前に決着させるまでの時間を。

 

 どこまでも底が知れない少年だ。


「じゃあ、レイダ」

「ええ」


 そうして、オルトとレイダは同時に(フラッグ)を手にした。


 制限時間は残り五秒。

 ギリギリの中、オルト達の勝利だ。


「やったわね!」

「ああ!」


 二人は強く(うなず)き合った。

 お互いの成果を称えるように。


「と、ところで、レイダ」

「ん? なによ」


 そんな終わりを迎えた中、オルトはふとたずねる。


「その、例の件(・・・)は……」

「何の話──って、ハッ!」


 レイダはタッグ戦に夢中で忘れていた。

 勝利したらオルトと「友達になる」という件を。


「そ、それは……って、~~~っ!」


 すると、レイダは途端に顔を真っ赤にする。

 なんて恥ずかしい事を言っていたんだと自覚したようだ。


(『アンタはなりたいの?』って、なに!?)


 友達について、レイダは“恋人一歩手前”という程に重く考えている。

 冷静になった今、素直にYESと言えるわけがない。


「レ、レイダ?」

「うっさい! ちょっと黙ってなさいよ!」


 真っ赤な顔を(おお)ったまま、レイダはがおーっと(にら)む。

 今思えば、約束した時のレイダは精神的に弱っていた。


 友達になろうとすら言えず。

 オルトの足を引っ張り。

 自分のせいで一時はピンチに陥った。


 嫉妬(しっと)(しょう)(そう)、自分の不甲斐(ふがい)なさ。

 それらがレイダの本心を引き出したのだ。

 しかし、今はとても言い出せない。


(でも、でも~~~!)


 “一度言った事を()じ曲げる”。

 それは自分の騎士道に反する。

 騎士に二言はない。


 ならばと、レイダは折衷(せっちゅう)(あん)を選択した。


「今日の夜、第三公園!」

「え?」

「夕食後だから! 分かったわね! じゃあわたしは行くから!」

「ちょっ、レイダ!?」


 そしてそのまま、真っ赤な顔を抑えてぴゅーっと逃げ出す。

 タッグ戦の後にもかかわらず、あまりに元気だった。


「う、うん……わかった」


 こうして、タッグ戦は終了した──。

次回、ご褒美回の予感……?


初日の更新はここまでです!

明日(3/8)からは、毎日7:10、12:10、19:10に更新していきます!

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