第15話 相性の良い二人
「──行こう、レイダ」
タッグ戦が開始され、オルトはめちゃくちゃかっこつけて戦場に入る。
オルト達のタッグ戦は、クラスの最終組み合わせ。
加えて、クラスを賑わせている者たちの戦いだ。
自然と注目も集まっていた。
だが、後ろのレイダの距離が遠い。
「レイダ?」
「うっさい! い、今いくわよ!」
「お、おう」
タッグ戦のルールは、旗取り対決。
制限時間内で、攻撃側が旗を取るか、防御側が守り切るかで勝敗が決まる。
オルトとレイダは、攻撃側だ。
「防御側のルクス達はすでに配置に付いてる。攻め方はさっき言った通りな」
「……え、ええ」
戦場は、広大な森。
学園内の人工施設のため、魔物はいない。
攻撃側のオルト達は南端からスタートし、北端の旗を目指す。
防御側のルクス達は、どこに居ても良い。
オルト達の現在地点は、南端から少し進んだ場所だ。
だが、早速相手が仕掛けてくる。
「レイダ!」
「……!」
オルトが真っ先に攻撃に気づき、二人は回避した。
二人が立っていた場所には、しゅうううと煙が立っている。
「自動型の神力銃か……!」
これはルクス達本人の攻撃ではない。
『神力具』と呼ばれる、神力を込めて扱う道具だ。
その内これは、前世で言うオートタレットのようなもの。
範囲内に二人が侵入したことで、反応したのだろう。
このタッグ戦は、基本的に攻撃側が有利。
そのため防御側は、事前に一定の神力具を配置できる。
それを初手に配置してきたようだ。
「しかも、ここに全部配置したのかよ」
それも、最初に全て。
戦場がいきなり“神力具の森”と化したわけだ。
レイダはオルトの後ろで立ち上がる。
しかし、その顔をひきつらせていた。
(わたしが、神力具程度に反応できないなんて……!)
気が抜けていたことを自覚したようだ。
顔をパンっと叩き、もう一度前を向く。
(集中、集中──)
「レイダ、背中合わせになるぞ!」
「ひゃあっ!」
「……!?」
だが、オルトの背中がピタっとくっ付くと、レイダは飛び跳ねた。
そのまま顔を真っ赤にして声を上げる。
「きゅ、急に言ってくんじゃないわよっ!」
「ご、ごめん」
しかし、急ではない。
(事前に打ち合わせしていたはずなんだけど……)
タッグ戦開始前に、二人は作戦会議をしていた。
その時レイダもうなずいていたはずだが、聞いているようで上の空だったのだ。
そうなれば、連携がうまくいくはずもない。
「レイダ、弾が行ったぞ!」
「……」
「レイダ!」
「……ッ!?」
レイダの反応が遅れる。
まずいと思ったオルトが、慌ててフォローに入った。
「うぐっ!」
「アンタ……!」
まさかレイダが回避できないとは思わず。
咄嗟のことでオルトも弾き返せず、ただ体で庇った形だ。
神力の弾がオルトに着弾してしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫、問題ない」
傷は負ったが、致命傷ではない。
すぐに立ち上がると、オルトはレイダに声をかけた。
「それよりも、一旦ここを離れよう」
「……っ」
今の状態では危険だ。
オルトの表情はそう物語っていた。
★
「ふむ、どうしたものか」
戦場を眺めるヴァリナは、腕を組みながらつぶやいた。
首を傾げているのは、予想外の展開になっているからである。
「仲違い……というわけでもなさそうだが」
注目するのは、やはりオルトとレイダのタッグ。
担任教官という立場では言えない。
だが私情では、二人のことは特に目を向けていた。
主に楽しみという点で。
「見せてくれ、お前達の力を」
ヴァリナは二人に可能性を見出している。
そのために厳しくもするし、共に頭も下げられる。
だからこそ、この後の立ち直り方にも注目する。
「お前達は相性が良い」
同時に思い出すのは、試験時の事。
あの時からヴァリナは確信していた。
「お前達は聖騎士の希望になれる」
★
「こっちだ」
オルトが先行し、二人は初期地点まで戻って身を潜めた。
この間も、刻一刻と制限時間は迫っている。
本当は少しでも前に進みたいところだ。
それでも、オルトはこの時間が必要だと考えた。
「レイダ、大丈夫?」
「な、なにがよ」
「その、調子が悪そうと言うかなんというか」
「……」
不意打ちだったとはいえ、所詮は簡単な神力具だ。
他の者ならまだしも、レイダが回避できないはずなかった。
調子が悪いのは明らかである。
(わかってるわよ、そんなこと……)
それはレイダ自身も自覚していた。
対して、オルトは言葉を続ける。
「ごめん。急に友達みたいな事言って」
「……!」
「でも、もし何かあるなら──」
「ねえ」
「え?」
だが、運が良いのか、オルトは口にしていた。
レイダがずっと気にしていた“友達”という言葉を。
「アンタはなりたいの? 友達に」
「レ、レイダ!?」
(こんなこと言う子だっけ!?)
原作では見られるはずがない態度だ。
思わずオルトも戸惑う。
「……さっさと答えなさいよ」
「!」
(真剣に聞いてる……)
だが、レイダの声色にそう感じた。
ならばと、オルトも固唾を飲んで答える。
「な、なりたいです」
「……!」
「あ、でも、これはただのおこがましい願望というか──」
「ふふっ、そっか」
すると、レイダの口元が緩んた。
そのまますっと立ち上がると、オルトに背を向けて口にする。
「いいわよ」
「え!?」
だが、オルトは目を開いて固まる。
それにはムッとしながら、レイダはもう一度言葉にした。
「仕方ないからなってあげても良いって言ったの! その、と、友達に!」
「……!」
「でも、このままじゃ気分が悪いわ」
レイダは前に視線を向ける。
「このタッグ戦に勝ったらね」
「あ、ああ!」
「……ったく、どんだけ喜んでるのよ」
友達になりたかったのは、むしろレイダの方だ。
だが、いつの間にかレイダが許可する形になっている。
これも二人らしいやり取りだ。
そして何より、オルトは安心した。
(よく分からないけど、いつもの調子に戻ったな)
レイダの表情がすっきりしている。
まるで感情のしこりがなくなったように。
今のレイダは、いつもの頼もしい彼女と同じだ。
(こんな簡単なことでぼーっとして、わたしったらバカみたい)
“オルトも自分と友達になりたかった”。
それが確認できただけで、すっと心が軽くなった。
自分でもびっくりする程、単純である。
「迷惑かけたわね」
「全然!」
ふうと一息ついたレイダは、【紫桜】を具現化させる。
今の彼女に迷いは一切ない。
同じく、剣を神器具現化させたオルトは時計を確認する。
「残り時間は五分だ」
「……! ふふっ」
「レイダ?」
すると、レイダはふっと笑みを浮かべた。
「なんだか、入学試験の時みたいね」
「ああ、かもな」
二度目の共闘だ。
制限時間が迫る中、二人の逆転が始まる──。




